NIKKEIブルーオーシャン・フォーラム

世界が注目「ウニノミクス」の力 環境・地方創生の両得

脱炭素 地方創生 海洋保全

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

海藻が消失する「磯焼け」現象が世界各地の海岸で広がっている。二酸化炭素(CO2)を海中に長期貯留する海藻がなくなる磯焼けは地球温暖化につながる。磯焼けの原因の1つとされるウニによる食害を防ぎつつ、地元漁業者の収入を増やすなど地域創生にも役立つ一挙両得の事業を国内で始めたスタートアップがウニノミクス(東京・江東)だ。国連教育科学文化機関(ユネスコ)や世界経済フォーラム(WEF)からその革新性を評価されるなど、世界が注目するユニークなビジネスモデルを取材した。

日本海の島に世界最大の陸上蓄養施設

山口県長門市の北側にある青海(おおみ)島。かつて捕鯨基地として栄えた自然豊かな島の最東端に2022年11月、ウニを蓄養する施設「KAYOI UNI BASE」が本格稼働した。建設したのは地元でイワシなどの水産加工業を営んできたマルヤマ水産(長門市)とウニノミクスだ。

同施設は長門市と山口県下関市の海岸で採った身のないウニを漁師から買い取り、独自開発したエサで育てて2~3カ月で出荷する。年間最大生産量は34トンとウニノミクスなどが大分県国東市で運営する同様の施設のほぼ2倍にあたり世界最大規模だ。

23年3月末に「KAYOI UNI BASE」を訪れた。広大な平屋建ての施設の中に入ると、ムッとする湿気を感じると同時にウニを育てる水槽が合計200台入る4段の棚が目に入った。一般的な水槽よりかなり浅めのウニ専用水槽の中は、ムラサキウニの成長に最も適した温度に常に保たれている。

施設の要ともいえるのが「RAS(Recirculating Aquaculture System)」と呼ばれる閉鎖循環式蓄養システムだ。水槽から排出された水にはウニのトゲや排せつ物、食べ残したエサなどが含まれる。RASは排水をろ過して浄化し再び水槽に送る。新たに海水を吸い上げる方式に比べて水温を調整する必要がなくエネルギー効率に優れる。ウニノミクスが魚の陸上養殖が盛んなオランダ企業と共同開発したウニ専用のRASである。

「ウニはほんとにかわいい。水がきれいだと元気だし、少しでも汚れるとトゲの角度で元気でないのがわかる」。ウニノミクスのプラント技術責任者である荒井美帆さんは楽しげだ。荒井さんは大学卒業後、政令指定都市の自治体職員として下水処理施設の維持管理に携わった後、東京の水処理施設会社で設計を担当した経験がある水処理施設のプロだ。「下水処理施設もRASも仕組みはほぼ同じだが、RASは24時間365日止められないだけでなく、商品になる生き物(ウニ)のコンディションにも気を遣う。例えば、2台ある装置のうち1台をメンテナンスで止める時も、残りの1台で継続して安定的なRASの運用ができるようにしている」と語る。4月末まで長門市に常駐し、現地従業員に運用ノウハウを伝える。

地元の飲食店に提供 回転ずしチェーンにも販路拡大

蓄養したウニは長門市内の飲食店に提供されている。安倍晋三元首相がほぼ毎年、長門市に来る際に訪れたという寿司・割烹(かっぽう)「はしもと」の橋本清さんは「年末年始など(天然ウニの仕入れ値が)高騰した時も安定した価格で仕入れられた。味も(天然ウニに)遜色ない。常連客からは『冬にしては粒が大きい』と言われた」と蓄養ウニの価格と品質に満足していた。

販路も広がりつつある。回転ずしチェーン「がってん寿司」はこのほど、「KAYOI UNI BASE」で蓄養した「殻付きウニ」を毎週土曜日に提供し始めた。当初は数量を限定して80店舗で提供し、順次増やしていく。殻付きウニは長門市内の一部の飲食店でも扱っているが、今後は地元以外に対象を広げて売り上げ拡大につなげる。

長門市に蓄養施設ができるきっかけは海岸の「磯焼け」だった。マルヤマ水産は16年から、新規事業としてネバネバした食感が特徴の海藻アカモクを取り扱っているが、ムラサキウニによる食害が原因で採れなくなった。「水温の上昇で海の環境が劇的に変わったことに気づかされた」という山田晋太社長は20年、大阪で開かれたシーフードショーに出展したウニノミクスの事業開発・渉外責任者である山本雄万氏からウニ蓄養の説明を聞き、「(磯焼けの)解決策はこれしかない」と事業化を持ちかけた。

施設の本格稼働から半年近く経過したが、山田社長は「売り上げは当初計画を下回っている。(ウニを捕獲する)漁師との関係にもかなり気を使っている」と現時点での経営課題を指摘しつつも、「安定的にウニを畜養する方法を確立しつつある。地に足がついた事業として成功させたい」と今後の事業拡大に意欲を見せる。

次ページ 原点は東日本大震災からの復興支援

 

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

脱炭素 地方創生 海洋保全

新着記事

もっと見る
loading

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。