生成AIコンソーシアム

次代の人工知能、ビジネス活用急げ NIKKEI生成AIコンソーシアム 第1回シンポジウム 特集

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高度な技能がなくても様々な行動を指示できる次世代の人工知能(AI)、生成AIとは何か。社会への浸透はどこまで進むのか―。日本経済新聞社は企業や学識経験者、行政の知見を結集し、生成AIの潜在力と課題を議論する日経生成AIコンソーシアムを創設、キックオフとなる第1回シンポジウムを6月13日、都内で開催した。参加者の多くは講演や討論で「導入ハードル」の低さに期待を示し、ビジネスでの利活用促進を訴えた。

利用ハードル シニアにも優しく セキュリティーには注意喚起も

シンポジウムでは、生成AIの特徴「自然言語の使用」への注目度の高さが鮮明になった。複雑なプログラム言語が不要で、シニアも含め幅広い層で利用ハードルが下がるためビジネス視点で導入を促す意見が相次いだ。

コンソーシアムのアドバイザーを務める東京大学の松尾豊氏は議論の皮切りとなった講演・対談で「まずは触ってみる」ことを推奨。技術の進展過程での日本には「皆でワイワイと加速するモード」に入ると大きな推進力を発揮する風土があると分析し「日本は生成AIで世界をリードしていける可能性がある」と強調した。

導入に伴う働き方を巡る討論では、エクサウィザーズはたらくAI&DX研究所の石原直子氏が「リスクをとりにいかない、という考え方ではいけない」と力説。松尾氏と同様、多くの人が「まずは闇雲に使ってみる」べきだと訴えた。

AI導入で失職者が増えるという懸念は必ずしも当たらないとする指摘も多く出た。東京大学大学院の柳川範之氏は石原氏と同じ討論で「生成AIは使い方次第で結果が変わる」と説明。「企業で部下に命令するノウハウを持つ中高年層」にとってはスキルアップの好機だと主張した。日本総研の翁百合氏も「創造性が重要になる」との見方を示した。

生成AIの活用指針に関する討論では、実際に業務に活用している弁理士、白坂一氏が「話しかけることで人間が発想する」「ヒトが使う」意識が大事だと唱えた。SoW Insightの中条薫氏は「社員の育成も早める可能性がある」という視座を提起した。

この討論で国立情報学研究所の佐藤一郎氏は「著作権侵害やフェイク情報などリスクもある」と注意喚起した。導入に際してのセキュリティーや法整備の観点ではつくば市長の五十嵐立青、筑波大学の鈴木健嗣両氏も機密情報などAIに学習させてはいけない情報の選別を提唱。「輸出・投資・M&Aにはルール統一が必須」(弁護士・三部裕幸氏)、「欧州は規制すべきものと捉えている」(デジタル庁・楠正憲氏)という声も上がった。

 

講演 大規模言語モデル(LLM)がビジネスを変える

対談 生成AIの最前線と未来

松尾 豊氏 東京大学大学院 工学系研究科 教授

生成AIにより、米国の80%の労働者が影響を受け、特に高収益なタスクほど影響が大きい、という調査結果もある。ChatGPTに代表される生成AIは社会現象となっている。

現在は黎明(れいめい)期なので、先行きについても「わからない」ことが非常に多い。だが、そんな段階でも日本が今回は、活用・開発の波についていけていると感じている。政治の世界もスピード感を持って進んでいる。これが非常に大きなことだ。日本はかつてないほど、世界のイノベーションに素早く反応している。だからこそ、日本は生成AIで世界をリードしていける可能性も残っている。

生成AIについては「まずは触ってみる」が大事だ。日本は自分たちの価値観で「自らやる」モードになると強さを発揮する。例えば行政の対応を考えてみても、生成AIの導入は「あの市がやるならこちらはこんなふうに」と、面白がってやる中で進んでいる観がある。ある種のお祭り状態になって、皆でワイワイと加速するモードに入るのがベストな展開だ。

(聞き手は日本経済新聞社イノベーション・ラボ事務局長、山田剛)

 

講演 生成AIによる新市場創出とAI法制度の課題

三部 裕幸氏 渥美坂井法律事務所・外国法共同事業パートナー、弁護士/大阪大学招聘教授(社会技術共創研究センター

内需が停滞する日本では、AI産業を輸出産業に育てなくてはならない。そのために、生成AIを既存の強力な事業・産業(金融・製造業・創薬・災害対策・農業など)と組み合わせて新事業を起こすことが効果的だ。また、日本のAI法制度が各国と似ていれば、それはビジネスをやりやすくする。適切な法は事業を縛るものではなく、順守することが武器になり盾になって事業を促進すると考えた方がよい。

 

 

パネルディスカッション 生成AIのグローバル動向と日本のストラテジー

飯田 陽一氏 総務省 情報通信国際戦略特別交渉官
楠 正憲氏 デジタル庁統括官 デジタル社会共通機能グループ長

飯田氏 各国とも生成AIは最重要政策課題で、リーダーシップを狙っている。目指すは安全な利用の促進による社会経済の発展だが、AI全般で欧州は「制御すべきもの」、日本は「一緒に生きていけるもの」と捉えている印象があり、日本に有利な面がある。

楠氏 デジタル庁は各省と利用環境について取りまとめ中だ。生成AIは25年前のウェブブラウザの議論に似ている。今は入り口。それ自体で勝負するのか、応用で戦うのか。広い目で捉えるべきだ。

三部氏 輸出・投資・M&Aには米欧のAI法制度と似た法制度が必須。法律不要論でも規制ガチガチ論でもなく、輸出・投資・M&Aをしやすい適切な法制度整備が必要だ。

(モデレーターは日本経済新聞社デジタル政策エディター、八十島綾平)

 

パネルディスカッション 行政がAIを導入したインパクト、自治体DXとスマートシティの将来

藤光 智香氏 つくば市 政策イノベーション部長
鈴木 健嗣氏 筑波大学 システム情報系教授/サイバニクス研究センター長
五十嵐 立青氏 つくば市長

藤光氏 つくば市は「つくばスーパーサイエンスシティ構想」を掲げ、地域課題の解決へ生成AIも日常業務全般に活用している。データ保護や利用制限、活用の民主性はどうか。

鈴木氏 LLMへの入力情報が学習されぬようAPIを経由している。厳しいセキュリティーポリシーがあり、入力すべきでない情報は職員が理解している。重要なのは利用者のリテラシーだ。LLMは活用幅が広く、フォーマットが異なるデータの連携ができるのも利点で、スマートシティ構想も加速する。高齢者や障害者らコミュニケーションで困難を抱える層には眼鏡や補聴器と同じ助けになる。インクルーシブな社会の実現にも重要な役割を果たすだろう。

五十嵐氏 データは機密性が高いものから自由なアクセスを認めるものまでグラデーションがあり、個々のリスクと特性から運用を決めている。現場と上司が同じ理解度を持つよう、リテラシー向上も進めている。AIによって職員が不要になるという論調もあるが、単純作業が減る分だけ市民に向き合える。次は市民サービスにも生成AIを活用したい。チャットボットなどによる自然言語での情報提供や、データ分析をサービス改善に生かすなど市民と対話しつつ進めたい。 

 

パネルディスカッション 劇的な業務改革へ〜生成AIを活用する指針

白坂 一氏 AI Samurai代表取締役/弁理士法人白坂 創業弁理士
中条 薫氏 SoW Insight代表取締役社長
佐藤 一郎氏 国立情報学研究所 教授

白坂氏 生成AIが何か新しいものを生むのではなく、話しかけることで人間が発想するというのが正しい。英語を書く能力は高いが、正しく書けているかどうかを判断するのは人間。人間のスキルは必須で、元々高い能力を持つ人間の方が生成AIをより活用できる。従来以上に能力差が広がるのではないか。教育やリスキリングが大きな課題になってくるだろう。

中条氏 多くの仕事で「速さと質はトレードオフの関係」だが、生成AIの導入で文書作成は速さが4割改善し、質も2割向上したという調査結果がある。内容の正しさ、特にジェンダーバイアスに留意が必要だが、働き方が変わる時代に社員の育成を早めていける可能性がある。経営者の多くが興味を持っているが、成功には、業務自体の因数分解を進め、人とAIの役割分担を明確にする必要がある。

佐藤氏 生成AIの品質を決めるのは文章データの質。良質なデータで学習しないと、AIは悪い文章を吐き出してしまう。しかし、質の良い情報は枯渇していて、AIの大規模化に追いついていない。著作権侵害やフェイク情報の生成リスクもある。数が増えるとリスクは増大し、対抗コストが大きくなる。利便性だけでなく、リスク対応コストの判断も重要になってくるだろう。アドビは権利処理した生成AI「ファイアフライ」を垂直統合型で作った。データを持つ大企業が主導する形で垂直統合に向かうことは、必ずしも明るい未来とはいえない。今後、AIへの規制が不可避ならば、むしろ日本が規制に関わる議論をリードし、同時に規制に対応した技術革新を目指すべきだ。

(モデレーターは日本経済新聞社AI・量子エディター、生川暁)

 

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