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能力開発・上司の助言……社員が幸福に働ける4つの条件 実践ウェルビーイング経営(上) ビジネスリサーチラボ代表 伊達洋駆

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「ウェルビーイング」に注目が集まっています。企業が働く人を対象にした調査によると、働く上でウェルビーイングを重要な価値観として挙げる人が4割強存在しています(※1) 。

一方で、ウェルビーイングを高めるための取り組みを行っている企業は、全体の1割弱にとどまるという結果も、同じ調査で明らかになっています。

ウェルビーイングという観点から見れば、社員からのニーズがありながらも、企業の実践がそれに追いついていません。社員と企業の間には隔たりがあるのです。

そこで、本コラムでは、企業がどのようにウェルビーイングを高めるべきかについて解説していきます。ウェルビーイングを高める要因は、社内要因と社外要因に分けられますが、今回は社内要因に焦点を当て、企業で実践できる施策を示します。

仕事の成果との関係 マネジャーや専門職ほど強く

初めに、ウェルビーイングが何を意味するのかを確認しておきましょう。ウェルビーイングは、一般に幸福感と訳されることもあります。実は定義の難しい概念です。

学術研究を参考にすれば、ウェルビーイングとは、人生に満足してポジティブな感情を抱いており、充足した感覚を得ていることを指します(※2) 。

例えば、皆さんは目的意識を持ち、意味のある人生を送っているという感覚があるでしょうか。日々の仕事やプライベートに興味を持って積極的に取り組んでいますか。自身の将来について楽観的に考えることができますか(※3) 。

これらの問いに「はい」と回答できる場合、皆さんのウェルビーイングは高いと言えます。このように、ウェルビーイングはあくまで主観的なものです。

ウェルビーイングは企業にとっても利点を持つことがわかっています。ウェルビーイングが高い人ほど、仕事のパフォーマンスが高い傾向があるのです (※4)。

さらに興味深いことに、ウェルビーイングとパフォーマンスの関係は、マネジャーや専門職の人ほど強く現れることが指摘されています。これは、ウェルビーイングの重要性が増すことを意味します。

学術的に実証された4つの対応策

社員のウェルビーイングの向上は、企業にとっても有効です。しかし、冒頭で紹介した通り、多くの企業ではウェルビーイングを高める取り組みが十分に行われていません。

では、企業は具体的に何をすれば良いのでしょうか。ここからは、学術的に実証されたウェルビーイングを促進する要因をもとに、4つの具体的な対策を挙げます(※5) 。

①能力開発の機会を提供する

1つ目の対策は「能力開発の機会を提供する」ことです。企業の中で、日頃から能力開発の機会が得られる人ほど、ウェルビーイングが高いことが明らかになっています。

自身のスキルや知識を高める時間と場が社内にあることで、成長を実感し、自信がつきます。自己実現にも近づき、その結果、ウェルビーイングに良い影響が及びます。

能力開発の機会を職場で作り出すことは可能です。例えば、業務にまつわる最新の知見をお互いに学び合う勉強会を実施する方法があります。

また、難易度が高い仕事を割り当てることも有効で、挑戦には失敗が伴うかもしれませんが、そこから学びが得られます。易しい仕事ばかりだと、能力が停滞してしまいます。

月に1回の成長会議を実施することもおすすめです。同僚同士で1時間程度の時間を取り、その1ヵ月間で自身がどのように成長したかを報告し合います。そうすることで、能力開発を実感するきっかけが生まれます。

また、人事としても社員の現状の能力に合った研修を実施したり、社外の研修に参加しやすくする仕掛けをつくるなどの対策も考えられます。

②上司からの支援を増やす

2つ目の対策は「上司からの支援を増やす」ことです。上司から支援を得られている人ほどウェルビーイングが高いことがわかっています。

上司から支援してもらえると、安心感を覚え、仕事に集中できます。仕事に対する前向きな気持ちが生まれ、ウェルビーイングにも好影響が生まれます。

上司からの支援と一口に言っても、その形は2つに分けられます。1つは、仕事を前に進めるための具体的な助言です。もう1つは、仕事の悩みに対する情緒的なケアです。

こうした支援を増やすための方法として、定期的な個人面談が挙げられます。例えば2週間に1回、30分でも良いので、上司と部下が話す時間を設けるのです。第2・第4木曜の10時から10時30分など、あらかじめスケジュールに組み込むことで、支援の場を作ることができます。

ただし、支援の仕方が各マネジャーの力量に依存しすぎると、結果が一定しない可能性があります。そこで、部下に対する効果的な支援方法を学べる研修をマネジャーに提供しましょう。

上司からの支援を楽にするツールの整備も進めたいところです。支援のための標準的な流れを整理し、部下にとってうれしい声がけの例を資料にまとめてマネジャーに配布するといった対策も有効です。

③必要な情報を共有する

3つ目の対策は「必要な情報を共有する」ことです。職場において、必要な情報が適切に共有されていると、社員は自分の役割や仕事の進め方をより明確に理解できます。これにより仕事を円滑に進行し、効率的に行うことが可能となります。

情報が共有されているということは、職場や組織としての目標を理解する機会も増え、一体感や所属感も上昇します。これらの要素が組み合わさることで、ウェルビーイングが高まるのです。

情報共有を促進するために、情報が自由に共有される職場環境を作る必要があります。例えば、コミュニケーションツールを導入すると良いでしょう。整備が重要となります。メッセージを気軽に送り合えるチャットツールの活用を推奨します。

しかし、情報を共有することはリスクを伴うこともあります。「あの人は意味のない情報を共有している」と思われるのではないかをいう心配から、必要な情報が共有されないケースもあります。

こうした状況を打破するには、まずマネジャー自身が情報を積極的に発信することが求められます。特に、自分にとって不利な情報、例えば失敗に関する情報を出しましょう。

プロジェクト型の仕事に取り組む職場では、プロジェクトの節目ごとにミーティングを実施し、情報を共有する時間を設けることも1つの対策です。プロジェクトがスムーズに進行しているときでも、情報共有の時間を設けます。

④仕事の負荷を適正な水準にする

4つ目の対策は「仕事の負荷を適正な水準にする」ことです。適正な仕事の負荷がある人ほど、ウェルビーイングが高いことが研究によって実証されています。

これは、過剰な仕事の負荷にさらされると、過労やストレスが蓄積し、ウェルビーイングがマイナスになるという事実からも理解できます。

適度な仕事量であれば、高い成果を出しやすくなります。プライベートの時間を充実させることも可能となり、ワークライフバランスが保たれます。結果として、ウェルビーイングが上昇するのです。

適正な仕事負荷を保つには、マネジャーの役割が重要です。部下の稼働状況や能力をリアルタイムで把握し、仕事を提供するように心がけます。

最近ではプロジェクトマネジメントやタレントマネジメントのシステムが充実しており、それらを利用することで、部下の現状を的確に把握できます。

部下に対して適度に休憩をとるように促すことも大切です。休憩なしで仕事に打ち込むと疲労が蓄積し、パフォーマンスが下がります。

人事としても、業務量を適正な水準に保つポリシーを作成し、職場全体が仕事の負荷を調整するように指導することが求められます。そして、働き方の柔軟性を高める方法も考えられます。仕事とプライベートの調和を図ることが可能となります。

本コラムでは、ウェルビーイングを促すために企業ができることを紹介しました。ウェルビーイングは抽象的な概念ですが、それを高めるための有効な対策はあります。

全てを一度に実行するのは難しいかもしれません。実践できそうなものから1つずつ取り組んでみることをおすすめします。

伊達洋駆(だて・ようく) 
株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、11年にビジネスリサーチラボを創業。組織・人事領域を中心に調査・コンサルティング事業を展開し、研究知と実践知の両方を活用したサービス「アカデミックリサーチ」を提供。15年から採用学研究所の所長、17年から日本採用力検定協会理事。著書に『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著、日本能率協会マネジメントセンター)など。

(※1)WeWork Japan(2021)「コロナ禍長期化における働く場所と価値観に関する調査」

(※2) Anglim, J., Horwood, S., Smillie, L. D., Marrero, R. J., and Wood, J. K. (2020). Predicting psychological and subjective well-being from personality: A meta-analysis. Psychological Bulletin, 146(4), 279-323.

(※3)Diener, E., Wirtz, D., Biswas-Diener, R., Tov, W., Kim-Prieto, C., Choi, D.-w., and Oishi, S. (2009). New measures of well-being. In E. Diener (Ed.), Assessing Well-being: The Collected Works of Ed Diener. Springer Science + Business Media.

(※4)Daniels, K. and Harris, C. (2000). Work, psychological well-being and performance. Occupational Medicine, 50(5), 304-309.

(※5)Tuomi, K., Vanhala, S., Nykyri, E., and Janhonen, M. (2004). Organizational practices, work demands and the well-being of employees: A follow-up study in the metal industry and retail trade. Occupational Medicine, 54(2), 115-121.

 

 

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