「当社の調査によると、マーケティング部署を設置している企業は上場企業でも11%にとどまります。営業企画部門や広報部門、商品企画部門など、社内に機能が分散しているところが多いようです。さらに、資本金や売上高の規模、業種ごとの傾向をみてみると、グローバル展開している大手企業ほど組織化を進めていることがわかっています」
――上島さんはマーケティング組織を5つの世代に分類しています。
「マーケティングとしての機能が社内各部署に分散している状態が第1世代、機能は集約したが戦略がない状態を第2世代としています。多くの企業がこの段階にあたります。第2世代から、マーケティング活動が受注や事業にどの程度貢献したのか数字で把握できる第3世代へ進むにあたって、2つの道筋があると考えています。ひとつはウェブ担当者がデジタルからビジネスのマーケターに展開していくもの。今までの成功モデルでは最も多いケースです。もう一つは、営業出身者をマーケティング部門に配置するというものです。ここ1年、2年、特に中堅メーカーなどでみられる傾向で、古い体質の企業もやっと動き始めたと感じています」
――現場も経営も意識が大きく変わってきたのですね。
「第1世代はDXではなく単なるIT化レベルですが、随分進んできたと思います。また、必ずしも第1世代、第2世代と段階を踏んで進むとは限りません。例えば部品メーカーなど、商売相手(顧客)が誰なのかはっきり見えているような企業であれば、いきなり第4世代へ進み、既存顧客を深掘りするためにデジタル接点をどう活用するかという戦略を取ることもできるでしょう」
「第4世代になると、新規顧客の開拓から契約に至るファネル(漏斗、見込み客を顧客に変える購買プロセス)から、契約を起点に既存顧客の維持・拡大をはかる逆さファネル、さらにそこから既に取引のある部門以外の新しい『個客』からの引き合い(カスタマーリード)につなげるというダブルファネル型のモデルになります。第4世代以降は、データ連携や基盤構築が必要になることから、DXの一環で全社的な取り組みになることが多いです」
求められるデータ連携の深化
――組織が進化するにつれてデータの連携が重要になります。
「そうですね。第1世代や第2世代であれば、リード情報を管理するリードデータベースやマーケティングオートメーション(MA、マーケティング活動の支援システム)で十分でしょう。しかし第3世代では、マーケティング部門が獲得したリード情報を営業部門へ引き継ぐために、顧客情報管理(CRM)システムの連携が必要になります」
「さらに第4世代になると、既存顧客の維持・拡大、すなわちサポートやメンテナンスまでカバーするため、修理データやあらゆるモノがネットにつながる『IoT』データをどう予測モデルやマーケティングとして活用するのか問われてきます。顧客に負荷をかけないような、企業の意思決定に関わる『個人』に適切な『体験』を提供するABX(アカウント・ベースド・エクスペリエンス)をいかにスムーズに提供できるかなど、先を考えている企業はCRMデータや統合基幹業務システム(ERP)データのID連携をすでに検討しています」