リアルとデジタルの融合が課題と言われる中、顧客接点の一つとしても注目を集めているメタバース。エンターテインメント性を取り入れたゲーミフィケーションやアバター経済など多岐にわたる活用法が挙がる中、国や先進企業はどのような取り組みを行っているのだろうか。FIN/SUM2023の会場で、EYストラテジー・アンド・コンサルティングの荻生泰之氏をモデレーターに、各界でメタバースやWeb3の推進に取り組む衆院議員の塩崎彰久氏、アフラックの松尾栄一氏、dacadooのピーター・オネムス氏、The Sandboxのセバスチャン・ボルジェ氏が議論した。
塩崎 彰久氏(衆院議員 自由民主党 デジタル社会推進本部 web3 PT事務局長)
規制の明確性が国の競争力を左右
「2022年には自民党デジタル社会推進本部にNFT(非代替性トークン)などに関するプロジェクトチームが立ち上がり、政府の政策にもWeb3やメタバースの概念が盛り込まれました。世界では暗号資産の暴落もあり、規制強化が進む中、日本はビジネスの環境が整った国の一つになっています」
「Web3やメタバースはさらに普及し、普通の人々がバーチャルリアリティー(VR)の世界を楽しむ時代が来るでしょう。デジタル空間での商品デザインなどを保護する不正競争防止法の改正案を国会に提出するなど、時代の転換点で政治も役割を果たすことを目指しています」
「将来、自分の行動データを自らのデジタル資産として管理する時代になります。ブロックチェーン、人工知能(AI)など新しい技術が発展し、大衆化するフェーズでは、規制の明確性が国の競争力を左右する時代が来ると予想します。クリプトウィンター(暗号資産市場の低調期)を乗り越え、日本が春を迎える国となるよう政府与党挙げて取り組みます」
松尾 栄一氏(アフラック生命保険 執行役員)
没入感を利用し、顧客体験を進化
「保険会社がメタバースに取り組む利点に顧客接点の拡大があります。例えばメタバース上のデジタル保険ショップを活用し、10代の女性など新しい顧客層に向けても保険提案できると考えています。メタバース上では没入感を利用し、顧客体験を進化させることも可能です。将来起こりうるイベントをバーチャル体験することで、保険のニーズにつなげていくといったサービスを開発しています」
「デジタル化による保険契約管理業務のプロセス改善も、メタバースと親和性が高いテーマです。メタバースと現実世界を行き来しながら、必要な情報がすぐに吸い上げられる仕組みを作ることが目標です」
「人々がメタバースに引き寄せられることで、経済圏が発展し、インフラとしての役割を果たします。既にメタバースでは土地取引などの経済活動が行われており、遊びや学び、経済活動など無限の可能性があります。国民に積極的に活用されていくことで、さらなる発展が期待できるでしょう」
ピーター・オネムス氏(dacadoo 代表取締役社長兼CEO兼会長)
多彩なコンテンツでエンゲージメント強化
「Web3時代には、個人に合わせてパーソナライズされた保険商品をはじめますます新しいサービスが登場するでしょう。dacadooでは顧客の健康状態が即時に分かるヘルスケアプラットフォームを提供していますが、今後AIなどの先端的な学習システムが組み合わさることで、よりパーソナライズされたサービスが提供できます」
「当社はユーザーの健康状態を『ヘルススコア』として数値化し、健康リスクの把握にも役立てます。『デジタルヘルスコーチ』として個別の健康改善のアドバイスを提供したり、ゲーミフィケーションやユーザーの交流、ポイント獲得など多彩なコンテンツでエンゲージメント強化に務めています。世界の保険会社のうち35社がdacadooを利用しており、うち4社は日本の保険会社です」
「例えば私が希少な血液型を持つ人だったとすると、自身の情報を提供し、医療研究に貢献し、保険料を下げることができます。Web3は透明性があり、分散化されているため、誰もが安心して恩恵を受けることができます」
セバスチャン・ボルジェ氏(The Sandbox 共同創業者COO)
不動産売買など多様な可能性を開拓
「The Sandboxはメタバースのプラットフォームであり、多様な仮想世界においてゲームを提供しています。ユーザーはアバターを使ってアクセスし、ソーシャルで臨場感のある世界に入ることができます。アバターやデジタル資産を所有・交換し、収益化することも可能です」
「現在450万人のユーザーと400のパートナー企業、100のコンテンツやブランドが参加しています。ユーザーはノーコードで自分のキャラクターを作り、様々なコンテンツ上で使用できます。分散型台帳技術によって、作成したデータをNFTとして所有でき、創作活動からのメリットを十分に得られるようにしたいと考えています。それによりエコシステムをより成長させられるでしょう」
「教育関係のパートナーとともに、メタバースのクリエイターになるための教育も提供しています。また不動産の売り買いなどの場もバーチャル空間で実現する仕組みを整備するなど、多様な可能性を開拓しています」
荻生 泰之氏(EYストラテジー・アンド・コンサルティング ストラテジックインパクト フィンテックリーダー/ブロックチェーン・コンサルティング・ビジネスリーダー/パートナー)
リアルとつなげ新しいビジネスを創造
「企業活動やスポーツ・エンタメ・ゲームなどに使われる仮想空間、メタバースの市場規模は、日本では2026年に1兆円超、世界では2024年に104兆円に達すると言われています。分散処理を特徴とする民主化されたインターネット、Web3と組み合わせることで相乗効果が生まれ、新しいサービスが生み出されるでしょう」
「岸田総理は、メタバースやNFTを活用したWeb3サービスの利用拡大や地域活性化に取り組みたいと表明しています。政府与党はWeb3などに関係したホワイトペーパーを用意しており、今後の取り組みが期待されています」
「メタバースは遊びの場になるのもよいことで、若い頃から興味を持って触れてきた方が増えればより発展させられるでしょう。こうした技術は、国として育てていくべきことかと思います」
「きょうの議論を通じ、メタバースとWeb3は親和性が高く、リアル世界とうまくつなげることができれば新しいビジネスを創造でき、更には、人々の生活や健康にも寄与できると確信しました」