中華料理主体の外食店チェーン「熱烈中華食堂日高屋(以下、日高屋)」は1日のうちに何度も「顔」を変える。ラーメン店やファミリーレストラン、居酒屋など、時間帯ごとに利用形態は幅広い。多様な客層を迎える強みのひとつは、期間限定を含む多彩なメニューだ。個性を打ち出しすぎない味のバランスも受け入れられている。リーズナブルな価格や料理の安定感を支える日高屋の仕組みを解き明かす。(前回の記事<ちょい飲み広めた中華王「日高屋」 関東から出ない理由>)
創業50周年の記念メニューとして3月から「日高ちゃんぽん」を売り出したところ、日高屋史上最速で20万食を突破した。とんこつをベースに魚介系スープを加え、多彩な具材を入れたちゃんぽんは、ラーメン店やファミリーレストラン、居酒屋などの業態が溶け合う日高屋を象徴するかのようだ。客層やメニューの「ちゃんぽん感」も映す。
不動の看板メニューは「中華そば」。お酒を飲んだ後に「しめのラーメン」として注文する人が少なくない。飲んだ店を出てラーメン店に入る手間を省けるのは、飲み客にとって見逃せないメリットだ。主役級のポジションは不動だが、味のほうは「結構、変えてきた。変わっていないのは値段だけ」と商品部の鈴木昌也部長は明かす。
現在はチキンのうまみに魚介の風味が生きるスープだが、「以前はここまで魚介が強くなかった」(鈴木氏)。ラーメン業界で2000年あたりから魚介スープのブームが勢いづいたことにも目配りしたようだ。「世の中のはやり廃りは無視できない。あまり大げさに告知していないが、味の見直しは小まめに重ねている」(同)
近年のヒット作に「野菜たっぷりタンメン」がある。「メニューを見ないで注文する人がいるほど、女性が好む」(鈴木氏)。メニューに定着したのは2010年代。健康を気遣って、野菜を食べる人の増加が追い風になった。「ちょい飲み」のスターつまみ的存在の「餃子」も肉を増やし、皮を薄くするリニューアル済みだ。
新メニューの開拓は「飽きられてしまわないために欠かせない」(鈴木氏)。ヒットした商品でも、そのまま続けないで、しばらく時間を置いてから「復刻」を仕掛ける。9月から売り出した「肉そば」は4年ぶりの再登場だ。春には「担担麺」をリバイバルした。
「季節限定のメニューにも長年のファンが多い」(鈴木氏)。夏前には「今年はまだ『つけ麺』が始まらないのか」といった問い合わせが相次ぐ。夏には「冷麺」もある。こちらは冷やし中華ではなく、焼肉店でおなじみの盛岡風。冬は「チゲ味噌ラーメン」があり、中華の枠にとらわれない日高屋らしさがうかがえる。いくつもの復刻候補や季節メニューがあるのは、「長年、新メニューを考案してきた開発チームのおかげ」(同)。社内で広くアイデアを集め、既存メニューの練り直しや新商品の企画を重ねている。