若い働き手は昇給や出世といったインセンティブ(動機付け)に、かつてほどには反応を示さないという。チームを抱える上司にとっては、動かし方が分かりにくく、途方に暮れてしまうところもあるようだ。「働き手の意識が変わっているのだから、上司も昭和・平成(の時代)とは発想や振る舞いを変えるべきだ」と説くのは、エンゲージメント支援を手掛けるNEWONE社長の上林周平氏。『人的資本の活かしかた 組織を変えるリーダーの教科書』(監修・田中研之輔、アスコム)の著者でもある上林氏から、令和時代に成果を出すリーダーのあり方を教わった。
「給料が上がる」「早く昇進できる」。どちらも昭和・平成の職場では魅力的に響いた言葉だ。上司が部下を動かすにあたっても、こうした広義のインセンティブが切り札的に用いられてきた。しかし、現代の20代の働き手には効き目が薄いようだ。「今の若い層は報酬や出世といったインセンティブでは動かない。上司の一方的な指示にも従わない。働き手の目的意識は様変わりした」と、上林氏は職場の景色が変わったと指摘する。
旧来の「働かせ方」に慣れている上司層は「お手上げ」に近い状況だ。「笛吹けども踊らず」の部下たちと、どう接すればよいのか。上林氏は「彼らの成長に寄り添う姿勢を示すのが最も効果的」とアドバイスする。ただ、勘違いしてはいけないのはこの「成長」が「彼らが自ら望む成長」である点だ。上司が往々にしてしくじりがちなのは、自分の感覚で「成長、成功、ゴール」を思い描いてしまうからだ。上司の願望と部下のプランは一致しないことが珍しくない。
部下の気持ちに寄り添うと決めたら、部下の本心を知る必要がある。知らない願望はサポートできない。1対1の対話「1on1」のような、プライバシーを保ちやすい状況下で、じっくりと本音を聞くのが望ましい。だが、ここでも従来型の上司然とした振る舞いは好ましくない。「5分間、好きなようにしゃべって」では、せっかくの対話環境が無駄になる。「応援・サポートしたい」という気持ちを理解してもらう必要がある。「教え導いてやる」という上から目線ではなく、本気で部下のキャリアを支援する姿勢を見せられるかどうかが、本音を引き出すうえでの分かれ目になりそうだ。
いちいち反論を差し挟まないで、相手のペースで話してもらうことを、「聞く力」だと勘違いしている人は少なくない。ひたすら耳を傾けるのは、一方的にしゃべるのと同じように、本来の「対話」ではない。いかにも「聞いてやる」という上役感が出るのもこの態度の欠点だ。相づち程度しか聞こえないと、相手は「真剣に聞いてくれているのか」と疑問を感じてしまう。「上司自身の考えを織り交ぜながら、しっかりとポジティブに意見を重ねていく話し方が望ましい」(上林氏)。具体的に語ってもらうには、まず上司の側からキャリアや業務に関する私見を明かして、人事考課めいた上っ面の議論から踏み出すのも効果的だろう。