日経SDGsフェス

有識者と6つの大学が登壇 「知」が開く多様な可能性 「大学SDGsカンファレンス」基調講演・大学講演

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国際社会が2030年までに達成すべきゴールを定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」。その実現に向けた取り組みが求められる中、膨大な「知」を蓄えている大学はどのような貢献ができるのか。先ごろ開催した「大学SDGsカンファレンス」には、有識者のほか6大学が登壇。より良い社会の構築を目指す特色あるプロジェクトや教育プログラムなどを紹介し、大学だからこそできる多様な可能性を示した。

日本経済新聞社と日経BPは2022年12月5日〜10日、様々な立場の人々や企業とともに、経営、投資、環境、ジェンダーなど多様なテーマについてSDGsの実現を議論する国内最大級のイベント「日経SDGsフェス」を開催しました。

このうち、12月10日に開催したトラック「大学SDGsカンファレンス」のプログラムから基調講演と大学講演をダイジェスト版でご紹介します。

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【基調講演】世界中の境界線溶かす

HI合同会社 代表 平原 依文氏

皆さんのパーパス(存在意義)は何だろうか。私のパーパスは「世界中の境界線を溶かす」ことだ。

私の母はシングルマザーで、いまの父との関係は事実婚だ。私が幼いころは近所から白い目で見られたり、学校でいじめにあったりした。なぜ血がつながっていないと「特別」なのか。なぜ偏見が生まれるのか。そんな思いを抱えながら、自分探しのために様々な国に単身留学した。

留学先での学びや多くの人との出会いと支えを得て、やっと見いだした私のパーパスが「世界中の境界線を溶かす」ことだった。それを具現化するために大学や民間企業で必要な知識やスキルを身に付けた。

現在は海外の社会起業家と日本企業をつなぐ取り組みや障害を持つ人と社会との接点をつくる活動、企業横断で地域課題の解決に向けた事業案を考えるプロジェクト、修学旅行プランを生徒自身で作るプログラムの提供などを進めている。

新たな挑戦として「HI(ハイ)」という会社を立ち上げた。「HI」と声をかけるように軽やかに人と出会い、境界線を溶かしていきたいという思いを込めた。

SDGsは次世代のためのものだ。これからの世代が年上世代をリバースメンタリングし、何ができるかを一緒に考えるプロジェクトなどを展開している。

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【大学講演1】未来の健康つくる

順天堂大学 医学部 放射線診断学 主任教授(健康データサイエンス学部 学部長に就任予定) 青木 茂樹氏

順天堂大学は6つの附属病院と5つのキャンパスからなる、健康・医療を中心とした総合大学だ。健康、教育、グローバルパートナーシップなどの領域で、SDGsに関連する多くの活動を展開してきた。

例えばLGBTQ(性的少数者)への取り組みを評価する「PRIDE指標2022」で最高評価を獲得。コンピューター断層撮影装置(CT)画像から新型コロナのサーベイランス(監視)アラートを試みたり、国際協力機構(JICA)と連携して国際看護を学びたい留学生向けに英語で授業をしたりしている。

2023年4月には健康データサイエンス学部を新設し、SDGsへのさらなる貢献を目指す。本学だからこそ育てられる人材は、健康・医療・スポーツの知識を備え、未来の社会や人々の健康をつくるという志を有した健康データサイエンティストだ。

通常のデータサイエンス教育に加えて、広く進路を選べるように多様な研究室を設ける。健康・医療・スポーツ分野は、データサイエンスの対象となる領域が広く、将来的にさらなる発展の可能性を秘めている。健康とデータサイエンスという2つの専門性を身に付けた人材の育成を通じて、持続可能な社会の実現に貢献していく。

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【大学講演2】世界的な評価受ける

北海道大学 理事・副学長(国際、SDGs担当) 横田 篤氏

北海道大学の起源は、米マサチューセッツ農科大学長のクラークを招いて1876年に設立された札幌農学校にある。「高邁なる大志」「紳士たれ」といった精神のもと、自然や現実の観察から学ぶ科学的態度を奨励。広大な農場や演習林を取得し、総合大学として発展を遂げた。

フロンティア精神、国際性の涵養(かんよう)、全人教育、実学の重視という4つの基本理念に基づき、独自性のある教育研究を実践している。特にSDGsに直結する食料生産、生物多様性、気候変動、環境保全といったフィールドサイエンスに強みがある。

2020年10月に発足した現執行部は、「世界の課題解決に貢献する北海道大学へ」を念頭に、SDGs達成への貢献をビジョンの中核に据えた。「サステイナビリティ推進機構」や「SDGs事業推進本部」を設けて具体的な取り組みを推進。大学の社会貢献度をSDGsの枠組みで評価する「THEインパクトランキング2022」の総合ランキングで世界10位(国内1位)、SDG別ランキング(SDG2:飢餓をゼロに)で世界1位を獲得した。

今後も本学のDNAに埋め込まれたSDGsの枠組みを活用して構成員の一体感を醸成し、本学の総合力をより一層高めていく。

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【大学講演3】奉仕するリーダー育成

青山学院大学 副学長/総合研究所所長 小西 範幸氏

昨年5月、「青山学院大学サステナビリティレポート2022」を公表した。SDGs達成に向けた本学の取り組みを体系的に位置付け、可視化したものだ。

サステナビリティーとは「将来世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、現代のニーズを満たす発展」だと考える。そのためには複合的な価値を実現する経済社会が不可欠だ。人文・社会科学から自然科学までの「総合知」を創出し、分野横断的な知見を持つ人材が求められる。本学はこうした知見を持つ、社会に奉仕するサーバントリーダーの育成を目指している。

高度な研究力に基づく質の高い教育力を実現するため13の重要課題、51の指標と目標を設定。これを基に各学部・研究科は中長期計画を策定している。

例えば歴史的・文化的価値の追求という重要課題について、SDGs関連の研究の促進という指標を設定。10件の研究を行う目標を掲げ、「ハウステンボスのSDGs型まちづくりの事例研究」「地球上にありふれた金属を媒介として用いた持続可能な合成反応」「ジェンダーと家族」といった研究を実施している。

24年4月には新図書館が開館予定。地域社会にも開放して、学術活動の総合拠点としてSDGs達成に貢献する。

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【大学講演4】創造的市民を増やす

明海大学 学長 安井 利一氏

不動産学部を持つ本学は、高齢化や過疎化が進む山形県上山市で空き家を活用した住み続けられるまちづくりに取り組んでいる。

2018年8月、上山市と本学は空き家・空き地の活用に関する地域づくりの連携協定を締結し、NPO(非営利組織)を設立した。地元で不動産業を営む本学卒業生が理事長を務め、市職員と本学教員が副理事長として参画している。

持続可能なまちづくりに必要なのは「人」だ。そこに住まい、営む人々が創造性を持って都市に参画していく。そうした創造的市民(アーバニスト)をいかに増やすかが課題だ。

そこで、NPOでは上山市役所の空き家バンク事業と連携し、古民家を改修して開業したい人の支援を行っている。支援事業で初めて開業した地野菜料理店は予約なしでは入れない人気店となり、地域に希望が生まれた。空き家は創造性のある実践者に活用してもらうことが重要だ。

不動産学部の学生もフィールドワークを行い、空き家を活用した地域再生モデルの提案などに取り組んでいる。広大な未利用地の再開発では、SDGsを念頭に置いたまちの姿をデザインするとともに住宅エリアを定期借地権住宅地とすることで、空き家の発生を防ぐ提案もしている。

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【大学講演5】脱炭素の実現に貢献

早稲田大学 理工学術院教授、スマート社会技術融合研究機構(ACROSS)機構長 林 泰弘氏

2021年11月に「早稲田大学カーボンニュートラル宣言」を発出した。最先端研究、人材育成、キャンパスの脱炭素化によりカーボンニュートラルの実現に貢献する。

最先端研究では、人間社会の変革、エネルギーの高効率利用、ゼロカーボンエネルギー供給、資源循環・カーボンリサイクル、気候変動の科学を柱として、13の研究分野を設定している。総工費100億円で建設した産学連携拠点「リサーチイノベーションセンター」を活用し、ナノ・エネルギーや量子コンピューティング、自ら学習して人間と共生するロボットの研究などを進めている。企業や自治体との連携も重要だ。

人材育成では本学がハブとなって国公立12大学と連携し、5年一貫制博士課程(PEP)を実施している。電力工学系教育、マテリアル系教育、人社系教育を通じてモノづくり、コトづくり、国際標準化のプロフェッショナルを育てる。学部の教育では、全学部生を対象とした副専攻「カーボンニュートラルリーダー」を開設した。

創立150周年となる32年をめどに各キャンパスの二酸化炭素(CO2)排出量実質ゼロを目指す。こうした本学の挑戦は海外の大学評価機関の冊子で紹介されるなど注目を集めている。

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【大学講演6】学校内外で連携推進

慶應義塾 常任理事(学生、協生環境推進担当) 奥田 暁代氏

慶應義塾大学は2021年10月、世界12カ国29大学とともに「U7+気候変動と持続可能性に関する声明」に署名した。22年12月には湘南藤沢キャンパスが自然エネルギー大学リーグに加盟。部門横断型プロジェクト「慶應スポーツSDGs」が20年度神奈川県大学発事業提案制度に採択されるなど、様々な主体との連携を進めている。

新たに「慶應義塾SDGs会議‐2022塾生会議‐」を設けた。学生たちが1年かけて学び、考え、議論した成果を慶應義塾への提言としてまとめる。これには公募学生とランダムに選ばれた学生が参加。専門家の助言のほか小中高校生の意見も聞いてSDGsに貢献する慶應義塾のビジョン、ターゲット、アクションを検討している。

そのほか所有する学校林の活用や地域とつながるプロジェクト、ジェンダーギャップ、ダイバーシティー、バリアフリー(社会的障壁除去)に関する取り組みなどを推進。障害学生支援室を開室するなど、誰一人取り残さないための体制強化に力を入れている。

自分の体との付き合い方に焦点を当てた啓発も進めている。LGBTQに関連して、誰もが安心して過ごせるキャンパス、居場所づくりを学生が考えるプロジェクトも進行中だ。

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