BizGateリポート/ウェルビーイング

幸せや働きがい 見直す時代に 第1回日経統合ウェルビーイング調査

ウェルビーイング 人的資本 リスキリング

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

人材こそ競争力の源泉と考える人的資本経営が企業に根付きつつあるなか、人材価値向上に直結する概念として注目を集めているのが個人の生きがいや幸福感を意味する「ウェルビーイング(Well-being)」だ。2021年3月に「Well-being Initiative」を設立した日本経済新聞社は、企業に勤める一人ひとりのウェルビーイング実感を測定し可視化するためのアンケート調査を初めて実施した。その結果からは、企業が従業員のモチベーションや幸福感を向上させるための糸口が見えてくる。

認知することが第一歩

「日経統合ウェルビーイング調査」と名付けたアンケート調査は伊藤邦雄・一橋大学CFO教育研究センター長の監修のもと、2023年6月末から7月に実施した。対象はベンチマークと呼ぶ上場企業在籍のモニター1万人と、Well-being Initiative経営委員会に参加する企業の回答者(1万8904人)。まず総合的なウェルビーイングについて、「直近3〜6カ月でどの程度ウェルビーイングを実感できているか」を聞き、次に組織風土、キャリア自律など5つのカテゴリーに関連する設問を立てて調査をおこなった。

 

シニア層で低下

最初の「直近3〜6カ月でどの程度ウェルビーイングを実感できているか」という質問に対しては、10点満点で7点以上をつけた回答者の割合を「ウェルビーイング実感が高い人」に分類した。その結果、ベンチマーク集団では20代の45.8%に対し30代(36.1%)、40代(30%)、50代(29.9%)と年を重ねるほど幸福感を実感している人の割合は低下した。伊藤氏は「企業内で責任は増すが、自分自身でキャリア形成しているという実感に乏しい。しかも家庭では子供の教育費負担などが重くなる時期。中間管理職のフラストレーションを反映しているのかもしれない」と分析する。60代で41.7%と回復するのは、社内競争から解放され子供なども自立して、経済的自由度が増すことが背景にありそうだ。

ただ、Well-being Initiative参加企業の中には、異なる傾向を示す企業もあった。その代表格が富士通だ。今回調査に回答したのは同社の人事・総務系職場の734人だけだったが、「ウェルビーイング実感が高い人」の割合は20代から30代にかけていったん下がるが、40代で再度上向く結果となった。40代ではベンチマーク集団を15㌽以上上回った。50代では再び若干低下したが、それでも「ウェルビーイング実感が高い人」の割合は30代を上回った。そして60代では再び上昇し、ベンチマーク集団を10㌽超上回った。

学び直しが奏功

中年世代でウェルビーイング実感がそれほど落ち込まず、場合によっては回復するのはなぜなのか。富士通の荒木勤Employee Relation統括部長は「調査に参加した職場と人数が限定的なため、全社的傾向とは即断できない」と前置きしつつ、同社が進めている「キャリア自律」のための施策が奏功している可能性を指摘する。同社は20年4月から幹部社員を対象にジョブ型の人材マネジメントを導入し、同年7月にポスティング制度をグループ会社にまで拡大した。22年には一般社員にもジョブ型人事制度を導入。3年間で既に国内社員(グループ会社含む)の1割以上に当たる7500人超がポスティング制度で異動しており、自らのキャリアを自らの意思で選び取る雰囲気が醸成されつつある。学びの機会提供にも熱心で、40〜50代の社員たちが組織マネジメントや最新のテクノロジー関連などのオンライン講座を積極的に受講している。こうしたリスキル/アップスキリング施策もシニア層のウェルビーイング実感を下支えしているようだ。

今回の調査ではベンチマーク集団に対し、追加項目として「ウェルビーイングという言葉を知っていますか」という質問をした。その結果、「聞いたことがあり、意味も知っている」と答えた人の55%は「直近3〜6カ月のウェルビーイング実感」でも7点以上をつけた。一方で「聞いたことがない」と回答した人でウェルビーイング実感が高かったのは20%に過ぎなかった。伊藤氏はこの現象を「ウェルビーイング・コンシャス・プレミアム」と呼ぶ。会社が働きがいなどに配慮し、関連施策をしっかり説明している企業の従業員は当然ながらウェルビーイングへのコンシャスネス(認知度)が高く、結果として幸福感も高い傾向があるというわけだ。

トップ自ら発信

このためウェルビーイング向上への第一歩はトップ自らの発信ともいえる。丸井グループでは21年からの中期経営計画でウェルビーイングを経営目的の一つとして位置付けており、社員の9割が取り組みに共感し、職場で話したり、自ら考えたりするとした社員も3分の2に達する(22年2月時点)という。小島玲子・取締役上席執行役員CWO(チーフ・ウェルビーイング・オフィサー)は「世界保健機関(WHO)憲章ではウェルビーイングを健康の定義としており、産業医として丸井グループに着任した11年からその重要性を伝えてきたが、経営目的に据えたことで一気に認知が進んだ」と分析する。

さらに「健康経営の分野では会社が健康経営に力を入れていることを社員自身が感じられているかが社員の意欲や主体性に影響するとの研究成果が出ている」と指摘。ウェルビーイング・コンシャス・プレミアムもいずれ実証されるとの見方を示す。そのうえで「重要なのは経営陣との信頼関係。号令だけで推進するための行動が伴わなければ、社員に不信感が広がる可能性がある」と強調した。

調査では日本の企業と企業人の課題も浮き彫りになった。ベンチマーク調査では5カテゴリーのうち最も数値が低かったのは「キャリア自律」で、特に「会社には副業・兼業の自由がある」(平均2.61点)と「あなたは日々の仕事に喜びや楽しみを感じている」(同2.99)が3点を下回った。

副業や兼業に対し柔軟な姿勢をとる企業も増えており、今後数値は改善するかもしれない。ただ、働く側の意識改革も必要だろう。伊藤氏は「日本人は自分の人生を会社に委ねすぎていないだろうか。会社からの評価などを気にし過ぎず、個人の働きがいや幸せを自分自身でもう一度見つめ直す時代ではないか」と語る。今回の調査は企業経営者にとって示唆に富む結果だが、従業員側が自らの働き方を見つめ直す契機にもなり得るだろう。

 

共にナラティブを紡ぐ関係構築を

伊藤 邦雄 氏 一橋大学CFO教育研究センター長

アンケートの設問制作などで監修役を務めた一橋大学の伊藤邦雄・CFO教育研究センター長に、改めて調査の意義や調査結果から浮き彫りになった日本企業の課題を聞いた。

――今回、調査を実行した背景は。

「人的資本経営にはウェルビーイング実感の向上が必要という点は、大方異論はないと思う。ではウェルビーイング実感を高めるにはどんな施策が有効か。この問いに対する解を見つけるには、まず、現状のウェルビーイング実感を測定し、数値化、可視化する必要がある。数値データがあれば、社員のウェルビーイングが経営者側の印象論や思い込みで語られることを回避できる。ベンチマークがあれば世の中で自社のウェルビーイングの水準がどの辺に位置するのかも分かる。測定可能なものはコントロールできるし、測定しなければコントロールできない」

――調査結果から明らかになったことは。

「ウェルビーイング・コンシャス・プレミアムとも呼べる傾向があった。ウェルビーイングに関して聞いたことがあり意味も知っている人の方が、そうでない人よりウェルビーイング実感が明らかに高かった。つまりコンシャスネス(認知度)がウェルビーイング実感向上に向けたスタートになる。経営者が日ごろからウェルビーイングの重要性について語っていれば、社員は会社が自分たちの働きがいや幸福感について真剣に考えていることを知り、自分でも自らのウェルビーイングを高める方法を模索するだろう。また、企業なので業績目標の数字を定めることは必要だ。ただ、数字だけを掲げるのではなく、『この数字を達成すれば我々はこんな幸せをつかめるのでは』という提示の仕方をすれば、社員のウェルビーイングにも寄与すると思う。経営者と社員が対話して幸せに向けたナラティブ(物語)を紡ぐような関係を築けるかがカギだ」

――幸福感という社員の心の領域まで会社が目配りする必要があるのか、という声もありますが。

「ウェルビーイングを高めるために、社員になんでも迎合しなければならないというわけではない。例えばジョブポスティング制度は社内で公募されたポストを巡り、複数の人が手を挙げれば競争になる。自らキャリア形成していくには有効な制度だが、ある種の緊張感も伴う。緊張を伴う達成感もウェルビーイングを構成する一つの要素だと思う」

<調査の概要>
5分野を5段階で評価
 日経統合ウェルビーイング調査では、ウェルビーイングをどの程度実感できているかを聞く「総合的ウェルビーイング」について10〜0点の11段階で回答してもらった上で、その要因を分析するため、ウェルビーイングを構成する①組織風土②キャリア自律③健康安全④社会関係⑤経済自立――の5つのカテゴリーについて「とてもそう思う(5点)」〜「全くそう思わない(1点)」の5段階で評価してもらう方式とした。さらに各カテゴリーに関連した設問を10問ずつ用意し、全56問で働く人がどのような部分でウェルビーイングを実感し、どこに課題を抱えているかを細かく見える化できるようにした。
 個々の企業がウェルビーイングに関する取り組み状況を評価・認識するためのベンチマークを設定するため、日経リサーチを通じて2023年6月30日〜7月4日に上場企業の正社員1万人を対象とした調査を実施した。ベンチマークと自社調査を比較することにより、現時点における強みや課題を認識できるほか、継続的に調査することにより、取り組みの効果も把握できる。

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

ウェルビーイング 人的資本 リスキリング

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。