まだ食べられるのに廃棄されてしまう「食品ロス」。農林水産省によると国内の排出量は2021年度に約523万トンに達した。日本経済新聞社と日経BPは23年12月4〜8日、SDGs(持続可能な開発目標)について議論するイベント「日経SDGsフェス」を開催する。初日のトークセッションには、外食や中食の店舗で廃棄される食品を割安に購入できる注目のアプリ「TABETE(タベテ)」を手がけるコークッキング(埼玉県東松山市)最高執行責任者(COO)の篠田沙織さんが登場する。幼いころに白血病を患い食事制限に苦しんだ経験を原動力に、食品ロスを防ぐ仕組みづくりを追究する篠田さん。社会課題解決の取り組みを広げるカギは「ポップなSDGs」だという。
「福袋式」で出品
――「TABETE」の仕組みについて教えてください。
「TABETEに登録している飲食店がその日に廃棄されてしまいそうな食品を出品。ユーザーはアプリで出品されている商品を探し、受け取る時間を指定して事前決済の上で店舗に行きます。お気に入りとしてブックマークしたお店や現在地付近で出品があるとアプリのトップページで表示される機能もあります」
「特徴は『福袋式』の出品を推奨していることです。TABETEは食のサプライチェーンのなかでも消費者に近い外食、中食を取り扱っています。当日賞味期限や消費期限が切れるものが多く、その日に何がどれくらい余るかということは、閉店直前になるまで見極めにくい。お店としてはおまかせで詰め合わせる福袋にすることでオペレーションがシンプルになり、ユーザーにも『中身がわからないのがワクワクして楽しい』『初めて食べるものに出合える』と好評なんです」
――どういった出品が多いのでしょうか?
「店舗数は全体で約2700店。割合でいうと8割以上が中食や小売りで、中食は大手チェーンを含め50法人ほどに利用いただいています。なかでもパンやケーキなどが多く、6〜7割を占めます。共通しているのはサービス時間が終了するまで必ず商品を用意しておかなければいけない業態だということです」
「閉店間際まで商品があるということは必ずロスが出ます。特にチェーン展開をしていると売り上げの目標が管理され、立地も良いので、お客様が来店した時に商品がないというチャンスロスの影響が大きい。『売り切れ御免』としないのがチェーン店の傾向です。外食は注文が入ってから調理するので、実は食品ロスは少なくなります」
5年で登録店舗が20倍に
――サービススタートから登録店舗が右肩上がりに伸びていますね。
「TABETEは18年4月にサービスを開始しました。店舗数は初年度に117店。5年で20倍以上に増えたことになります。一番多いのは東京23区ですが、地方も福岡市や金沢市、名古屋市など自治体と連携した展開を進めていて、福岡市も125店まで伸びています。自治体とは事業者を対象にしたセミナーを開催したり、一般の方に広報したり、登録店舗とユーザーの両方の獲得をめざした施策に取り組んでいます」
「事業者へのPRのポイントとしては、廃棄していた商品が売れるようになるのももちろんですが、新規の来店効果も大きいことが挙げられます。TABETEでその店舗を利用したユーザーの約4割が、今度は通常の買い物をしに来店するというデータが出ています。中食ではメディアへの広告費を確保していないところも少なくありませんが、そうしたコストをかけずに、TABETEへの出品自体がマーケティングにもなるということを評価して導入いただくケースが多いです。特にここ2、3年で国連の持続可能な開発目標(SDGs)への意識の高まりで潮目が変わり、食品ロスに積極的に取り組む事業者が増えている感覚があります」
――ユーザー数も増えています。
「ユーザーは一貫して増加し、19年に20万人だったのが、23年は78万人に増えました。利用のきっかけで一番多いのは口コミとSNSです。『少しお得に買い物できて食品ロスにも貢献できる』ということで、安さだけではなく、社会的意義もあるので伝えやすいという声をいただいています。テイクアウトサービスなので、自分と同じ行動圏内の人に勧めてくれる。30〜50代の家族がいる女性の割合が多く、ママ友や職場、家族などの輪で広がり、現在広告を出していないのですが、毎月1万人程度増えている状況です」
食品ロスは「誰のせいでもない」
――TABETEのサービスを始めたきっかけを教えてください。
「原体験は、小学2年のときに急性リンパ性白血病にかかったときの経験です。白血病は免疫力がほぼないという状態になるので、生ものなど病気につながりやすい食品は食べられない。塩分量も調整され、かなり味の薄い食事となります。子どもにとっては食べたいものを食べられない辛い生活が2年くらい続き、食べ物に強い関心を持つようになりました」
「後になって、病気の重さとしても、実は危ない状態までいっていたということを聞きました。一緒に入院していて助からなかった友達もいたんです。自分は助けられた命だからこそ、何かの役に立つことができたらいいなと思うようになりました」
「直接のきっかけとなったのは、大学3年の時です。カフェチェーンでアルバイトをしていて、バイトリーダーとなり、発注に携わらせてもらえるようになりました。そこで『廃棄の個数』という項目を見て、何だこれはと。それまでバイト中に商品を廃棄する時には、『なぜ多く発注しているんだろう』『もっと調整すればいいのに』と思っていましたが、そうではなかった。誰かのせいではなく、閉店間際も消費者が商品を求めて来店し、店舗もそれに応えるために廃棄が生まれる、そういう構造になっていたということです」
「最初は食品が廃棄されることに怒りというか、許せないという感覚がありましたが、構造的な問題に気づいてからは、どうやって解決していくかという方向に頭が切り替わりました。その後、就活では食品業界をめざして新卒でグルメサイトの運営会社に就職。15年にデンマークで廃棄予定の食品を購入できるサービス『Too Good To Go』が立ち上げられたのを見て、ぜひこれを日本でもやりたいと考えていたところ、同じサービスに目を付けていた弊社の社長と出会い、TABETEの事業を立ち上げることになりました」
――デンマークでは急速に利用が進んだそうですね。
「Too Good To Goとは不定期に面談してコミュニケーションしています。現地の物価が高いこともあり、彼らは『通常の3分の1の価格で買える』とうたい、1秒に1個という勢いで売れている計算になるそうです。海外の消費者のほうが持続可能性を意識して買い物をするという消費行動ができている面もある。日本はまだそこまでは進んでいないので、取り組んでもらう工夫が必要です」
お祭りみたいに楽しく参加できる
――具体的にはどのように工夫すればよいのでしょう。
「気軽さ、ポップさがすごく大事だと思っています。『食品ロス』というと硬いというか、『自分に何ができるんだろう』と遠く感じてしまいますが、TABETEでも公式SNSの発信では、おもしろく、自分にもメリットがあると思えるものが共感を得てバズる(拡散する)」
「私たちはTABETEで商品を購入することを『レスキュー』と呼んでいます。1年でもっとも売り上げが伸びるのがクリスマスの直後。『クリスマスレスキュー大作戦』と呼んで、どこで何個売れ残ったケーキが出品されているかをSNSで投稿すると、お店の状況をくんで『助けなくては』と次々とユーザーが協力してくれるんです。そういうお祭りみたいに楽しく参加できる形を作っていくとたくさんの人を巻き込めるという手ごたえがあります」
「21年にはレスキューすると経験値が上がっていく『レベルシステム』という機能を追加しました。レベルが上がると特典が得られるほか、『ヒーローレベル』が認定され、ゲーム感覚で食品ロスのレスキューを続けられる。さらにそれをSNSに投稿することで、TABETEに興味を持ってくれる人が広がるという好循環が生まれています。問題は真面目でも、真面目に取り組むだけが方法ではないんです」
(聞き手は若狭美緒)