「本日は、お仲間を作ろうとやってきました」。2月下旬、都内で開かれた「水」に関するシンポジウムで、サントリーホールディングスの風間茂明・サステナビリティ経営推進本部副本部長は開口一番にこう語り、同社が実践している水の涵(かん)養、生物多様性の保全について発表した。
会合は、水資源の保全・管理に関するAWS(ウォーター・スチュワードシップ)国際認証機関が主催。サントリーは、同社の工場流域で一体化した水資源を守る取り組みが評価され、日本で唯一、AWSから水利用に関する認証を取得しており、発表の機会を得た。そして今回、AWSとの間で、日本でのAWS活動の浸透・啓発のリーダーシップを担う連携協定を締結し、会合に参加している企業や自治体への「誘い水」的な役割も担っていた。
我々の社会生活は大気、土壌、微生物などの自然・地球環境に支えられている。なかでも酒類や飲料などを手掛けるサントリーグループは自然・地球環境そのものが事業の存続、成長の生命線だ。「水がないとつくれない」(風間さん)という認識のもと、自らを自然界の水の循環の一部と位置づけて「AWS認証を目指してきた」という。
サントリーは工場周辺の地下水の流れ方を科学的に把握し、調査を基に里山再生、緑化などを行い、森林整備が地下水にどのような影響を与えるかを予測。その結果の検証と再調査を繰り返す。また小学校に出向いて水の大切さを学んでもらう「水育(みずいく)」の授業を開くなど、その活動は幅広い。
二酸化炭素(CO2)は排出量をネットでゼロにすることが世界のコンセンサスだが、水はそうたやすくない。「水の心配事は何か、水の何を課題にするか」が国や地域によって異なるからだ。渇水、飲料水や農業用水、工業用水の確保、生活・工場排水の浄化、水害対策など複雑に絡み合う水のインプット、アウトプットを正確に理解する必要がある。水は歴史的文化的にもひも付けされ、丁寧な合意形成のためには科学的な視点は欠かせない。水を起点とする自然機能を高める行動は気候変動と生物多様性の表裏一体の関係への根源的な対応でもある。
「自分の会社がいる世界と無い世界。どちらがいいか」。風間さんは、こんなことを言い合える仲間が増えることを願っている。(編集委員 田中陽)
サントリーホールディングス・新浪剛史社長 SDGsリードするアジア企業に
今、国際社会で存在感を増しつつあるのが「グローバルサウス」(南半球を中心とする途上国)です。その国々の安定無くしては環境、政治、経済など地球規模の課題を解決するのが難しくなっているのが現状で、成長とともに問題になってくるのが「水」です。川がいくつもの国境を越えて流れるアフリカ、アジア大陸などでは、貴重な水資源をどのように調整するのか喫緊の課題です。
水資源に恵まれる日本では、豊かな社会の原点となる水のありがたさに気がつきにくいですが、世界を見渡せば人類が生きていく上でとても重大な問題なのです。水は戦略物資です。サステナビリティ課題への対処は地政学も内包した形で取り組まなくてはなりません。
「なんとかしなければ」との思いで、サントリーは欧米を中心とした世界に発信力のある地政学専門のコンサルティング会社「ユーラシアグループ」(イアン・ブレマー代表)と共同でアジアでの課題解決を目指す「サステナビリティ・リーダーズ・カウンシル」を創設しました。1月には報告書「アジアにおけるネイチャー・ロスに立ち向かう」を公表し、「生物多様性の『ホットスポット』であるアジアの企業が生物多様性の取り組みをリードするチャンスであり、早急にクリエーティブに行動すべきである」と提言し、ブレマー氏は「企業が持続的に発展していくためには地球は健全でなければならない」と寄せています。
SDGs目標達成年は2030年です。それまでに生物多様性を増やし、50年には多くの関係者を巻き込みながら私たちの生活を支える必要なレベルまで回復させて「ネイチャーポジティブ」へと進めていきます。