シンフォニーマーケティング(東京・千代田)は2023年8月2〜3日、BtoB(企業間取引)マーケティングをテーマとするイベント「IGC Harmonics 2023」を東京都内のホテルで開催した。3日に開いたグローバルセッションでは米国の専門家らによるAI(人工知能)がBtoBマーケティングに与える影響に関する講演とパネル討論会があり、「AIはツール(道具)であり、マーケティングを進化させる」との認識で一致した。
シンフォニーマーケティング代表取締役の庭山一郎氏は「NIKKEI BtoBデジタルマーケティングアワード」の審査委員を務めている。3日のセッションは庭山氏とかねて親交のあるBtoBマーケティング専門家のSteve Gershik 氏、世界各国の有力ビジネススクールでマーケティングを教えるRuth P. Stevens 氏が登壇した。
企業収益の77%は既存の顧客から
Steve Gershik 氏は米コンサルティング会社28MarketingのCEO(最高経営責任者)で米国の成長企業や大手企業向けにマーケティングを通じたビジネスの加速を支援している。同氏はBtoBにおけるアカウント・ベースド・マーケティング(ABM)と、BtoBマーケティングのためのAIの未来像の2つのテーマについて講演した。
ABMは対象となる企業を明確にして戦略的なアプローチを行うマーケティング手法で、米国の企業では幅広く採用されている。Gershik 氏は「(企業の)収益の77%は既存顧客から生み出される」とのデータを引用した上で、「既存顧客向けのABMに投資する必要がある。対象を調査して絞り込めば成功する可能性が高くなる」と訴えた。
急速な進化を遂げているAIがBtoBマーケティングに与える影響については、米マッキンゼー・アンド・カンパニーによる調査などを引用しつつ、「効率化を加速するツールになる。AIに投資する企業は利益を享受するだろう」と語った。具体的な活用方法としては、「生成AIを活用して大量のデータをリアルタイムで分析すれば、効率的にリード(見込み客)を獲得するのに役立つ」との見解を示した。
BtoBマーケティングのスキルを身に付ける方法伝授
Ruth P. Stevens 氏は米ニューヨーク大学スターン経営大学院などの複数の著名ビジネススクールで講義している。講演では19世紀末からのBtoBマーケティングの歴史を3つの時代に分けて説明した。さらにマーケティング活動が自社に与える財務的な影響を意識しながら自問自答することなど、BtoBマーケティングのスキルを身に付けるための実践的な複数の方法について来場者にアドバイスした。
米国の専門家2人の講演後、シンフォニーマーケティングの庭山氏を交えた3人によるトークセッションを開催した。庭山氏が「AI時代にはどういうマーケターが生き延びるか」と質問したのに対し、Gershik 氏は「(時代の変化に対応して)変われる人はあまり心配しなくていい。マーケターは(顧客への)共感が必要で、創造性を伴う人間の能力は(AIに)影響を受けない」と述べた。Stevens 氏は「AI(が生成する)コンテンツにはまだ間違いが多い。間違えた情報をベースにビジネスを決定するとコストがかかる。改善の余地は大きい」と指摘した。庭山氏は「マーケティングの要諦は40年前から変わらない。AIは(マーケティングを進化させる)手段の1つ」とまとめた。
8月3日のグローバルセッションに先立ち、2日に開いたセッションでは国内企業でBtoBマーケティングを実践する企業4社の担当者が自社の取り組みについて講演した。「NIKKEI BtoBマーケティングアワード2022」で大賞を受賞した旭化成のほか、サトーホールディングス、クラレ、日立産機システムの担当者が登壇した。
(原田洋)