日経メタバースプロジェクト

メタバース 人口減少に対応 2023年日経メタバースプロジェクト 第2回 未来委員会

地方創生 メタバース 少子高齢化

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日経メタバースコンソーシアムでは、メタバースを新しい社会のインフラへと成長させていくため、その実現に向けた課題や取り組みなどを検討・議論する日経メタバース未来委員会を開催している。2023年10月5日に行われた第2回未来委員会では、日本の社会課題である少子高齢化と人口減少、地域活性化に対し、メタバースがどのような関わりを持ち、解決へと導く力となり得るのか、意見を交換した。

社会実装へ施策加速

――今回は日本が抱える社会課題に対して、メタバースの可能性について話し合っていきたい。最初に広瀬座長の考えを聞かせてほしい。

広瀬 日本は課題先進国といわれ、様々な社会課題を抱えているが、その原因を探っていくと、高齢化に行きつく。生産年齢人口が減少し、人口ピラミッドが逆さま状態となり、若者が高齢者を支える社会モデルが限界を迎えている。人口構成が富士山型であった高度経済成長期は高齢者対応として医療・福祉に関わる技術開発が求められたが、超高齢社会では元気な高齢者が活躍できる社会システムの構築が不可欠だ。

また少子化による人口減少によって、日本の総人口は100年後には5000万人くらいに減ると予測されている。2014年に「消滅可能性都市」が大きな話題となったが、人口減少は地方都市を疲弊させ、リアルコミュニティーとして成り立たない状況へと追い込む。そこで人口が減少する地方都市を、縮小均衡でなく支えていく社会をつくる必要がある。

こうした社会課題に対し、メタバースが特効薬となるのではないか。そこで我々に新しい活動空間を与えてくれるメタバースにどんな可能性があるか、議論したい。

――政府は、メタバースの活用などデジタル化政策を加速させている。

山野 メタバースをはじめ、様々なデジタル技術を活用して、少子高齢化や地域活性化に関連した課題解決の取り組みを進めることは、全省庁の大前提だ。総務省では行政サービスの利便性向上や業務効率化を図り人的資源をさらなるサービス向上につなげるなど、自治体デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進にも積極的に取り組んでいる。

これら社会課題への対応として、メタバースはとても有効だと思う。インクルーシブ(包括的)な社会の実現が求められるなか、メタバースは地理的、身体的、時間的な壁を取り払ってくれる。例えば、自治体サービスを窓口にいかなくても、自宅からメタバース上で受けられれば、高齢者や移動に困難を抱える人にとってやさしい仕組みの選択肢となる。また地方にいながら東京にいるのと変わらない環境のような、メタバースでいい意味での分散型社会が構築できれば、地方創生を促していくことが可能だ。

総務省ではメタバース関連技術の標準化や相互運用性の確保に向けた支援に加え、国際的な議論に貢献することを目的に、10月から「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会」をスタートする。メタバースには国境がないので、日本企業がデファクトを取って世界をリードできるように後押ししていく考えだ。

――3D都市モデル「PLATEAU(プラトー)」の活用状況は。

内山 例えば、広島市では相生通りのウオーカブル空間化というアイデアが民間から出てきているが、その未来のビジョンをプラトーを使ってビジュアルにわかりやすく可視化することで、行政や市民との対話に役立てている。

名古屋市では暑熱適応のまちづくりに向け、プラトーを活用した気候変動影響シミュレーションを実施した。建物の形状や情報などを使って熱流体を解析することで、エビデンスに基づいた将来予測が可能となり、多様な利害関係者間の円滑な合意形成につながっている。プラトーの整備都市は今年度中には200都市に拡大し、そのすべてのデータがオープンデータとして提供される予定だ。地域やビジネスの領域でプラトーを活用した魅力的なサービスの開発を促し、その社会実装を推し進めることが重要になる。

国土交通省では、従来の国主導のプロジェクト推進体制から自治体、民間企業、コミュニティーなどの多様なプレーヤーがフラットに連携して取り組みを進める「プラトーエコシステム」構築に向け、施策を加速していく考えだ。

広がるアバターの活用

――社会課題解決につながるメタバースの活用事例を紹介してほしい。

浅野 TOPPANは長年印刷で培った技術やノウハウを生かし、XR(AR=拡張現実、MR=複合現実、VR=仮想現実と呼ばれるメタバース関連技術の総称)ソリューションを提供してきた。その蓄積を生かし、メタバース基盤「MiraVerse(ミラバース)」を核に、お客様が伝えたい地域や自社商材の情報を正しく、魅力的に発信する支援を行っている。

そうした支援サービスの一つに「ストリートミュージアム」がある。国内最大級のXR観光プラットフォームアプリで、既にダウンロード数は20万以上となっている。史跡を復元したVRなどを観光資源にして地域の活性化へとつなげることが目的。例えば史跡に指定された城跡に行ってスマートフォンをかざすと、現在の風景に今はなき往時の姿の天守閣などのVR/AR映像を重ねて見られる新しい鑑賞体験が可能だ。音声ガイドを組み合わせた謎解きツアーなども実施されている。現在松本城などの国宝5城を含む、47の史跡を掲載している。ストリートミュージアムは仮想体験だけでなく、情報発信メディアとしても活用され、外国人観光客の行動誘発や起爆剤となっている。

またアバターを用いて遠隔で接客するサービス「NARiKiRU(ナリキル)」の導入事例も増えている。滋賀県東近江市の「東近江エリア滞在型モデル実証事業」では、神社仏閣をめぐるリアルツアーの遠隔ガイドとして採用されている。離れた場所から3Dアバターを通じて、観光客と双方向でリアルタイムに会話をしながらの接客対応が可能だ。アバター接客は少子化による労働力不足の解消につながるサービスとして、今後ショールームの案内係や店舗での説明員など、様々な分野での活用が期待できる。

――新たな活動空間としてはどうか。

宮川 大日本印刷ではリアルとバーチャルをつなぐメタバース構築サービス「PARALLEL SITE(パラレルサイト)」を提供している。以前はXR技術を使って何ができるか、技術先行の取り組みが多かったが、最近流れが変わってきた。地方創生やメディカル・ヘルスケア、教育などを担当する社内部門から、メタバースを活用したいと声がかかるようになった。

例えば、9月から東京都で不登校や日本語指導が必要な児童・生徒に対して、3Dメタバースで「バーチャル・ラーニング・プラットフォーム」の試験運用を開始した。東京都には不登校の児童・生徒が約2万7千人、日本語指導が必要な児童・生徒が4千人強いる(22年度)。3Dメタバース内でアバターを使って活動できる場を提供することで、児童の参加意欲や学力の向上を図ると同時に、人的リソースの効率的な運用につなげていくのが東京都の狙いだ。同事業を通じて、メタバース空間を活用した新しい教育機会の創出や探究的な学びの広がりを目指していく。

また三重県の隣接する5自治体(多気町、明和町、大台町、度会町、紀北町)が広域連携して、1つのデジタルフィールドを形成し、産官学共同で様々なサービスの提供をする「美村(びそん)」プロジェクトを支援している。今年1月からデジタル地域通貨「美村PAY」をスタート、2月には地域情報を発信・共有する地域ポータルサイトやまちの魅力を発信する観光ポータルサイトを立ち上げた。単独では実施困難な取り組みも、デジタル技術を活用した広域連携によって挑戦可能となった好例だ。観光と生活の両面から魅力あるまちづくりを一段と推し進めるため、メタバース活用の検討も始まっている。

高齢者の活躍促す場に

――産業向けメタバースの進捗はどうか。

田中 技術進化のスピードは一段と加速している。工場のデジタルツイン構築を行う際、レイアウト設計などに生成AI(人工知能)を活用している。アバターに会話させるのにも生成AIを使っている。またクラウドベースでXRを使うことも実用段階に入ってきた。メタバースに関わる3D技術の国際標準化も進んでおり、来年には実際の工場とデジタルツインの工場をリンクさせて動かす取り組みも始まりそうだ。

――メタバースと生成AIなどの先進技術を組み合わせることで、ほかにどんな可能性がありそうか。

天野 元気な高齢者に活躍してもらえる場がつくれる。人間は誰もが老いを感じるようになる。そこで、物理的に制約されないアバターを活用すれば、高齢者を現役バリバリの労働力に変換することが可能だと思う。アクティブシニアを人材と捉え、彼らの持つスキルを組み合わせて、メタバース上で一人の働き手として活用する「高齢者クラウド」は大いに期待できる。

また高齢者の持つ豊富な知識や経験を、生成AIに学習させて、若者の相談に乗る「高齢者版チャットGPT」がつくれるのではないか。生成AIは質問者の知識レベルに応じた回答を返すが、高齢者の知識や経験のビッグデータを媒介させることで、より精度の高い回答を提供できるはずだ。

もう一つ注目しているのが、地域通貨。本来地域通貨は地域内の消費を促進し、地域経済を活性化するのが目的だが、地域通貨をデジタル化することで、離れた場所にいる人でも活用できる仕組みにすれば、地域とのつながりを深める手段になり得る。例えば、外国人観光客が来日前や来日後にも地域通貨が使えれば、観光誘致やリピーター化に効果がある。

――メタバースは地方創生を促すきっかけになる。

橋本 今世界中から日本の知的資産(IP)目掛けて来訪者が来ている。例えば、漫画の舞台となっている場所へ、聖地巡礼として訪れる人は多い。地方都市の持つ魅力をデジタルコンテンツ化して、アピールすれば、インバウンド促進につながるはずだ。今こそ、爆買いより、伝統・文化やコンテンツへと日本の魅力を誘導するチャンスだ。

価値観や行動様式が多様化する現在、地方にしかない魅力を発信することで、人々の行動変容を促す効果があるし、メタバースは新たなつながりを生む場としての可能性を秘めている。

――最後に広瀬座長にまとめをお願いしたい。

広瀬 今日はメタバースを活用した事例をたくさん聞くことができ、社会実装に向けた動きが活発化し始めたと感じた。高齢者の社会参画と人材不足の解消、デジタルコンテンツ化と観光振興、3D都市モデルの活用と地域創生など、いずれもメタバースが社会課題解決の力となり得ることを示している。また生成AIのコンテンツ製造力がメタバースに大きな力を与えることもわかった。

課題先進国日本がメタバースという社会基盤の上で、解決策を示せれば、それはデファクトになるに違いない。引き続き、メタバースが可能にする新産業、新サービスについて注目していきたい。

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