「モノが売れない」といわれる現代にあって、期待を集める手法がある。ライブ配信を通じて商品を販売する「ライブコマース」だ。ネット通販に動画配信を組み合わせた販売手法「動画コマース」のうち、録画ではなく、生中継で動画を配信するタイプを指す。先行した中国では当たり前の販売手法として定着しつつあり、日本でも導入が広がってきた。『売れる「ライブコマース」入門』(フォレスト出版)の著者で、ライブコマース支援を手がけるTailor App(テイラーアップ)社長の松村夏海氏に、ライブコマースの魅力やコツを教わった。
ライブコマースは中国で先行して広まった通販手法だ。11月11日の「独身の日」のセールで売り上げ増に貢献して関心を集めた。今では日本企業も資生堂やファーストリテイリング、トヨタ自動車など、国内の有力企業が相次いで導入。有望な販売手法として広がり始めた。「新型コロナウイルス禍のあおりで、対面の接客が難しくなったことに伴い、国内でも急速に関心が強まった」と、松村氏は過去3年間で弾みがついたとみる。
似たようなイメージの販売手法ではテレビショッピングが先行している。売る側が画面越しに語りかける構造は同じだが、録画とリアルタイムの違いがある。さらに、「一方通行のテレビと双方向のライブコマースという違いが大きい」(松村氏)。ライブコマースでは進行・販売役の「ライブコマーサー」(以下コマーサー)が視聴者の質問やコメントを引き出すように振る舞って、問いかけに応じる形で、情報を補っていく。視聴者と一緒にライブイベントを盛り上げていくような構成だ。
テレビショッピングに比べ、少ない予算で始めやすいのがライブコマースの強みだ。テレビでは予算が大きくなりがちで、それに見合った売り上げが望まれる。つまり、単価や販売数量に相当の規模が必要となる。一方、ライブコマースはテレビショッピングよりずっと小ぶりなシステムで済む。このため「中小企業でも始めやすいうえ、商品の価格や数量も自由に設定できる」と松村氏は事業化の容易さを説く。コマーサーが丁寧に解説するから、趣味性が高い商品でも売りやすい。
ライブコマースはエンターテインメント性が高い。テレビショッピングも芸能人をゲストに迎えて面白おかしく進行する演出が少なくないが、台本はおおむね共通していて、商品の紹介から売り込みへと続く一本調子になりがちだ。松村氏は「台本通りの予定調和に終わらないドラマ性や偶然性を呼び込めるのがライブコマースの良いところ。広告代理店のディレクションではつつがない進行に努めがち。参加者と一緒に練り上げていくノウハウがあれば、購買モチベーションを刺激しやすくなる」と語る。