プロ野球・北海道日本ハムファイターズの新たな本拠地球場には、フィールドを一望できるクラフトビール醸造レストランがセンターバックスクリーンエリアに設けられた。日本初の球場内ビール醸造レストラン「そらとしば by よなよなエール」を手がけたのはヤッホーブルーイング(長野県軽井沢町)。クラフトビール文化を日本に広めたヤッホーは、ビールをきっかけに人と人をつなぐファンマーケティングの先進企業としても有名だ。(前回記事「よなよなエールの奥深い戦略 意外なネーミングの由来」)
「エスコンフィールドHOKKAIDO」(北海道北広島市)のクラフトビール醸造レストランは2階建てで、1階では併設の醸造所でオリジナルクラフトビールを醸造。レストランスペースでクラフトビールを提供する。2階は屋根のない開放的なルーフトップスペース。広大なフィールド全体を一望しながらクラフトビールを味わえる。試合中はプレーヤーの躍動を見渡せる特等席となりそうだ。
「そらとしば by よなよなエール」は試合がない日も営業し、醸造所見学ツアーやビールイベントなどを開催する予定だ。4月の醸造所見学ツアーは既に公式ホームページで募集の呼び掛けが始まった。「ヤッホーはクラフトビールを造るだけのメーカーではなく、自分たちを『ビール製造・サービス業』と定義している。ファンとの強い結びつきを育てるうえで様々なイベントは欠かせない」と、よなよな未来課の稲垣聡氏は接点づくりと企業ミッションの地続きの関係を語る。
経営学やマーケティング理論の学びがヤッホーに根付いていることは前編でも触れた。実はファンマーケティングにもきちんとロジックの裏付けがある。マーケティング論やブランド戦略に強い、当時は中央大学ビジネススクールの教授だった田中洋氏に顧客調査の結果を見てもらったところ、「(米二輪車大手の)ハーレーダビッドソンのファンに似ている」という知見を得た。その分析を手がかりにヤッホー社内でさらに研究を重ねた末、ファンから熱狂的に愛されるハーレーブランドのありようが参考モデルになり得ると判断。ファンイベントに熱心なハーレーにならってプロジェクトを立ち上げた。
ファンイベントの「宴(うたげ)」を始めたのは2010年からだ。数十人の規模からスタートした「宴」は回を重ねるごとに規模が拡大。ファンがファンを呼ぶ広がりが生まれ、15年からは「よなよなエールの超宴」にバージョンアップした。18年10月に東京・お台場で開催した第5回では約5000人が盛り上がった。
2日続きのツーデー開催を計画した19年は「1万人動員が視野に入っていた」(稲垣氏)が、大きな被害をもたらした台風19号の影響でやむなく中止に。以後は新型コロナウイルス禍のあおりで、大型のリアルイベントは見合わせてきたが、5月以降はリアルイベントを復活させる検討を進めているという。ちょうどビールが一段とおいしく飲める真夏へ向かう時期だけに、ヤッホーらしいリアルイベントの復活をファンは期待し始めているようだ。