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スマート養殖、清掃活動…ニッスイが加速する海洋保全

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ニッスイが海洋環境の保全に軸足を置いたサステナビリティー(持続可能性)経営を進めている。国際的に水産資源の枯渇化が心配される中、その保全と持続的な利用は水産業界の老舗企業である同社の生命線ともいえる。グローバルな水産関連企業との連携や持続可能な調達率100%の達成、最新技術を駆使した養殖事業、地域社会との共存など多彩なテーマが同時進行中だ。

7月29日、ニッスイの浜田晋吾社長はマルハニチロの池見賢社長、極洋の井上誠社長らと稲毛海浜公園(千葉市)でペットボトル回収などの海岸クリーンアップ作業に取り組んだ。国際的な水産企業9社で構成する「SeaBOS」 (Seafood Business for Ocean Stewardship)のうち日本3社が合同で実施したイベントだ。「ゴミの海洋流出防止だけがイベントの目的ではない。清掃活動を通じて一人一人が廃プラ問題を『自分ごと』として捉えることができる」と浜田社長は語る。

SeaBOSは、米カーギルやタイ・ユニオン・グループなど大手が連携し、ストックホルム大の研究者らから科学的側面のサポートを受け、健全な水産物利用と海洋環境維持を目指す組織。具体的には違法漁業の撲滅、絶滅危惧種への対応、海洋プラスチック、養殖の抗菌剤削減、気候変動の5テーマを掲げている。ニッスイは2016年の設立準備段階から参画する、いわば創業メンバーだ。同社関係者は「年1回、各社の経営トップ同士が直接会ってサステナビリティーの国際的な潮流を共有できるメリットが非常に大きい」と指摘する。22年のアムステルダムに続き、23年10月に韓国・プサンで最高経営責任者(CEO)会合を開く。

目指すのは「持続可能な調達率100%」

水産資源の利用でニッスイが目指すのは「持続可能な調達率100%」を30年までに達成すること。やみくもに乱獲を繰り返せば、その魚類は減少の一途をたどり絶滅の危機にさらされる。世界の水産資源は過剰な漁獲35.5%、(適正レベルの上限近くまで漁獲された)「満限利用」が57.3%、余裕あり7.2%の状況にある。

一方、国際的な資源評価データベースをもとにしたニッスイグループ全体の状況は「優れた管理」18%、「管理されている」53%、「要改善」8%、データ不足など「そのほか」21%だった。すでに71%が持続可能な調達状態にあるという。

30年までに持続可能な調達率100%を達成するには、個別の魚種についてキメ細かな対応が欠かせない。取扱量が年間1万トン以上のスケソウダラ(漁場はアラスカ)やマイワシ(同日本近海)、アンチョベータ(同チリ・ペルー)などの資源状態は問題なさそうだ。マグロ、カツオもRFMO(地域漁業管理機関)が管理しており、現在は比較的安定した状況だという。一方で「東南アジア海域のイトヨリダイ、太刀魚などは管理情報が不足しており関係機関との連携を急いでいる」とニッスイ関係者は話す。

もう一つの課題はミナミマグロ(インドマグロ)、ナマコ、ニホンウナギなどの絶滅危惧種への対応だ。ニッスイは非政府組織(NGO)や大学研究者らと情報を共有し、30年までに資源回復への科学的・具体的な対策が取られない場合には、調達を停止する方針を打ち出している。

世界の食用魚介類の1人当たり消費量はこの50年で約2倍に増えた。養殖事業は持続可能な水産事業を展開する上で欠かせない。政府の後押しもあって異業種参入が目立つが、専門的な技術知識の蓄積が強く要求される分野でもある。

ニッスイの養殖事業は22年度で年間4万2500トン。最も多いのは南米・欧州でのサケ・マスで全体の62%を占める。国内はブリ(23%)、マグロ(8%)、ギンザケ(6%)、カンパチ(1%)となっている。人工ふ化させた稚魚を育てるブリの100%完全養殖は同社だけの技術だ。今後は「閉鎖式バイオフロック法」と呼ぶ水質浄化技術を用いた白姫えびの養殖を本格化するほか、水を循環させながら育てる陸上養殖でのマサバ養殖を計画する。

AI活用した自動化システムを共同開発

さらに「スマート養殖」と呼ぶ、海洋環境などへの緻密な視点が同社の特徴だ。沖合の養殖場に向け飼料を漁船で運ぶと温暖化ガスの排出につながり、燃料によって海を汚すリスクもある。エサを多く与えすぎると食べ残された分が養殖場やその周辺の水質を悪化させる。ニッスイは日鉄エンジニアリングと共同で沖合にプラットフォームを設ける自動給餌システムを実用化した。独自開発の自発摂餌システムと組み合わせ、魚の食欲に合わせた給餌が可能となっている。

人工知能(AI)を活用し、養殖魚の体長測定などの自動化システムをNECと共同開発した。網で魚をすくい上げて測定したり、いけす内で撮影した画像をコマ送りして測定したりしていたが、自動化システムだと水中で撮影した映像をアップロードするだけで魚の大きさや体重を算出して記録できるようになる。「人が魚に触れずに済むため、魚のストレスや病気のリスクを回避でき、作業者の労働環境改善にもつながる」とニッスイ関係者。温暖化ガスの排出削減に向けて水素燃料を使った漁船の開発もスタートさせた。生き締め処理の前に電気で気絶させる「スタンニング」と呼ぶ手法を用いるなど魚のアニマルウェルフェア(動物福祉)への気配りも欠かさない。

地域社会との共生では、18年から鳥取県船上山ダム湖畔で広葉樹を植栽し、下草刈り、枝打ちなどの森林保全活動を継続している。鳥取県などが企業の環境貢献を支援する「とっとり共生の森」の一環で、23年は13企業・団体が参加。県と市町村が企業と森林所有者との橋渡し役となる。

鳥取県には陸上養殖センターや銀ザケの養殖場などニッスイグループの拠点が多い。ニッスイは事業と深いかかわりを持つ水源地を守る活動と位置付けている。CSR(企業の社会的責任)活動としてだけではなく、ビジネス視点を欠かすことなく海洋保全の動きを加速させているのが同社の特徴といえそうだ。

(松本治人)

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