健康経営の新時代

ウェルビーイングと生産性を高める 睡眠のテクニック 健康経営の新時代(6) 健康企業代表・医師 亀田高志

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「毎日、良く眠ることができている」「睡眠は十分に足りている」と笑顔で語ることができる人は少ないです。「自分は寝なくても大丈夫!」という人もいません。このように、しっかり眠ることができている令和のビジネスパーソンは少数派という現実があります。

きちんと睡眠がとれることは、心の元気、体調、仕事への集中と高い生産性のために大切です。これらは精神的、身体的、社会的なウェルビーイングに直結します。医学専門家でなくとも、睡眠の大切さは日常的に、経験的にも実感するところでしょう。けれども、今や職場だけでなく、日常生活でも眠りを妨害するものがあふれています。

適切な知識とスキルを持って、習慣として実践しなければ、十分な睡眠を確保できなくなってしまいます。

今、睡眠に関するヘルスリテラシーは、世代にかかわらず大切なのです。

睡眠中も人体は活動している

人間は1日の3分の1から4分の1の時間を睡眠に費やします。睡眠のメカニズムはいまだ完全には解明されていません。しかし、我々の脳の機能としてのほか、ホルモンのレベルや自律神経系、細胞のミクロレベルの遺伝子にまで、24時間程度のリズムを刻む時計の機能が備わっていることが科学的に明らかにされています。その中で睡眠と起きている時間、つまり覚醒が繰り返されています。

主観的には「覚醒」は起きて活動する時間、「睡眠」は休息する時間と捉えがちです。けれども睡眠中でも人体は休みなく活動を続けています。睡眠は脳がその日の情報を記憶に留めるために必要です。当然ながら心臓は休むことなく拍動を続け、晩ご飯で摂取した食物の消化は夜間も継続します。

睡眠には眼球がほぼ停止しているノンレム睡眠と眼球が動くレム睡眠の2つのフェーズがあります。「レム」とはRapid Eye Movement(急速眼球運動)という言葉の略で、閉じたまぶたの下で左右に激しく眼球が動いている様子から呼称されるようになりました。レム睡眠は夢を見る時間と考えられています。

一方でノンレム睡眠には4つの段階があります。ノンレム睡眠の後にレム睡眠が続き、1つのサイクルは90分です。寝始めはノンレム睡眠の割合が高く、だんだんとレム睡眠の割合が増えて、目覚めを迎えます。

人体には、体内時計と呼ばれる24時間周期を刻む機能がありますが、これは正確に24時間ではなく、24時間サイクルをやや超える人が大多数と考えられています。朝日を浴びること、朝食を食べること、仕事に向かう習慣等により、24時間にリセットされます。

休日の寝だめで解消できない 「睡眠負債」

多忙な読者の方々はご自身の日常生活や職場と自宅の環境について、客観的に捉え直す機会はないかもしれません。けれども、人類の20万年以上の歴史、その前の類人猿の段階からの700万年の時間軸で考えると、高度成長期以降の夜型の暮らし、令和時代の常に明かりに囲まれる暮らしは、劇的な環境の変化です。

現在、問題とされるのが、概日リズム睡眠障害です。これは仕事や家事、育児に追われることで、体内時計の周期を24時間周期にうまく同調できないために生じる睡眠の障害です。日中の眠気だけでなく、頭痛、倦怠(けんたい)感、食欲不振などの身体的な不調が出てきます。

睡眠不足が蓄積していくことを「睡眠負債」と呼びますが、これを解消し難いことも現代的な問題です。平日に多忙で睡眠が足りない人は休日に寝だめをして取り返そうと考えがちです。しかし、平日と休日の就寝時間と起床時間、さらに睡眠時間が大きく変動することで生じる問題を「ソーシャルジェットラグ(社会的時差ボケ)」と言います。体内時計のバランスが崩れて、日中の眠気、疲労感を感じ、注意力や記憶力と学習力が低下します。食物を消化し、利用する代謝機能、免疫の力も減じます。うつ病等の不調や生活習慣病もリスクを高めるとも言われています。睡眠負債は昼寝では簡単に解消できません。むしろ、いかに夜の睡眠を適切に継続できるのかが鍵になります。

現代的な健康影響の例としては、いわゆる過重労働によって、睡眠時間が減少することが挙げられます。脳卒中や心臓発作が起きやすくなることが社会問題となったのが、いわゆる「過労死」です。同じように過重労働がうつ病等のメンタルヘルス不調を悪化させることによる「過労自殺」もいまだに続いています。

睡眠時間や睡眠の質に加えて、毎日ほぼ同じ時間に眠ることができているか、起床しているか、という睡眠の規則性も注目されています。それが毎日、大きく変動する場合には、動脈硬化による脳卒中や心臓発作、あるいはがんによる死亡のリスクが高まることも明らかにされています。

適切な睡眠のためにできる工夫

心身の健康を保ち、日中の元気さや幸福感を高めるためには、睡眠をできるだけ第一優先にスケジュール管理を行うことが重要です。

次のような点に気を付けていくと、睡眠の規則性を保つことができます。

・就寝する時刻は毎日、夜12時より早めにすること。

・起床する時刻は、午前7時前後にすること。

・途中で目が覚めても、なるべく布団で過ごすようにすること。

・忙しいときでも、睡眠時間は7時間程度は保つこと。

・起床後にバランスの良い朝食を毎日、同じ時間に摂ること。

・これらの時間帯を平日と休日で変えないこと。

最近はウエアラブル端末やスマホでも睡眠の記録が取れるようになっています。日々の就寝時間と起床時間、その間の熟眠感、合計の睡眠時間の記録を残していき、その変動や良否を振り返ることも良い習慣です。加えて、ご自分がいわゆる朝型か、夜型かを確認することも大切です。

寝室も工夫して、就寝中は部屋を暗く保ちましょう。騒音のない静かな環境を整えて、夏や冬の室内の気温と湿度は空調を使って快適に保つことが有効です。

次のような点にも留意しながら、毎日過ごすことが睡眠を適切に保つには重要です。

・コーヒーなどのカフェイン飲料は量と時間を決め、夕方以降は摂取しない。

・睡眠の質と量を低下させるアルコールは量と曜日を決めて、それを守る。

・スマホ、タブレット、テレビのようなデジタルスクリーンは夜、帰宅後には遠ざける。

・ネット等から発信されるネガティブな情報はストレス要因となるので、距離を保つ。

・睡眠の妨げになりやすい日々のストレス対処を適切に行う。

・身体的な疲労により、睡眠の質と量を向上させる運動を行う。(夕方のウオーキング等)

・夜に入浴する際には、ぬるめの風呂にゆっくりつかる。

・寝床に入る前には、部屋の明かりを少しずつ暗くしていく、あるいは暖色系の明かりに切り替える。

日頃から睡眠不足を感じたり、朝の熟眠感が不足したりするようであれば、ここで説明した内容を参考に、日々の睡眠の状態を記録し、改善に取り組んで頂ければ幸いです。

亀田 高志(かめだ・たかし)
労働衛生コンサルタント、日本内科学会認定内科医、日本医師会認定産業医
 1991年産業医科大学医学部卒。職場のメンタルヘルス対策、高年齢労働に伴う安全衛生・健康管理及び感染症を含む危機管理対策を専門とし、企業や自治体、人事担当者や専門家向けにコンサルティングと教育・啓発を手掛ける。福岡産業保健総合支援センター産業保健相談員、国際EAP協会日本支部理事、日本産業衛生学会エイジマネジメント研究会世話人を務める。社会保険労務士がメンタルヘルス対策等を学ぶ「健康企業推進研究会」を主宰する。
 著書は『管理職ガイド〜はじめてでも分かる若手のトリセツ(令和のZ世代を受け入れ、育て、問題に対処するポイント)』(労働開発研究会)、『第2版 管理職のためのメンタルヘルス・マネジメント』(労務行政)、『改訂版 人事担当者のためのメンタルヘルス復職支援』(同)、『【図解】新型コロナウイルス メンタルヘルス対策』(エクスナレッジ)、『課題ごとに解決!健康経営マニュアル』(日本法令)、『社労士がすぐに使える!メンタルヘルス実務対応の知識とスキル』(同)等。

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