大阪府は大阪湾の護岸に海藻などの「藻場(もば)」を創出するため、民間企業との連携を強めていく。府と一般社団法人ブルーオーシャン・イニシアチブ(BOI)は2023年8月に事業連携協定を締結した。25年の大阪・関西万博で藻場創出の取り組みを国内外に発信する。藻場は海の生物多様性を増すほか、二酸化炭素(CO2)を吸収して長期で貯留できるため、持続可能な開発目標(SDGs)達成に寄与するとして注目を集めている。官民連携を通じて藻場を生み出すための様々な課題を解決する。
「ミッシングリンク」解消目指す
海藻類が育つ藻場はCO2の吸収源となるほか、魚類など生き物のすみかとなる。酸素の供給など水質改善の効果も期待できる。しかし、大阪湾のうち北は大阪市から南は貝塚市までの「湾奥部」(海岸線延長約180㎞)は大半がコンクリートなどでできた人工護岸で藻場はほぼ存在しない。一方、泉佐野市以南の湾南部や西部には海藻が自生しており、淡路島や兵庫県南部を含めた大阪湾全体で見ると「湾奥部だけが藻場がない『ミッシングリンク(連続性が欠けた部分)』になっている」(大阪府環境農林水産部環境管理室環境保全課の田渕敬一課長補佐)という。
大阪府は湾奥部に藻場を創出することで、大阪湾全体を藻場や干潟などの回廊でつなぐ「大阪湾MOBAリンク構想」を掲げており、その実現には主に3つの課題があるとみている。第1の課題は船舶などの港湾利用に影響を及ぼさず藻場を創出する技術だ。第2の課題は海藻が海面下にあるため生育状況を確認するための費用がかかる点だ。第3の課題は護岸の多くは企業の所有地に面していて近づけないうえ、海藻を育成したい人が限られることだ。府はこれらの課題を解決するための事業に着手した。
湾奥部でワカメを育成
大阪湾奥部は大都市圏から流入する河川などの影響で汚濁物質がたまりやすく、水質改善が課題となっている。そこで傾斜型の護岸に海藻が定着しやすい技術を確立して藻場を創出し、そこから周辺の護岸に広げていくことを目指している。
21年12月には大阪市が管理する「大阪南港野鳥園」の護岸にある消波ブロックにワカメを育てる30センチ四方のパネルを設置した。徳島県鳴門市産のワカメの胞子がパネルについて大きくなる仕組みで、漁礁工事の日本リーフ(兵庫県南あわじ市)が公募で事業者に選ばれた。府はこの事業にかかった経費の半額を補助金として支給。ワカメは順調に育ち、22年4月にはワカメが繁茂していることを確認できた。
護岸に面した事業所を所有する企業とも連携する。22年にENEOS堺製油所(堺市)の護岸で環境省のモデル事業として海底にブロックを設置してワカメを育てた。波が想定より小さく、ワカメは育たなかったが、府は知見を生かして他の方法で藻場創出を支援する。
スタートアップなどの技術に期待
大阪府は23年8月に一般社団法人のBOIと事業連携協定を締結した。
22年12月に設立されたBOIは海のサステナビリティ(持続可能性)実現に向けて、産官学民の関係者が協力して活動している。具体的には、①長崎県対馬市と連携した海洋プラスチックごみ削減②魚類などの海洋資源保全と関連事業の活性化③ブルーカーボンクレジットの推進など海洋に関する気候変動対応――の3分野を中心に、「海の万博」といわれる2025大阪・関西万博を経て、SDGsの期限である30年を目指して活動を推進している。
府は連携を通じてBOIに「MOBAリンク構想」に参画してもらい、海藻などの生態系に関する技術やノウハウを有する企業とのネットワークを構築し、湾奥部における藻場創出を加速する。例えば、BOIのメンバーであるスタートアップが保有する海洋ドローンなどの技術を活用して海中を「見える化」し、海藻の生育状況を調べることなどを想定する。国内の他の地域で実績がある海藻の育成技術などの提供にも期待する。
BOIのメンバーであるNPO法人ゼリ・ジャパンが2025大阪・関西万博で設けるパビリオンやイベントでMOBAリンク構想を国内外に発信する。例えば、来場者が大阪湾の海藻の周りに魚などが生育している様子を水中ドローンの映像で体感するイベントなどを想定する。
府は23年末までに、BOIのほか大阪湾岸の他の自治体や護岸に面した事業所のある企業、国の出先機関などで構成するネットワークを立ち上げる予定だ。25年大阪・関西万博で事業の認知度を高め、26年度からSDGsの達成期限である30年にかけて藻場創出を加速させる。
(原田洋)
海の環境を守り、その資源を正しく利活用する方策や仕組みを考え、内外に発信していく目的で、日本経済新聞社と日経BPはNIKKEIブルーオーシャン・フォーラムを設立しました。海洋に関連する多様な領域の専門家や企業の代表らによる有識者委員会を年4回のペースで開き、幅広い視点から議論を深めて「海洋保全に関する日本からの提言」を作成します。NIKKEIブルーオーシャン・フォーラムは一般社団法人ブルーオーシャン・イニシアチブ(BOI)と連携しています。