駅弁は日本の食文化をギュッと詰め込んだ小箱のようだ。東京・新宿の京王百貨店新宿店で開催される「元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」(以下、駅弁大会)には、各地から名物駅弁が集まり、地域の食を一度に体験できる。新型コロナウイルス禍の後、初めて全国で各種の規制が解かれた状態で開催された第58回大会(1月7〜22日)は改めて駅弁ファンの多さを印象づけた。半世紀を超える駅弁大会の歴史を振り返る。
300種類にも及ぶ今回のバリエーションは駅弁文化の多様性を物語る。それぞれが味わいも趣も異なるが、どれが広く支持されているのか。イメージをつかむ手がかりに、前回大会の実演販売での売上個数ランキングがある。第1回から登場している「いかめし」(函館本線の森駅)は2020年に殿堂入り。「今も続く不動のトップ」と、駅弁大会を見続けてきた、京王百貨店の堀江英喜統括マネージャー(食品・レストラン部酒・進物・催事担当)は言う。
22年のトップは「牛肉どまん中」(奥羽本線の米沢駅)や、21年のトップ「氏家かきめし」(根室本線の厚岸駅)は上位の常連。「上位の顔ぶれはおおむね変わらない。ただ、ブランド牛が増えてきたこともあってか、近年は牛肉系の弁当に勢いがある」(堀江氏)という。
長年の人気を反映して、駅弁大会に参加する調製元のラインアップは常連ぞろいだ。この納得度の高いリストは回を重ねるごとに練り上げられていった。その証拠に1966年の第1回は30種類程度と、現在の約300種類の1割にすぎなかった。半世紀余りを費やし、約10倍にまで増えていった。89年に100種類、2003年に200種類と、徐々に増えていった背景には、京王百の駅弁チームが各地を巡って「地域の名駅弁を丹念に掘り起こしてきた」(堀江氏)取り組みがあった。
京王百のチームは駅弁を通して様々なドラマを経験した。たとえば、95年は阪神大震災と時期が重なった。陶器のたこつぼ入りで有名な「ひっぱりだこ飯」で知られる神戸市の老舗、淡路屋も被災。参加が危ぶまれたが、トラックで上京し、3日遅れで会場入りを果たした。「地元では炊き出しを続けながら、復興に向けた意欲を示し、感動を呼んだ」(堀江氏)。今回のコロナ禍でも苦境に立ち向かう調製元に駅弁チームが伴走した。
駅弁の文化は鉄道の歴史を映す。87年に旧国鉄が分割・民営化され、JR各社が誕生した。それぞれの持ち味を示す格好で駅弁もバリエーションが広がった。駅弁大会は86年から会期が2週間に延びて、87年には売上高が3億円を超えた。一方、82年に上越新幹線と東北新幹線が、92年には山形新幹線が相次いで開業。在来線の存続が難しくなっていった。駅弁大会では97年に初めて廃線駅弁の復刻に取り組んだ。