腸の健やかさを重んじる「腸活」にいそしむ人が増えている。過去10年ほどの間に健康分野で最も「出世」した臓器の一つが腸だろう。ヨーグルトと並んで、腸の働きを整える効果が知られる食材に納豆がある。納豆最大手のタカノフーズ(茨城県小美玉市)は主力ブランドの「おかめ納豆」で有名だ。創業から90年を超える同社の歩みを通して、知られざる納豆の製法や食文化をたどってみた。
スーパーの食品売り場では笑顔が迎えてくれる。看板商品の「極小粒ミニ3」をはじめとする、「おかめ納豆」のパッケージにはおなじみのおかめ顔があしらわれているからだ。「おかめ納豆」という名前は広く親しまれていて、もちろん、タカノフーズの登録商標なのだが、実は最初からそうだったわけではない。
タカノフーズは1932年に「高野商店」として創業した。しかし、「おかめ納豆」の名前を商標登録したのは67年で、ずっと後になってから。「当時は『おかめ納豆』と名乗るブランドが全国にいくつもあったと聞く。創業者(髙野徳三)は千葉県佐原での修業先にちなんで屋号を決めた」と、同社営業推進部門納豆営業推進の市村真二マネージャーは事情を明かす。
知名度が上がっていったこともあって、65年には東京進出を果たした。高度経済成長期を迎え、創業者は伸び盛りだったスーパーへの売り込みを仕掛けた。イトーヨーカ堂、ダイエーなどとの取引に成功し、以後はスーパーの店舗数が増えるのにつれて、タカノフーズの納豆も売り場が増えるという右肩上がりの成長に。今でもスーパーでは「おかめ納豆」が強い。
身近な存在である割に、納豆の製法はあまり一般的には知られていない。「納豆菌を使って大豆を発酵させる」という基本原理は有名だ。しかし、工程に関しては誤解も少なくない。
たとえば、納豆とパッケージの関係もそうだ。大釜でゆでた大豆を発酵させてから、各1人前の発泡スチロールパックへ小分けすると思い込んでいる人もいるだろうが、実は逆。「蒸し上がった大豆を先にパックへ小分けしてから、パックのまま発酵室に入れる」(市村氏)。チョコレート工場のような映像を見慣れていると、最終段階で1個ごとのサイズにカットされるイメージを持ちやすいが、納豆は違う。
「納豆の製法は意外にシンプル」と、市村氏は説明する。大豆を水につけてふやかし、圧力釜で高温・高圧の蒸し煮状態にした後、霧状の納豆菌を振りかけて、発泡スチロール容器に入れる。この段階ではまだ納豆特有の粘り気はないサラサラの状態。納豆菌が活発に活動するのは、40度前後に温度管理された発酵室の中。約1日かけて納豆菌による発酵を待つ。さらに、冷蔵庫でじっくりと熟成させる。原料を工場に運び込んでから出荷までにはトータル3日ほどがかかるという。