フィンテックサミット2023特集

データセンターからWeb3をグリーン化 ムロオシステムズ 二宮暢昭執行役員が講演

講演 フィンテック ブロックチェーン

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次世代インターネット「Web3」は、基幹技術となるブロックチェーンが多大な電力を消費する。既にブロックチェーンはオンラインの契約処理など、身近なサービスにも導入が進んでおり、いかに需要を支え、カーボンニュートラルと両立していくかが、喫緊の課題となりつつある。そうした中で、海外でクリーンなエネルギーによるデータセンターを立ち上げたのがムロオシステムズだ。Web3を取り巻く現状や「グローバル グリーン ブロックチェーン イニシアチブ」を掲げるビジネスモデル、今後の展開などを、ムロオシステムズ執行役員の二宮暢昭氏がFIN/SUM2023で語った。

再エネで「原発1基分」賄う

依然として世界では化石燃料が主要なエネルギー源である中、気候変動対策と経済成長の両立が、各国の課題となっています。特にWeb3の基盤となるブロックチェーンは複雑な計算を必要とするため、規模が拡大するほど多大な電力を消費するという難問がありました。

ブロックチェーンを支えるデータセンターの消費電力は大きく、ブロックチェーンのひとつであるビットコインだけで、エジプト一国に迫る量の電力を消費しています。資源エネルギー庁「エネルギー白書」(2021)によると、世界のエネルギー源の84%は化石燃料由来で、再生可能エネルギーは16%に過ぎません。その課題解決を目指し、当社は再生可能エネルギーだけで稼働する「グリーンデータセンター」を作り、Web3をカーボンニュートラル化するための取り組みを実践しています。

2020年、中国とロシアの間にあるキルギス共和国に、中央アジア最大のグリーンデータセンターを自社建設しました。60メガワット(MW)の水力発電とデータセンターを組み合わせた事業です。北海道の泊原発1号機が57MWですから、原子力発電所ほぼ1基分に相当する規模と言えます。

ユーラシア大陸の真ん中にある山脈から東に流れた水が黄河になり、西に流れるとキルギスを経由する。──キルギスはそうした豊富な水資源があり水力発電のポテンシャルが高いにもかかわらず、活用が進んでいませんでした。19年より日本の外務省の協力も頂きながらキルギス政府と交渉して契約を結んで事業展開しており、新規プロジェクトも進んでいます。

フィンテック進化へ、電力問題は喫緊

インターネットを支えるインフラの変遷をまとめると、一方通行の通信を主体とする「Web1」時代は大手通信会社などが巨大なデータセンターを建設し、双方向通信を行う「Web2」ではクラウドが主役となりました。運営管理者を必要としない分散型インターネットであるWeb3では、インフラは分散型のデータセンターに移行していくと言われます。

経済産業省の予測では、30年にデータセンター全体が必要とする電力は、18年の6倍に当たる1万MWに拡大します。フィンテックの進化と拡大を考えれば、電力需要の増加を減らすという選択は考えづらいですが、1万MWは、原子炉166基分に当たる膨大な量です。これだけの需要を支えられないのであれば、30年までに必要な電力が賄えない時が来てしまいます。データセンターの電力問題を解決するため、グリーンな電力を増やしていくのは、まさに喫緊の課題です。

岸田内閣は22年6月の「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針)」の中にグリーントランスフォーメーション(GX)を位置付け、カーボンニュートラルに向けた10年間で150兆円超の投資実現や、研究開発、産業基盤強化など様々な施策が盛り込まれました。当社も後押しとなる施策はきちんと利用させていただき、事業を拡大していきます。

排出権ビジネスに好機

さらに二国間クレジット制度(JCM)への活用も視野に入れています。日本とキルギスの間でカーボンオフセットの国際取引契約を推進し、日本の脱炭素への動きを世界に発信していきたいと思います。

当社は22年12月、ジャララバード地方のカラクル水力発電所の共同開発で、キルギス政府と基本合意契約を交わしました。ダム、データセンターの着工に向け建設予定地などのフィージビリティスタディー(実現可能性調査)を終えており、23〜24年に着工する予定です。発電能力は18MW、収益は年間4億円を見込んでおり、炭素削減量でいえば年間8万㌧と予測しています。これは排出権に換算すると10億円分に相当し、事業そのものより、排出権ビジネスが大きな金額になっています。公的機関や金融機関からESG金融のサポートを受け、きちんと事業を計画し実行して、融資いただいた資金を返済したいと考えているところです。

工期は2年で、工事費用は35億円に過ぎません。利根川水系の下久保ダムでは、15MWの水力発電所の建設に9年半、1962年の金額で200億円かかりました。最新の日本のエンジニアリング技術をキルギスのような国で活用すれば、安く早くダムが建設でき、世界に貢献できるのです。

当社担当外のプロジェクトを含めると、キルギスには12のダム計画があり、計136MWのポテンシャルがあります。日本の政府、金融機関と一緒になり、ステップ・バイ・ステップで開発に参画し、データ需要を支えてWeb3発展の黒子になりたいと考えています。

今後に向けては適切なフィージビリティスタディーの上に事業計画、収益計画を立て、きちんとしたプロジェクトマネジメントを行うことが重要と捉えます。そしてESG(環境・社会・企業統治)ビジネスを行う上で金融機関、金融庁の支援も欠かせないと考えています。

Web3・ブロックチェーンは分散コンピューティングであり、国境を越えたビジネスチャンスがより広がっています。Web3インフラ企業は外に出る勇気も必要なのではないでしょうか。当社はWeb3業界のため、世界のため、そして将来の子供たち、そして日本のために今後10年かけてでもこのような事業を進めていきたいと考えていますので、ご支援のほどよろしくお願いします。

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