オンライン会議が定着して、会議ツールの操作スキルが発言力を左右するようになってきた。米マイクロソフトの業務ソフト「Microsoft 365」が提供するコラボレーションツール「Microsoft Teams(以下、チームズ)」はテレワークの基本ツールとして導入が進んでいる。しかし、多機能な半面でうまく使いこなせていない職場も珍しくないようだ。『Teams仕事術[改訂新版]』(技術評論社)を書いた椎野磨美氏は「チームズを会議に生かせば、参加者から多様な意見やアイデアを引き出しやすくなる」と活用を促す。企業での研修経験が豊富な椎野氏にチームズの活用法を教わった。
2021年に出した本を1年余りで改訂した。「機能の追加や使い方の広がりがあり、構成まで改めるのが適切だった」と、椎野氏は理由を説明する。つまり、書き直しが必要なほど、チームズそのものが進化を重ねているわけだ。当然、各ユーザーによる扱い方も進化へのキャッチアップが望ましい。「学び直し続ける」はリスキリングの常だ。しかし、本書はあまたの機能を解説することに主眼を置いているのではなく、むしろ機能の裏側にある本質的な役割に目を向けている。「機能の意味や目的をきちんとつかむことが結局は活用への近道」(椎野氏)という。
もともとチームズには盛りだくさんの機能が用意されている。基本機能すら十分に使いこなせていないユーザーのほうが多いだろう。オンライン会議では聞いている時間のほうが長くなりがちで、「1時間に1、2度、マイクをオンにする程度」という参加者も珍しくないはずだ。だが、「マイクを通した発言だけが会議参加の方法ではない。チャットやリアクションなどを使った多様な参加形式が選べるのはチームズのよさ。基本的な諸機能を把握するだけでも、会議への参加姿勢が前向きになる」と、椎野氏はチームズが参加意欲を引き出す効果を指摘する。苦手意識を薄めるには、画面上の会議スペースに押し込められたかのような「窮屈感」を離れ、「みんなをつなぐ場」としてチームズに向き合う態度が重要となる。
チームズは便利なツールではあるものの、習熟度によって参加者の態度に開きが生じがちだ。「挙手」の機能を積極的に使う人には発言機会が多く与えられやすく、意見表明に偏りが出かねない。スキル次第で発言力に濃淡が出る「チームズ格差」とも呼べそうな偏りはチームにとって好ましくないだろう。「チームズ上手」が議論の主導権を握るような会議運びは「参加者全員がスキルを持つことによって避けられる」(椎野氏)。チームズ操作の習得は、単なるデジタルスキル向上にとどまらず、イノベーションや心理的安全性のうえでも意味があるという。
業務の基幹ツールに「出世」したことを受けて、チームズには様々な追加機能が盛り込まれてきた。例えば、マイクをオンにしたまま、誰かがキーボードをたたくと、「カチャカチャ」といった打鍵音が耳障りに感じられるが、この音を軽減するノイズキャンセリング機能が用意されている。カフェからの参加時は効き目を「高」に設定すれば、周囲の雑音をカットしやすい。
オンライン会議が広まった当初は、顔を明るく見せたい人が専用の「女優ライト」を買い込むケースが珍しくなかった。しかし、今では同様の機能もチームズ本体に搭載済みだ。「明るさ調整」と「ソフトフォーカス」を使えば、同様の効果を得られる。「ガイドブックを手がかりに、多彩な機能を自分なりに試してほしい」と、椎野氏は「チームズ探検」に誘う。
チームズで便利なのは、ファイルの共有機能だ。議論の参考になる資料を、画面上に表示して、視覚的な理解を助ける。ただ、共有の手順でもたつきがちのため、会議の始まる前に、会議の「ファイル」タブにファイルを保存しておこう。「チームズ」でオンライン会議を設定すると、その会議用のファイル置き場が自動的に用意される。その置き場に会議で使うファイルを保存しておくことで、簡単に共同編集も可能になる。「あれ、あのファイル、どこ行ったかな」などとつぶやきながらあたふたするのは、残りの参加者をいらつかせやすい。画面上の表示サイズが小さくて、参加者が読めないのでは意味がないから、大きめフォントに調整するか、公開段階で拡大表示に切り替えるかといった配慮も欠かせない。このあたりの操作に慣れておくと、こなれた所作に映り、議事進行もスムーズになる。