現在、あらゆる企業が経営の最重要課題をDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進と位置付けている。デジタル技術を活用し、ビジネス変革や新たなビジネスモデルの構築を達成するためには何が必要か。国内生保会社初のオンライン相談システムの導入を始め、画期的なDX施策を次々と成功させている生命保険大手・アフラックが実践するDX戦略は、多くのヒントを与えてくれるだろう。同社CDIO(チーフ・デジタル&インフォメーション・オフィサー)の二見通氏が「金融DX/SUM」(主催:日本経済新聞社)で行った講演の内容を紹介する。
デジタルを前提とした企業経営が求められている
イノベーティブな保険商品を提供するディスラプターの登場やデジタル技術の急速な進展などにより、生命保険会社を取り巻く環境は大きく変わっている。さらに、新型コロナウイルス感染症問題によりニューノーマル時代を迎えた現在においては、これまで以上にデジタルを前提とした企業経営が必要であると考える。
当社におけるDXは、変化の波を乗り越え、持続的な成長を遂げ、当社の五大ステークホルダー(お客様、ビジネスパートナー、社員、株主、社会)に対して継続的に新たな価値を提供するための経営戦略実現の柱と位置付けている。2020年には独自のDX戦略「DX@Aflac」を策定し、DXをさらに加速させている。
当社は2018年に独自のDX戦略「DX@Aflac」を策定。DXの目的を5大ステークホルダー(お客様、ビジネスパートナー、社員、社会)に新たな価値を提供することと定め、様々な施策を実行している。
戦略の柱は大きく3つある。1つ目は、生命保険や医療保険などのコアビジネス領域のDX。2つ目は、コアビジネス以外の領域でのDXだ。様々な企業・組織と連携しながら、生命保険の枠を越えた新たな価値の提供を目指す。3つ目の柱は、システムインフラや組織、人財育成などのDXだ。これはコアビジネス領域とコアビジネス以外の領域、双方のDXを支える基盤と位置づけられる。
保険手続きや社内業務の完全ペーパーレス化 来年夏に実現予定
DX@Aflacには、保険のご相談からお申し込みまでオンラインで実現できる「アフラックのオンライン相談」の仕組みも含まれており、実際、このサービスは、イスラエルのベンチャー企業と共同開発し、予定よりも前倒しで導入することができた。このシステムは、新型コロナウイルス感染症への意識の高まりに伴い非対面手続きを希望されるお客様や、遠隔地にお住まいのお客様、介護・育児などのご事情をお持ちのお客様のニーズに応えることができ、コロナ禍であっても、オンライン相談で保険のご案内をすることができた。
また、フィンテック企業をはじめとする他企業との協業によるオープンイノベーションの取り組みの一つとして、当社独自のデジタル決済プラットフォームである「アフラックウォレット」サービスをご契約者へ導入するなど、フィンテック/インシュアテックを活用したさまざまなサービスも提供している。
さらに、新型コロナウイルス感染症問題を機に全社ペーパーレス化への取り組みや、コールセンター業務の在宅化を含めたテレワーク体制のさらなる推進など、DXへの取り組みを一気に加速させ、2022年6月には完全ペーパーレスを達成予定だ。
業界の垣根を越えた協業による オープンイノベーションの実現へ
現在、DX戦略において特に重視しているのは、リアルとデジタルの融合だ。お客様がリアルとデジタルを自由に行き来しながら、いつでもどこでも簡単・便利に保険の相談や申し込みができる世界の実現を目指している。
その思いで開発したものの一つが、「アフラックマジックミラー」だ。代理店のスタッフがお声がけする代わりに、店頭に設置した大型IoTデバイスを通じ、お客様に様々なコンテンツを提供する。保険加入のシミュレーションができるだけでなく、肌年齢や体温を測る機能や、お子様が楽しく遊べるゲームなど、世代や性別を問わず、多くの方に楽しんでいただけるコンテンツを搭載。もちろんお客様のご希望があれば、募集人が店内で相談や手続きにも対応する。
家庭でも使える小型の「アフラックマジックミラー」も開発中だ。自宅の洗面所やお部屋の鏡として取り付けていただければ、毎朝気軽に体温や血圧を測定できる。また健康や美容などに関するコンテンツも提供予定。もちろん、当社のお客様サイトにもこのミラーからダイレクトにアクセスすることもでき、代理店に出向かずとも、各種手続きを気軽に行える。
このサービスを開発した背景には、お客様との接点が保険の加入時と給付金の支払時にほぼ限られる、という生命保険特有の課題がある。デジタルを活用して顧客接点を拡充させる取り組みは、お客様にアフラックをより身近に意識していただく機会を増やすだけでなく、当社がお客様の興味や関心、生活の変化などを迅速に把握し、最適なタイミングで保険を含む様々なサービスを提供することに繋がると考えている。
ほかにもがん啓発を目的とした3Dコンテンツを提供している。これは、MR(Mixed Reality=複合現実)デバイスを装着することで、リアルとデジタルが融合した世界に3Dのオブジェクトを投影し、それらを手で触れたり、動かしたりすることで、体験しながら「がん」について学ぶことができる。また、募集人の育成についてもデジタル化を進めている。「募集人教育AI」は、募集人の早期戦力化を目的に、ロールプレイング研修におけるお客様役や実施結果の評価をAIが代替する新しいサービスである。このように、常にリアルとデジタルの融合を意識した様々なサービスの提供を考えている。今後、リアルの代理店店舗と連携したデジタル代理店の開設を目指す。この取り組みでは、お客様へ一貫性のある体験価値を提供することが重要である。デジタル代理店では、健康やお金に関する様々なコンテンツの提供を通じて、保険への理解やニーズを醸成し、オンライン相談やリアルの代理店店舗で保険相談につながるサービスを提供していく。
少し先の未来を見据えたビジョンとしては、業界の垣根を越えたプラットフォームの構築を目指したい。病院や製薬会社、銀行、証券、またエンターテインメント企業や自治体など、生命保険事業領域だけでなく、様々な企業、団体とも連携し、各社がそれぞれの強みを持ち寄って様々な社会課題の解決に取り組みたい。また、異業種も含めたプラットフォームの構築は、当社の「新たな価値の創造」という当社の企業理念の実現に繋がると確信している。
今後も、「『生きる』を創る。」というブランドプロミスに基づき、社会と共有できる価値を創造するCSV(Creating Shared Value)経営を実践する。オープンイノベーションによる新たな価値創造を促進すべく、規模や業種を問わず、様々な企業との協業にも積極的に取り組みたい。