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よくわかるGX最前線 日本の課題と戦略とは? 国際環境経済研究所 理事/U3イノベーションズ合同会社 共同代表 竹内純子氏

採録 脱炭素 気候変動 再生可能エネルギー

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脱炭素に向けて社会や経済の構造を転換するグリーントランスフォーメーション(GX)。2023年11〜12月に開かれた第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)では、再生可能エネルギーや原子力、CCUS(二酸化炭素の回収・利用・貯留)、低炭素水素など、多様な技術を加速していくことを盛り込んだ成果文書が採択され、GXの動きが活発化しそうです。国際環境経済研究所(東京・千代田)の理事などを務める竹内純子氏が、2023年12月に開催された「日経社会イノベーションフォーラム カーボンニュートラル社会実現に向けた可能性」(主催・日本経済新聞社、日経BP)の基調講演に登壇し、日本の課題と戦略などGXの最前線について解説しました。

気候変動問題は、エネルギー問題であり、経済問題でもある

GXの議論が注目を集め、政府も力を入れています。今まではカーボンニュートラルという言葉がよく使われていましたが、急にGXといわれるようになったのを不思議に思う方も多いかもしれません。

ここ10年ほど、世界的に気候変動政策が国の上位の政策として位置づけられるようになりました。気候変動は環境問題と捉えられがちですが、実際にはエネルギー問題であり、経済問題そのものでもあります。

エネルギー政策と気候変動政策は考え方が大きく異なります。エネルギー政策はエネルギーという究極の生活財・生産財を扱うことから、現実に即して「フォワードルッキング」で計画を策定します。それに対して気候変動政策として世界が目指しているのは、産業革命を上回るような非常に大きな社会変革であり、足元の積み上げでは変えられないほどの変化となることから、あるべき姿から逆算していく「バックキャスト」で策定すべきだとされています。

2050年のカーボンニュートラルまで残り30年足らず。インフラに関わる人の時間感覚では決して遠い未来ではありません。いま立ち上げたインフラは30年後も現役ですし、30年後に発電所を立ち上げるなら今から動く必要がある。そのような短期間で「現実」と「あるべき姿」のギャップをつながなければならないということです。

協調の陰で進む「グリーン貿易戦争」

これまで主要7か国(G7)やCOPなどの枠組みでは協調が維持されてきましたが、気候変動を旗印に各国が産業政策や経済安全保障に資する政策を導入し、「グリーン貿易戦争」の意味合いが強くなり、多くの亀裂が見られるようになってきています。

温度上昇の目標を巡っては、1.5度を主張する西側諸国に対して、1.5度と2度を併記すべきだとする新興国との対立があります。また、各国とも様々な規制と支援策を導入していますが、主として、米国で2022年、クリーン電力・燃料や、北米で組み立てられたことなどを条件に電気自動車(EV)の購入に対して税額控除するインフレ抑制法(IRA)が成立し、「太陽政策」によって産業競争力を高めようとしているのに対し、欧州は排出量取引制度によるカーボンプライシングを柱とする「北風政策」で、炭素国境調整措置(CBAM)を導入して国際的な公平性を担保しようとしています。

日本は「北風」と「太陽」の中間といえます。2023年2月に閣議決定した「GX基本方針」には、規制・支援一体型の投資促進策と、成長志向型のカーボンプライシングの導入が盛り込まれました。

官民合わせて150兆円の投資を期待しており、民間からの投資を促すために政府がまず20兆円を10年間で投資することになっています。米国と比較して規模が小さいという批判もありますが、国内総生産(GDP)や人口規模を考えると、IRAと相応程度だと思います。分野により技術や現場実態が大きく異なることから、先日、官邸で第9回GX実行会議が開催され、分野別の投資戦略の議論が始まりました。

このように世界はカーボンニュートラルを目指すなかで、産業創出を進め経済成長につなげようとしています。GX実行会議でも当初からGXを成長戦略として描き、デジタルトランスフォーメーション(DX)とも融合させて社会の持続可能性を高めることが必要だと繰り返し確認されてきました。

GX基本方針の成長戦略

GX基本方針に盛り込まれた14の「今後の対応」の1番目に書かれているのは省エネです。日本は省エネという強みがあるからこそ、まだ省エネの余地があるということで施策の最初に掲げられています。

カーボンプライシングについては、排出量取引制度と炭素賦課金という、2つの制度が導入されます。2023年4月からは脱炭素に先進的に取り組む企業で構成する「GXリーグ」が試行的に開始し、2026年から本格的な運用が始まります。排出量取引を段階的に成長させていき、2033年ごろには電力などの多排出事業者に有償オークションを行います。2028年には化石燃料事業者に賦課金の制度を導入して、徐々に負担を引き上げていく予定になっています。

今後、国として初めて「GX経済移行債」というトランジションボンドが発行されます。これを活用して企業のGXを支援していきますが、支援対象企業には、GXリーグへの参加などのコミットメントを求める予定です。

電力の安定供給確保とGX

脱炭素に向けてのセオリーは、「電源の脱炭素化」と「需要の電化」を同時進行で進めることです。今、日本のエネルギー全体で電力は約3割で、約7割がガソリンや重油、灯油といった化石燃料です。ここから出る二酸化炭素(CO2)を減らすために、化石燃料で動くものを電気で動くようにして、再生可能エネルギーや原子力などCO2を出さずに電気をつくる方法に切り替えていきます。

これまでのGX実行会議で多くの時間が割かれたのは、「長期的な構造改革の前に、頻発する電力需給逼迫やエネルギー価格の高騰が喫緊の課題」という議論です。岸田文雄首相からも、GXと整合的な形で立て直す方針が示されました。電力の安定供給確保に向けた政策の立て直しでは、電力自由化の修正と原子力の活用が課題になります。

GX推進に向けたさらなる課題は、GX経済移行債による投資を適切に行うことと、カーボンプライシングの制度設計です。

カーボンプライシングについては、炭素賦課金と排出量取引制度という2つの制度が導入されますが、エネルギー間中立を確保し、CO2を減らす技術としてのコスト効率を競うため、2つの制度によるCO2の価格を近づける措置が必要になります。電気代に過度な負担がかかると電化が進まなくなってしまう。GX実現に向けて、制度設計には留意点が多いことも押さえておきたいポイントです。

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