名前が災いしてか、ウェルビーイング(Well-being)は日本では主に身体面の「健康」というイメージが強い。企業経営や職場での重要性が関心を集めるようになったのは割と近年になってからだ。ようやく本腰を入れる企業が増え始める中、『幸せなチームが結果を出す ウェルビーイング・マネジメント7か条』(日経BP)の共著者、前野マドカ氏は「幸福実感と業務パフォーマンスの間には正の相関関係があり、企業の売り上げも連動する傾向がある」と説く。働き手個々の幸せ感を高めつつ、結果を出すチームマネジメントのあり方を、前野氏に教わった。
働く人の自己肯定感取り戻す取り組み必要
共著者の及川美紀氏は化粧品のポーラで初の女性社長だ。同社は働きやすさや働きがいへの取り組みが進んでいることで知られる。管理職に占める女性の割合は2022年実績で47.8%に達した。ダイバーシティ経営とジェンダー平等を掲げ、性別にとらわれない管理職・役員登用を推進。「男性育休100%」にも賛同している。福島市内の店舗で勤務する100歳の女性はメーキャップの技術を持つ化粧品の専門家として、世界最高齢でギネス記録に認定された。80代以上の販売員は約250人いる。
本書ではポーラでの実践を事例に引きながら、チームや企業の業績アップにつながる、ウェルビーイング志向のチームづくりを提案している。「企業が生産性や利益を追い求めたせいで、働く人の心と体は置き去りにされた。自分は必要とされているという承認や自己肯定感を取り戻すような勤め先・職場との関係性が求められている」と、ウェルビーイングを重んじたチームづくりの意義を語る。
欧米に比べてアジアの企業でウェルビーイングの取り組みが遅れがちなのは、「経営者は成果が目に見えにくいプロジェクトを後回しにしがち」(前野氏)だからだ。しかし、大学や学術機関から幸福実感と業務パフォーマンスの相関を示す研究結果が相次いで発表されるようになり、「風向きは変わりつつある」(前野氏)。
人的資本が企業の成長エンジンと位置づけられ、優れた人材の奪い合いが広がって、ウェルビーイングへの投資は競争戦略に組み込まれるようにもなりつつあるようだ。2005年以降の5年ぐらいで日本でも「経営トップの関心度が高まってきた。この先は本気度次第で企業間の格差が広がっていく」と、前野氏はみる。