日本経済新聞社が2022年3月に始動した日経メタバースプロジェクト。22年度に開催した「日経メタバースコンソーシアム未来委員会」や「クリエーターズミーティング」に参加し、ビジネスの視点から市場活性化に向けた課題やビジョンを語ったのが凸版印刷情報コミュニケーション事業本部先端表現技術開発本部クロスボーダー戦略部部長の半田高弘氏だ。半田氏に日経メタバースコンソーシアムに参加した印象と凸版のメタバース事業の展望について聞いた。
ビジネスチャンス広がった1年
――未来委員会は日本のメタバース市場の現状や課題の整理、将来の展望などを多角的に議論した。
「メタバースを活用した地方創生の実例や、働き方をよりよく変える価値が語られるなど委員からは様々な提言があった。日本でもメタバース市場形成への期待感や、共通認識が醸成されてきたと実感した。技術進化や世界的な市場拡大などにより、一定条件を満たせば誰もがメタバース空間でビジネスを行えるようになった」
「未来委員会でも、メタバースを活用した様々なプロジェクトについての発表があったように、日本でも幅広い領域で社会実装が進められている。この1年間で日本におけるメタバースのビジネスチャンスは大きく広がった」
――1年間の議論の中で「市場の拡大に向けて、いかにメタバース空間にユーザーを集めるかが重要だ」と繰り返し強調した。
「多くのユーザーを集める仕掛けづくりは、市場拡大と切り離せない課題と認識している。当社が開発したメタバースショッピングモールアプリ『メタパ』はまさにそうした課題意識から生まれた。店舗間の回遊や、友人と会話しながらのショッピングなど、リアルとバーチャルを掛け合わせた新しい買い物体験を提供する」
「単にリアルで美しいCG(コンピューターグラフィックス)があるだけでは、ユーザーは1回限りでメタバース空間から離れてしまう。広く社会に価値をもたらすような、メタバースならではの体験の提供が大切だ。それが実現できてこそ、メタバース空間に恒常的なにぎわいが生まれ、多くの企業が参入してさらに市場が活性化するという好循環が生まれるだろう」
粗削りの面白さ いかに残すか
――議論の中で、特に印象深かったことは。
「健全なクリエーターエコシステムの形成に向け、メタバース事業に取り組み企業の担当者やクリエーターが議論を展開した『クリエーターズミーティング』だ。自由闊達な議論を通じ、クリエーターからは、あらゆることに軽やかにチャレンジする姿勢や気風を感じた。その粗削りさが面白い。メタバースのような新しい領域では、企業はリスク管理を重んじるがゆえに、こぢんまりとしたビジネスを展開してしまいかねない。ビジネスとしてのクオリティーを担保しながら、クリエーターと協働して粗削りな面白さをいかに残すか。ここには、いま少し企業側の歩み寄りが必要だろう」
――ユーザーやクリエーター個人の意思が尊重されるメタバース空間では、国や企業、あるいは今後出現するであろうプラットフォーマーはどのような役割を担うか。
「未来委員会で何度も話題になったテーマだ。Web3.0(次世代の分散型インターネット)などと同時期に社会に浸透し始めたメタバースは、『分散』をキーワードに語られることも多い。プラットフォーマー(基盤提供者)による中央集権的な管理が行われてきた従来のインターネット空間へのアンチテーゼ(反論)だという見方もある」
「国や企業などの組織の壁を取り払った自由なコミュニケーションが生まれることがメタバースの特長の1つだが、実際の管理はどのように行われるか、まだ答えはみつかっていない。難しいテーマだが、産官学のプレーヤーが集まる未来委員会のような会議体で議論を続けることには大きな意義があるだろう」
――凸版印刷は今後、どのようなメタバース事業を展開するか。
「安全かつ簡単に、リアルなメタバース空間を構築できるサービス基盤『MiraVerse(ミラバース)』や、ウェブ上に高精細な3Dデータを表現できる『MiraVerse Core(ミラバースコア)』の提供などを通じて、産業領域でのメタバース利用拡大を後押しする。業種や事業領域を問わず、幅広い企業のメタバース活用を支援することで、多くのエンドユーザーの役に立ちたい」
(聞き手は原田洋)