日本経済新聞社は「生成AIコンソーシアム」を創設に合わせ、2023年6月13日に開催した第1回シンポジウム「ビジネス変革の可能性とルール」では、「AIの産業活用でより創造的なワークスタイルへ」をテーマにパネルディスカッションが開かれた。
登壇者は、日本総合研究所 理事長の翁百合氏、エクサウィザーズ・はたらくAI&DX研究所 所長の石原直子氏、東京大学大学院・経済学研究科 教授・柳川範之氏の3人。
各氏の主な発言は以下の通り。
石原「ホワイトカラーの仕事は『調査』『決定』『責任』のサイクルで回っている。調査や分析、情報の比較は生成AIが得意な部分だ。人間は生成AIが担当した部分の『結果』に責任をとるのが仕事になっていくだろう。我々が『仕事』だと思っていたものの多くは『作業』にすぎないのではなかろうか。仕事として行っていたことが、単に手を動かせば終わるようなことや繰り返しに近い作業なら生成AIにもできる部分がある」
柳川「生成AIに仕事を奪われる、という論がある。だが、実際のところ、日本企業において簡単に人は減らせない。既存の仕事のうち、多くの部分を生成AIが担うようになったとしても、雇用している人々を『はい、さようなら』と切ることにはならないだろう。そもそも、生成AIを使いこなすのは簡単なことではない。どう使うのかによって、生成AIから出てくる結果も違う。だから、生成AIをどれだけちゃんと使える人材であるか、そうした人材を増やすか、という点が重要になる」
翁「これからの社会では、労働者の投入量は減っていく。だから1人当たりの生産性を高めることが重要だ。生成AIは生産性を高めていく行為をアシストする存在だ」
石原「『労働力不足』と呼ばれる現象の中には生成AIで解決できる部分もあると考えられる」
翁「具体的に言えば、生成AIは『プロンプト(指示)』を使い、文章で命令を与えて作業をさせる。その際、部下に命令するノウハウを持つ中高年がスキルアップする、新しいチャンスとも言える。始めるためのセットアップコストがかからないことは大きい。いわゆるリスキリングの観点で言えば、いままでやってきたことをどう整理し、AIとともに仕事を進めるか、という点が重要になってくるだろう」
石原「いわゆる『プロンプトづくり』をどう学ぶのか、という点は課題になってくる。どのように自らの仕事に生かすかを考えるには、リスクをとりにいかないという考え方では進まない。まずは闇雲に使ってみるべきだ」
翁「生成AIでは特に、『現在、情報分析をしている人々の仕事が影響を受ける』という研究報告もある。自分や自分の部署が行っている仕事について、本当の課題は何か、という見直しは大事になってくる。タスク分類がいや応なく必要になり、職務・報酬の考え方も変わる。人事政策が変わるきっかけになるのではないか。人間の側は機動的に柔軟的に判断する必要が出てくる。すなわち、創造性がさらに重要になる」
柳川「現状、採用の現場自体に大きな変化は生まれていない。デジタル・トランスフォーメーション(DX)という言葉が多く使われているが、組織や役割分担の再構成が進んでいるわけではない。生成AIがそこで大きな役割を果たすのは間違いないが、すべての仕事が自動化されるわけでもない。ある意味での『下仕事』をAIがやる、という考え方が近い。まさに『作業』をAIに置きかえていくことになるだろう。過去には家事が大変で、それを家電の登場が助けた。いまとなっては『家電に家事労働を奪われた』という人はいない。生成AIについても、『AIで仕事が奪われる』という論を後から振り返ると『おかしなことを言っていた』と感じるかもしれない。なにはともあれ、使い始めるハードルは低いので、使ってみるべきだ」
翁「アウトプットされたものをどう捉え、判断して利用するかが重要になる。そういう意味でも、使いながら特徴を知る必要がある」
(ライター 西田宗千佳)