人材の価値を大きく伸ばす人的資本経営を志向する企業が増えるなか、従業員や取引先といったステークホルダーの働きがいや幸福感への関心が高まってきた。日本経済新聞社はウェルビーイングに対する認知や理解をさらに高めるため、5回目となる「日経Well-beingシンポジウム」を9月25日、26日の二日間にわたって開催した。国内外の有識者や企業関係者が集結し、ウェルビーイング向上のための実践事例や研究成果、政策提言などについて活発な発言が飛び交った。(上下2回で掲載)
【基調講演】測定は対策づくりへの第一歩
伊藤 邦雄氏 TCFDコンソーシアム 会長 / 人的資本経営コンソーシアム 会長 / 一橋大学 CFO教育研究センター長
これまで人的資本経営に十分に採り入れられてこなかった新たな指標作りとして、ウェルビーイングの可視化に挑戦した。
組織風土、キャリア自律、健康安全、社会関係、財務自立という5つのカテゴリーから構成され、これらを統合したものを統合ウェルビーイングスコアと言う。
可視化することで、社員のウェルビーイングが経営者側の印象論や思い込みで語られることを回避できる。さらに、世の中で自社のウェルビーイングの水準がどの辺に位置するのかが分かる。さらに、社員のウェルビーイング実感の経年変化を測れるといった効果が期待できる。
測定できるものは制御可能となり、ウェルビーイングを高めるための有効な対策やアクションにつながるだろう。
まず総合的なウェルビーイングについて、「直近3〜6カ月でどの程度ウェルビーイングを実感できているか」を聞き、さらに分類した設問を5つ設けた。次に前述の5カテゴリーで各10問ずつ、全体で56問を設けてアンケート調査をおこなう設計にした。上場企業に勤務されている正社員1万人を対象に調査し、これをベンチマークとした。
ベンチマークから分かる傾向として、総合的ウェルビーイングは10点満点で平均が5.45点だったが、2割の人が4点以下である点は懸念すべきだ。
カテゴリー別に見ると組織風土の数字は低めで、経営者と社員間の対話に問題を抱えている実態が明らかになった。革新に向けた動きには課題があり、イノベーションを起こしづらい組織風土になっていることが推察できる。意外だったのは、キャリア採用者に対する抵抗感は少なく、フレンドリーな雰囲気が醸成されている点だ。
最も平均点が低かったのはキャリア自律だった。自分が果たすべき役割や目標は分かっているが、働き方の選択肢が限られている実態が垣間見えた。社員のスキルの見える化ができていないため、人材活用や育成に課題を抱えていることも読み取れる。副業・兼業はあまり進んでおらず、日々の仕事に喜びや楽しみを感じられていないという問題が顕在化した。
健康安全は全般的に高く、企業側の取り組みの成果が出ている。ただし社員個人の感覚としては、仕事上のストレスを感じていることがあらわになり不安要因だ。
社会関係からは、部門間の壁に多くの人が悩まされている姿が見える。職場内での協力や関わり合いが乏しいと感じている人が多いようだ。
財務自立は相対的に高いものの、具体的な視点に落とし込むと安心はできない。つまり、イメージとして経済的に自立していると捉えている人が多いのだろう。会社が社員に対して金融リテラシーを獲得する機会を提供していない、賃金給与への納得感がさほど高くないなど、経済的不安や不満が垣間見える結果となった。
経営者は主観論や印象論でウェルビーイングを捉えると独善的になってしまう。今回のデータをもとに経営幹部や社員と議論してほしい。
【基調講演】政権への支持も予測可能
ヤン・エマニュエル・デ・ネーヴ氏 オックスフォード大学 サイード・ビジネス・スクール教授 / Wellbeing Research Centre 所長
国内総生産(GDP)には多くの限界がある。経済産出量の尺度としては優秀だが、それ以外では不十分だ。強みは単一のKPI(評価指標)であることと、納得感を得られることだ。GDPを超える指標は同じような強みが必要で、主観的ウェルビーイングはGDPを補完する基準になると考えている。
ウェルビーイングとは感情で、既にギャラップ社などがウェルビーイング調査を行っている。ウェルビーイングを可視化すれば生活を豊かにし政策にも活用できる。調査では生活をどう感じるか、生活の質をどう評価するかを尋ねている。人々の生の声であることと、測定範囲が広くデータを基にサイエンスが構築されていることも利点だ。
政策立案の観点からウェルビーイングを考察する時には、人の寿命も考慮すべきだ。政策分析ではウェルビーイングや生活評価を「ウェルビーイング調整生存年」に変換する必要がある。
完璧な質の人生を追求して1年延命するより、多少人生の質が落ちても5年延命できる方が政策的には意義があるからだ。議論はあると思うが、ウェルビーイング調整生存年こそが進むべき道だと思う。
ウェルビーイング調査は政治とも関連性がある。GDP、失業率、インフレ率などの数値よりも、人々のウェルビーイングの変化の方が現政権への支持を予測しやすい。先進国の賢明な政治家はこのことを理解し始めている。
一方で主観的ウェルビーイングは、環境の持続可能性に関しては課題がある。2020年発表の論文でSDGs(持続可能な開発目標)の項目ごとの成績と国民のウェルビーイングの相関関係を検証したところ、ウェルビーイングと負の相関がある項目が2つあった。
12(つくる責任 つかう責任)と13(気候変動に具体的な対策を)だ。さらに分析すると12が最も強い負の相関があったのだ。これは社会に責任のある生産者や消費者になろうとすると、短期的には生活評価にマイナスの影響を与えることを意味している。
環境対策と生活の質との間には緊張関係が存在する。環境を改善し行動を変えながらも人々の幸福感を損なわない巧みな政策を考える必要がある。
【講演】人事制度、ハイブリッドで
奥村 英雄氏 TOPPANホールディングス 執行役員 人事労政本部長
当社は、大蔵省印刷局の技師たちが最先端の印刷技術を用いて社会文化の発展に貢献することを目指して1900年に設立した。創業以来、変化に対応しながら社会的価値の創造に挑戦してきた。イノベーション創出こそが当社のDNAだ。
イノベーションの創出を加速するためには従業員のウェルビーイングが必要不可欠だ。ウェルビーイング経営を加速させる施策として「TOPPAN版ジョブ型人事制度」や「人財開発プログラムの充実」、土台となる施策として「従業員のコンディション向上」と「従業員エンゲージメント調査」に取り組んでいる。
ジョブ型人事制度は職群に合わせたニューノーマルな働き方を前提としたジョブ型と日本型雇用のハイブリッドな制度というのが特徴で、若手抜てきができるような制度とした。
エンゲージメント調査は2022年1月から実施。期待と実感のギャップの具体的な原因を把握し、組織の課題を抽出している。新中期経営計画にも従業員のウェルビーイングのKPIとして設定している。
ウェルビーイングへの貢献として注力しているのがヘルスケア事業だ。医療ビッグデータ専門のICIを連結子会社化し、電子カルテデータベースの強化とデータ分析ツールの拡充による品質の向上を実現。処方箋薬を自宅などで受け取れる会員制サービス「とどくすり」も開始した。
10月1日より当社は持株会社体制へ移行。社名から「印刷」を取り、「TOPPAN」となった。事業ポートフォリオ変革をもとにステークホルダーのウェルビーイング実現を目指していく。
【パネルディスカッション】利他の精神で街づくりを
木下 慶彦氏 Skyland Ventures General Partner / CEO
モデレーター 石川 善樹氏 公益財団法人Well-being for Planet Earth 代表理事
石川 GDPとウェルビーイングで国の成長を見ることが政府方針として決まった。その中で、ウェルビーイングと街づくりは欠かせないキーワードになってくる。
齋藤 サンフロンティアは東京都心部のオフィスビルを中心に事業を展開している。創業以来、フィロソフィをベースにした理念経営を貫いており、「クレド(社是)」として掲げているのが「利他」だ。どれだけ多くの人のお役に立てるか、この価値観を大事にしている。サステナビリティにおける課題は環境保護、地域創生、人財育成を柱に定めた。
まだ使えるビルを壊して建て替える時代ではもうない。地球のウェルビーイングを考え、使い続けるための工夫や技術が大事になる。事例の1つがA YOTSUYAだ。築40年ほどのビルをリノベーションした各部屋には、様々なアーティストによるミューラルアートが壁一面に描かれている。アートとオフィスを融合させた事業はスタートアップに好評で稼働率も高い。ここはウクライナ避難民の方々の交流の場にもなった。人の温もりを感じる場の提供がウェルビーイングな街づくりにつながると考える。
木下 ベンチャーキャピタルは他人の資金を預かり、投資をして、一緒に成功するという点で利他のDNAを持っていると感じている。私自身は学生時代に起業して30歳前後に上場するロールモデルづくりに取り組んできた。これまで資金が集まりにくかった社会起業などの分野を含め、スタートアップが今まで以上に期待され、マーケットも大きくなってきた。昔より環境のよい空間で働き、レベルも高く様々な人がいることを伝えていきたい。
石川 何をウェルビーイングとするかは人それぞれ価値観が違ってもよいが、どうウェルビーイングに貢献するかを考えた場合、それは選択肢から自己決定することになる。利他という観点からよりウェルビーイングにしていこうと思った時に、東京の持つ可能性は何だと思うか。
齋藤 コロナ禍で人が集まれなくなりリモートワークが常態化し、技術も上がったが、今また人はリアルに戻り始めている。人と会って話をすることでアイデアや感動が生まれるからだろう。今は地方と東京の連携がリモートでできる。都市と地方が交流し合い刺激を与え合うのがいい。交流を広げるため、地方ではホテル事業も行っている。
木下 スタートアップのイベントをするときに1万円だけ交通費を出すといったことも始めている。地方の人は東京に出て来ることもハードルが高い。地方と東京のギャップを埋める取り組みもしている。
石川 コロナを機に、あらためてみんながどこに住み、誰とどんなふうに過ごしたいのか考え直したと思う。
【パネルディスカッション】価値循環が地方創生の鍵
柳川 範之氏 東京大学大学院 経済学研究科 教授
モデレーター 鈴木 寛氏 東京大学公共政策大学院 教授 / 慶應義塾大学 特任教授/ウェルビーイング学会 副代表理事
鈴木 人口減少を乗り越える新成長戦略は、日本にとって最重要課題だ。これについて説明いただきたい。
松江 人口減少を念頭に置いた成長の在り方のキーワードは「価値循環」だ。企業や地域経済の成長戦略において、循環を基軸に考えることを我々は提言している。ヒト・モノ・カネ・データの全リソースを循環させれば、人口減少の局面でも付加価値を高められる。この循環に①グローバル成長との連動②リアル空間の活用・再発見③仮想空間の拡大④歴史や時間の蓄積――という機会を掛け合わせれば市場が生まれ、経済的な付加価値につながる。
柳川 人口減少のほか、企業の撤退などでエコシステムが回らなくなった地域もある。切れたつながりの修復と、産業や地域、企業との新しいつながりの構築の両方が必要だと感じる。
政策の議論では、方向性やゴールは設定されるが、スピード感を持ってエコシステムを回すことを忘れがちだ。また、各地域の文化的な価値や蓄積は大きな財産であり、それらをどう付加価値に変えるのかも地域経済のポイントだと思う。
鈴木 今、最も循環していないのはヒトだと思う。ヒトが循環すると接触回数が増えて良い関係ができ、新しい創造性につながる。従来は同じ業種で集まるようなつながり方が多かったが、多様な人々が日常的に集まるサブプラットフォーム的な場を作ることも重要だ。 国家政策の中で、ウェルビーイングや地方創生は今後どんな流れになるだろうか。
柳川 ウェルビーイングが世の中に浸透してきた結果、どんな指標や手段でウェルビーイングを高めていくのか、金銭的な付加価値とウェルビーイングの関係をどう見ていくのかという具体論に入ってきた。まだ国内総生産(GDP)と同じようには数値化できていないが、多様な指標を使いながら総合的に見ていくことが大事だ。
鈴木 私はウェルビーイング学会で国内総充実(GDW)の発表を担当しているが、9月から要因分析も同時に公表している。最も重要なファクターは個々の家計を主観的にどう思うかだ。1人当たりの付加価値および「どう感じているか」の両方がそろうと、少なくともGDWでは極めて正の相関がある点が見えてきた。
松江 全国の自治体の中には、人口減少はしているが1人当たりの付加価値が上がっているケースもある。例えば岩手県八幡平市の「町の人事部」は、行政が民間と組んで地元企業の人事部機能の共通化するユニークな取り組みだ。地域それぞれの個性に合う形でつながりを作れば、産業としての付加価値が高まり、回転と蓄積が機能して1人当たりの付加価値に返ってくる循環ができる。まずは地域の個性に応じた掛け合わせを考えることが大事だ。
鈴木 価値循環は、誰が主導して回していくのか。
松江 これからは、政府と企業の双方が連携して、ヒトを基軸に一人ひとりの成長や自己実現を応援し、ウェルビーイングを高める必要がある。企業にとって働き手は最も重要なステークホルダーだ。賃金アップを含むヒトへの投資で、ヒトの価値を上げることが本質だ。
柳川 全て行政がやるのは難しい時代だとすると、それぞれが新しいつながりや発想を生み出すことがポイントになる。ベンチャーや社会起業家も含めてスモールビジネスをどんどん作ることも、地域産業の活性化の糸口になるのではないか。
【講演】「健幸」的生き方に焦点
石井 正彦氏 NECソリューションイノベータ 取締役 執行役員常務
病気を予防できる世界を実現するには、病気の原因に対するアプローチが重要だ。がんや循環器系疾患、認知症など、人類が克服できていない様々な因子が絡み合う疾患と対峙する必要がある。主力事業であるICT事業で長年積み上げたビッグデータAI解析技術に、バイオマーカーやバイタルデータをセンシングする技術を掛け合わせて、予防につながる疾病予測サービスを展開していく。
誰も病気にならない、病気になったとしても自分らしく生きられる社会の実現を目指して、2020年にはフォーネスライフというベンチャーを立ち上げた。血液から7000種類のたんぱく質を測定・分析して認知症、心筋梗塞など将来の疾患発生リスクを可視化するとともに、現在の体の状態も把握して、その人に必要となる生活習慣の改善を提案するサービスを提供している。将来は50以上の疾病・発症リスクの予測の提供や、生活習慣改善後の健康状態の可視化で、一人ひとりに寄り添った改善メニューの高度化を目指している。
ただ長生きするだけでなく生活の質も考慮する「健幸寿命」を伸ばすことが大切だ。自分らしく生きられる社会の実現に向け、主観軸に目を向けた活動に軸足を置いている。主観的ウェルビーイングの決定要因は「選択肢が多様にあり、自己決定できること」だ。
定期健診の結果からAIで検査値の将来予測を示し、その後の生活習慣でどう変化するかを分析する「NEC健診結果予測シミュレーション」を提供している。今後は将来の生活をより具体的にイメージできるようにし、利用者が自分自身で考え、決められるサービスへと昇華させたい。
協調性が土壌にある日本だからこそウェルビーイングを大切にする社会のリーダーにふさわしい。
【講演】金融リテラシー向上を
藤沢 卓己氏 三井住友トラスト・ホールディングス 執行役常務
2020年に「信託の力で、新たな価値を創造し、お客さまや社会の豊かな未来を花開かせる」というパーパスを定めた。実現には社員一人ひとりの内発的動機付けが重要で、カギを握るのがウェルビーイングだ。
新中期経営計画では、すべての人のウェルビーイング向上へ貢献することを中心に据え、ウェルビーイングへ正面から向き合う経営を宣言。社会課題解決と市場の創出・拡大に貢献する取り組みを示すKPIとして、AUF(※)という指標を定めた。
未来適合に向けた人的資本強化を掲げ、健康経営、エンゲージメントの強化、組織力の強化に向けたダイバーシティ経営、人材力の強化の4要素への取り組みを通じて、自律的なキャリア型人材の輩出を目指す。
「人生も、お金も、健やかに。」というキャッチコピーで、ファイナンシャルウェルビーイングにも取り組んでいる。ファイナンシャルウェルビーイングとは、自身の体や心の健康と同様にお金も健全に能動的に管理できることを指し、我々が目指す自律的な人材像にも通じる。金融リテラシーを高めることが、その人のウェルビーイング全体を左右する。
社員のファイナンシャルウェルビーイングが向上し、その中で得た知識や実体験をもとに、お客さまや社会のウェルビーイングに貢献できるのが理想の姿だ。社員意識調査の結果からは、自身のファイナンシャルウェルビーイングが高いほど、お客さまや社会へのウェルビーイング貢献実感が高いという好循環が見て取れる。19年には「資産のミライ研究所」を立ち上げた。岸田政権が掲げる資産運用立国の実現に向けて、投資の観点からも金融教育に取り組んでいきたい。
※Assets Under Fiduciary=資産運用残高+資産管理残高+自己勘定投資
【パネルディスカッション】ナラティブの変革が必要
ジョー・ダリー氏 ギャラップ シニアパートナー / 公共セクターグローバルヘッド
ギャレス・ヒューズ氏 ウェルビーングエコノミーアライアンス アオテアロア ニュージーランドカントリーリード
モデレーター アルデン・ライ氏 ニューヨーク大学 School of Global Public Health 助教
ライ 持続可能なウェルビーイングの目標について議論したい。
クリフトン 私たちは人々が今、何を感じているのかを示す指標の開発に取り組んでいる。既存の指標のような西洋型の概念ではなく、グローバルかつ包摂的なウェルビーイングを測ろうとしている。
ダリー ウェルビーイングの指標が国内総生産(GDP)のように影響力を持つためには、測定頻度と粒度を上げることが大事になる。
ライ 従業員のウェルビーイングの重要性と測定の必要性について聞きたい。
ダリー 従業員の状態が把握できなければウェルビーイングは実現できない。ウェルビーイングに関して質問することで、より良い生活が実現するという期待感を生むこともできる。ウェルビーイングはビジネスの成果につながる。組織と個人、双方の健康にメリットがある。
ヒューズ ニュージーランドではウェルビーイング予算がつき様々な実験をしている。政策担当者は社会問題の根本原因を突き止めず、症状に目が行きがちだ。ポリシー、プロセス、ナラティブ(物語的な共創)、ガバナンスなどの改革を行い次のステップに進むべきだ。ウェルビーイングをデフォルトにするには新たなガバナンスの枠組みが必要だ。ニュージーランドでは、先住民の精神性、環境とのつながりを重視したフレームワークもある。
ライ 持続可能なウェルビーイングの目標達成のために、ナラティブをどう変えるべきか。
ヒューズ 環境という点では、地球とつながっているという精神が重要だろう。これは強力なナラティブだ。
クリフトン 組織全体の目標と従業員のウェルビーイングは相容れないというナラティブを変える必要がある。例えば一部の企業幹部は顧客満足度などを気にかけるが、もし従業員が惨めな状況だったら、顧客にも影響を及ぼす。従業員の感情と顧客の感情はつながっていると考えるべきだ。
GDPは重要だが、生活全体を表す指標ではない。ウェルビーイングという補完的な指標が必要になる。
ダリー 投資家や経営幹部の中には、ウェルビーイングはビジネス上の意思決定には影響を及ぼさないという人もいるが、それは正しくない。従来の指標だけ追っていたらビッグチェンジの瞬間を逃すだろう。
ライ 政府と民間の協業で成功例はあるか。
ヒューズ ニュージーランドで成功したのは情報開示だ。ニュージーランドの取引所では、企業のアニュアルレポートに気候変動への影響を開示する必要がある。
クリフトン 経済と幸福、両方の指標が必要だ。リーダーは単に経済の改善だけではなく幸福度を上げる努力をするべきだ。
ヒューズ 最終的なウェルビーイングにつながるものとして、政府の予算管理局や監査機能はもっと重視されてもいいと思う。
ライ ビジネスリーダーとしての戦略を聞きたい。
クリフトン 米国ではメンタルヘルス危機に対応するホットラインが、英国では孤独相が設けられた。企業のマネジャーの教育も必要だ。私たちは基本的なトレーニングの投資も行っている。
ダリー ビジネスコミュニティがイノベーティブになることを重視すべき。世界がメンタルヘルス危機の中にある今、企業は何らかの解を見つけなくてはならない。
クリフトン 例えば、職場に燃え尽き症候群に陥った人がいたら上司はなぜなのか知ろうとするが、理由は1つではない。解決するには耳を傾けるしかない。聴き上手になることが大事になる。
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