ヒットの軌跡

『地球の歩き方』が歩む異形の旅路 貫く読者ファースト 地球の歩き方 コンテンツ事業部長 宮田崇氏(上)

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1979年に創刊された旅行ガイドブック『地球の歩き方』は日本人の「旅」を書き換えた。バックパッカーに海を渡らせ、「卒業旅行」を広めたのは、『歩き方』の功績。それまでの旅行案内本とは段違いの濃さやリアル志向は旅心を弾ませた。来年で45年を迎える今でもライバルは見当たらない。3年余りの「空白期間」を乗り越えて、再び海外旅行が息を吹き返しつつある今、『地球の歩き方』がたどってきたオンリーワンの旅路を振り返ってみた。

「異形」の旅行ガイドブックだ。類書も二番手もない。たとえば、『るるぶ』(JTBパブリッシングが発行)と『まっぷる』(昭文社)の違いを一言で説明できるだろうか。一方、『地球の歩き方』は特徴をすぐにイメージしやすい。黄色い表紙、分厚いページ建て、過剰なほどの情報量。どれもがオリジナルで『地球の歩き方』らしさを示す。100を超えるタイトルと、45年に及ぶ歴史が旅人たちからの信頼感を証明している。

しかし、海外旅行の需要が「蒸発」した新型コロナウイルス禍の約3年間は「瀬戸際まで追い込まれた」と、株式会社地球の歩き方(東京・品川)の宮田崇・コンテンツ事業部長は振り返る。それまでは2年程度での改訂を重ねてきたが、取材にすら出られなくなった。ようやく国際線に旅行客が戻ってきつつある中、2023年6月は改訂版の発売ラッシュが続いている。タイ、台湾、ニュージーランドと続き、同7月にはいよいよフランス、スペインが登場する。いずれも3年以上を経ての改訂とあって、「鮮度の高い情報を詰め込んだ」(宮田氏)。

『地球の歩き方』はもともとの発行元だったダイヤモンド・ビッグ社が学研プラスに事業譲渡。現在は学研グループの株式会社地球の歩き方が発行している(販売はGakken)。20年に設立された、まだ若い企業だ。ダイヤモンド・ビッグ社の特別清算が23年5月に決まって話題を集めたが、現在の発行体制とは関係がない。『地球の歩き方』シリーズは健在だ。

誕生のいきさつはダイヤモンド・ビッグ社が当時手掛けていたビジネスと関係が深い。名前が示す通り、同社は経済誌「週刊ダイヤモンド」で知られる出版社のダイヤモンド社の子会社だった。企業の新卒採用をサポートする事業へ乗り出すにあたって、出版社の本業との重複を避けて、別会社を立ち上げた。当時は就職情報誌を発行するビジネスが有望な時代だった。

就職情報誌のビジネスは一見、海外旅行とは縁が薄いようだが、内定を得た卒業見込み学生を入社前に海外研修ツアーへ連れていったことが旅行ガイドブックの発行につながった。内定者たちの体験談や口コミを集めた「旅の思い出ノート」風の冊子を作ったところ、「後輩の間で『役に立つ』と評判になった」(宮田氏)。当初は非売品だったが、好評を受けて、事業化が決まった。海外旅行が一般化する中、「新しいスタイルの旅を提案する意味を感じ取った編集者たちが創刊に動いた」(宮田氏)。

 

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