生成AIコンソーシアム

生成AIの活用 「人間の能力」がより問われる時代へ NIKKEI生成AIコンソーシアム 第1回シンポジウム パネルディスカッション

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日本経済新聞社が「生成AIコンソーシアム」の創設に合わせ、2023年6月13日に開催した第1回シンポジウム「ビジネス変革の可能性とルール」では、「劇的な業務改革へ〜生成AIを活用する指針」と題するパネルディスカッションが開かれた。

登壇者は、AI Samurai 代表取締役で弁理士法人白坂 創業弁理士の白坂一氏、国立情報学研究所 教授の佐藤一郎氏、SoW Insight 社で東京大学・未来ビジョン研究センター 客員研究員の中条薫氏。モデレーターは日本経済新聞社AI・量子エディターの生川暁。

登壇者3人の主な発言は以下の通り。

白坂「生成AI(人工知能)は新しいものを作ると説明されることが多いが、実際には、生成AI自体が新しいものを生むのではない。こちらが話しかけることで人間が発想する、というのが正しい。結局は、どのようなデータから学習したのか、という点が問題になる」

中条「多くの仕事で速さと質はトレードオフの関係にあるが、生成AIを導入することで文書作成は速さが4割改善し、質も2割向上した。(人間が)自分でできる作業が増えていくことが、エンゲージメント(働きがい)の向上につながるだろう。働き方が変わりつつある時代の中で社員の育成を早めていける可能性が高い。一方で、内容の正しさ、特にジェンダーバイアス(性差に対する偏見)には留意が必要だ」

佐藤「生成AIには出力された内容について、間違いや中立性の問題が存在する。利点は多く出ると思うので、あえて課題を提示しておきたい。まず危惧しておくべきは、悪意を持った攻撃者も利用できる、と言う点だ。例えば、フィッシング詐欺に使われる文面をより自然な文章にしてだましやすくする、といったことにも使える。著作権侵害や不適切表現の生成はもちろん、フェイク情報生成装置としても使えてしまう。このことは大きなリスクだ。人間が作るより数が多くなるので、対応するコストも大きくなってしまう。生成AIは効率がいいがゆえに『効率が生み出す非効率』が存在する可能性も考えておくべきだ。生成AIは『文章生成をするAI』と考えて、やたら文書ばかり生成してしまう。業務日誌のようなものは簡単に作れるが、問題は『上司はそれを読まなくてはいけない』ということ。単に作るだけでは、組織全体でのバランスを崩す可能性がある。同様にプレスリリースのような文章は簡単に作れるので、増える可能性が高い。現在の10倍、100倍に増えるかもしれない」

中条「経営者の多くは、生成AIに興味を持っている。だが、単に成功例を集めても意味はない。自らが携われる業務の因数分解を進めて、その中で生成AIをどう利用するのかを考える必要がある。コンプライアンス(法令順守)や倫理規定は、業務利用のガイドラインに盛り込むべきだ。迷わなくて済むし、間違いを起こさなくて済む」

白坂「生成AIは英語を書く能力が高い。私も日常的に英語の文書を作る際のサポートに使っている。だが、生成AIが書いた英語が正しい内容で書けているかどうかを判断するのは人間の側だ。だから人間のスキルは必須で、高い能力を持っている人の方が生成AIをより活用できることになる。生成AIを使う時代は、これまで以上に人間の能力によって差が広がる。教育やリスキリングで大きな課題になるだろう」

佐藤「生成AIの品質を決めるのは文章データの質だ。良質なデータで学習しないと、AIは質の悪い文章を吐き出してしまう。しかし、すでにAIの学習には多くの情報が使われており、質の良い情報は枯渇している状況だ。AIの大規模化に質の良い文字情報の調達が追いつかない状況にある。生成AIには著作権侵害やフェイク情報の生成リスクもある。米アドビは自社のフォトストックサービスに登録済みで、権利処理も行われたデータから学習を行った生成AI『Firefly』を発表した。『質の良い情報』『権利情報が明確な情報』といった課題に対して、自らのデータを用いて垂直統合型で対応するやり方だ。一方で、生成AIの構築について多くのデータをもつ大企業による垂直統合ばかりが有利な方向に向かうとすれば、必ずしも明るい未来ではない。規制に準拠してなお利便性が高いものを目指すためにも、日本が規制議論をリードしつつ、同時に革新を目指すべきだ。質のよい対話ができるAIを作る上では、パラメーターを増やすことだけが解決策とは限らない。今後は文章だけでなく(画像や音声、動画なども扱う)マルチモーダルで非言語化したAIの方向に向かうだろう。Chat(チャット)GPTのようなサービスは、大規模言語モデルのような『学習モデル』だけで作れるわけではない。ChatGPTに対抗できるサービスを作るのであれば、言語学・自然言語処理の専門家が出てくる必要がある。むしろ対話型AIでないところに可能性がある」

(ライター 西田宗千佳)

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