SDGs(持続可能な開発目標)にデジタルトランスフォーメーション(DX)……。ビジネスの現場には次々課題が降ってくる。あなたの職場は持続可能ですか。今回は少数株主から自社株の高額買い取りを請求されたファミリー企業経営者に、辻・本郷税理士法人の楮原達也氏が対処法を助言します。
創業者の後を継いだ2代目、3代目の経営者の多くが直面する課題の一つです。同族経営でも、会社を支える役員や従業員、取引先、顧問税理士らに株式を持ってもらうケースは多いのです。相続対策として、役員らに割安な価格で自社株を渡すオーナー経営者も目立ちます。
元役員や元社員が株主、けんか別れすると…
問題はこれらの株主が会社と良好な関係であり続けるとは限らないことです。役員や社員はけんか別れをして辞めていくことがありますし、税理士や取引先は契約を打ち切ることがあります。その際、すぐに交渉して株式を買い取れれば良いのですが、現実には放置されるケースが多く見られます。そして時が過ぎ、株主が子どもらに相続したり、誰かに譲渡したりしていたら、いざ買い取ろうと思っても簡単ではありません。
最近、このようなトラブルが増えています。交渉が難航し、結果として税務上の評価をはるかに上回る評価額(将来の予想キャッシュフロー等に基づいて価値を算定するDCF法などで算出)での買い取りを求められるケースが珍しくありません。私が担当した案件では、代替わりした親族株主との交渉がこじれ、税務上の評価額の4倍の価格で買い取ったケースがあります。
もちろん、少数株主をないがしろにした対応は許されません。たとえば、少数株主に声をかけずに株式交換を行って持ち株会社化を図った会社がありました。このケースでは株主総会決議無効の訴えを起こされ、結果的に再び株主総会を開催し、反対株主の買い取り請求に応じざるを得なくなりました。このほか、少数株主が株主代表訴訟を起こすリスクも考慮しておく必要があります。
少数株主、買い取り含め早めに交渉を
では、トラブルを防ぐにはどうすればよいのでしょうか。やはり、放置せず早めに少数株主と交渉する以外に手はありません。私がオーナー企業の経営者から事業承継の相談を受ける際には、保有株(経営権)の承継方法を助言するとともに、事業継続のリスクとなりうる少数株主への対応を行うよう勧めています。少数株主に株式を持たせたときの背景を改めて確認し、次の代に会社を承継する前に少数株主と買い取りの交渉を行い、解決しておくのです。
交渉をした結果、買い取り価格が想定より高くなることはあると思います。でも、問題を先送りして将来トラブルとなれば、より高い代償を払うことになりかねません。トータルな判断を、経営者が早急に行うことが重要です。
もちろん、少数株主からの買い取りが難しい場合もあります。その場合は、次善の策として保有株を優先的に配当が支払われる無議決権株式に変更してもらうのは一案です。帳簿閲覧権や株主代表訴訟権は議決権を持たない一定の株主であっても行使できるため万能とはいえませんが、経営への関与度合いを大幅に低減することができます。