はじまる水素社会

脱炭素化への選択肢多様に 日経社会イノベーションフォーラム(下)

イノベーション 脱炭素 再生可能エネルギー

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[プレゼンテーション]

非電力部門の熱需要の転換進める

国際大学副学長 橘川武郎氏

脱炭素化には再エネと原子力、さらにカーボンフリー火力による発電の拡大がポイントになる。石炭火力はアンモニアに、液化天然ガス(LNG)火力は水素に変えていく。さらに火力ではCCS(CO2回収、貯留)も行う。非電力部門は徹底的に電化を進めることが重要になる。それでも2050年の総エネルギー需要に占める電力の割合は38%程度。62%は熱利用のまま残る。つまり脱炭素での注力分野は非電力部門で、カギになるのが水素利用。運輸部門はFCV(燃料電池車)や合成燃料、ガス利用はメタネーションに転換する。

長期、広い視野でビジネスチャンスに

産業技術総合研究所 エネルギー環境領域ゼロエミッション研究戦略部 総括企画主幹 田中加奈子氏

2014年の第4次エネルギー基本計画では、2次エネルギーとして水素はためて使うのが主目的だったが、18年の第5次計画では、再エネと並ぶ重点領域になった。さらに現在、第6次計画の政府案では社会実装の加速が盛り込まれている。

どう作って使うか。水素の利用拡大だけを目的にするのではなく、長期的なカーボンニュートラル社会に向けて広い視野でビジネスチャンスにつなげるのが最良だ。水素のポテンシャルを考え、技術開発に加え制度や投資促進の仕組みを整備する必要がある。

[パネルディスカッション]

【パネリスト】国際大学 橘川武郎氏、産業技術総合研究所 田中加奈子氏、日揮ホールディングス 秋鹿正敏氏
【モデレーター】日経BP総合研究所 上席研究員 金子憲治氏

需要に沿う解を

金子 第6次エネルギー基本計画の政府案では、2030年にはエネルギーミックスで水素1%となっている。1%でも相当難しい数字だ。

橘川 着実に水素の実装は進んでいく。しかし第6次基本計画の30年ミックスの積み上げはかなり厳しい。30年のCO2削減目標は40%程度の想定に対し46%になったため、再エネ発電を上積みし、原子力発電も27基の水準を維持することになっている。

田中 46%削減は非常に高い目標だと思う。社会的な機運は高まるが、実現に向けどう組み立てるかは別の話。不安定な再エネを積み増す中で、水素・アンモニアの利用をバッファーに位置付けたのだろう。

秋鹿 アンモニアやMCH(メチルシクロヘキサン)を含め水素は新しい分野で、新たな競争が始まる。グリーンイノベーション基金を活用して競争力のある技術の確立を目指す。技術に加え水素やアンモニアなどをどう作り、どう使うかの基準など制度設計も重要だ。

金子 水素の製造法は様々あり、製造過程のCO2排出の度合いによってグレーやブルー、グリーンなどに色分けされている。

橘川 再エネ利用の水電解がグリーン水素の基本のようだが、再エネの余剰利用では稼働が不安定だ。再エネを電気としてだけ使うのでなく、温水のような熱利用も検討すべきで、水素製造も選択肢を広くするべきと考えている。

田中 エネルギー貯蔵としての水素や蓄電池もある。余剰電力があるから水素を作るのではなく、エネルギーとしての需要があって水素を利用することが重要。

秋鹿 水素にして貯蔵するなど、エネルギー貯蔵も重要。化石燃料から発電できない状況で、海外で低コストの再エネ電力を使い、水素やMCHとして持ってくるのが現実的だ。

金子 海外に比べ日本ではアンモニアも注目されている。

橘川 アンモニアはもともとMCHや液化水素と同様に、水素のキャリアとして考えられていた。ここにきてアンモニアを燃料に使う流れも出てきた。コスト低減にはイノベーションのほかに既存施設の徹底的な利用が不可欠だ。

田中 水素のクリーンなイメージと比べると、アンモニアは毒性や臭気でイメージが悪い。しかし、それぞれ最適な利用法が開発されるだろう。

秋鹿 既存の設備をどれだけ活用できるかは重要。石炭火力はアンモニア専焼に転用でき、MCHは既存の石油精製・製油所を活用できる。適材適所で使うのが効果的だ。

橘川 電力会社が水素発電をやらないなら、期待されるのは都市ガスか石油業界。都市ガスはメタネーションに注力しているので、やるとすれば石油事業者ということになろう。

進むすみ分け

金子 水素利用が本格的に進むことで、社会構造も変化してくる。

田中 高齢化やロボット化など社会変革の要因はほかにもある。ただ、脱炭素化では、水素を絡めて製品やサービスを設計する必要がある。投資家も技術開発者もそこに注力するだろう。

秋鹿 製品のライフサイクルを通じCO2をどのくらい排出しているか、サプライチェーン全体で捉える。高圧蒸気を作るには熱源が必要だが、水素・アンモニア以外にも出てくるだろう。地産地消ではバイオガスの利用も進むだろう。

橘川 すべてを電化するのはコスト高。モビリティーでは自動車以外に飛行機や船舶は液体燃料が不可欠。電気自動車(EV)は充電時間の長さで商用車向きではない。FCVの乗用車は高価なのがネックだ。FCVはトラックやバス、産業車両用とすみ分けることになる。合成燃料にも水素は不可欠で、結果的に水素技術がカギになる。

田中 何もかも水素とするのは無理があり、用途に応じたすみ分けが出てくる。

秋鹿 全固体電池のようにバッテリー技術が発展すれば、モビリティー分野も様相が変わる可能性はある。低炭素化で飛行機はアルコール燃料から合成燃料へ、船舶は重油からLNG利用を経て、水素やアンモニア利用などに変わるだろう。あらゆるシーンで、脱炭素に向けた技術開発が進むことになる。

NEDOが発信「持続する力を」
 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は水素エネルギーの普及促進を狙い、一般向けのサイトを公開している。「水素エネルギーは、未来を持続する力」と伝えるコンテンツとしてまとめている。暮らしを支えるエネルギーの話から、月の地下に眠る氷からエネルギーを得る夢のある話まで、1分でわかる9テーマ「なぜなに水素エネルギー」のほか、NEDOが取り組む水素エネルギー普及に向けたイベントなども順次告知していくという。

◇   ◇   ◇

主催:日本経済新聞社、日経BP

メディアパートナー:FINANCIAL TIMES

後援:経済産業省、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

協賛:日揮グループ、東レ、岩谷産業、ENEOS、Jパワー(電源開発)

特別協力:三菱地所

 

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