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苗木から高品質の「日本ワイン」 生産者と苗木商が連携 新たな味・ウイルスフリーのブドウ苗木育てる

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国内各地のワイン生産者とブドウ生産者が集まり、日本産ワインの品質を一段に高める新たな試みが始まった。一般社団法人「日本ワインブドウ栽培協会」(JVA、鹿取みゆき代表理事)は、ウイルスチェック済みのブドウの苗木を普及させる仕組みを苗木商と確立しようとしている。実現すればワイン用ブドウの品種の選択肢は広がり、魅力的で高品質の「日本ワイン」づくりが可能になる。各地のワイナリーが中心となり、各地域の気候や風土に合ったワイン生産が広がれば地域活性化にもつながりそうだ。

ワイナリー急増で高まる苗木のニーズ

「日本ワイン」とは国内で栽培されたブドウを原料に、国内で醸造されたワインという定義だ。中でも日本を代表する白ワイン用「甲州」は日本固有のブドウ品種で、原料として多く使われている。赤ワイン用の品種では「マスカット・ベーリーA」が広く生産されている。

一方、日本各地のワイナリーの数は22年末時点で500弱と過去5年間で5割近く増えた。日本ワインの評価も上がっている。急増に伴い、より多様で高品質のワイン用ブドウ苗木のニーズが高まっている。欧米では何百種類もある品種の原木を管理する機関があり、苗木商はここから台木や穂木を入手して苗木を作る。

「いいちこ」以前に参入

大分県の北部、宇佐市安心院(あじむ)町。盆地特有の気温差がある気候を生かし、良質のブドウを育てようとしているのが01年に開園したワイナリー「安心院葡萄酒工房」だ。農園、醸造所を運営するのは本格麦焼酎「いいちこ」を製造販売する三和酒類(同市)である。

麦焼酎の知名度は抜群だが、実は同社はワイン事業は焼酎より前から手掛けていた。1971年に製造免許を取得して以来、「安心院ワイン」として販売している。古屋浩二執行役員は「日本ワインのレベルを向上させ、持続的に発展させたいというJVAの鹿取代表の考えに賛同した。自社の管理する畑を原木園として提供している」と語る。

この原木園では害虫などに耐性がある「台木」と接ぎ木となる「穂木」を育てる。育った木から枝をとり、JVAの会員である苗木商向けに出荷する。苗木商はこれらを使って、ウイルスチェック済みの苗木を生産する。ワイナリーでは栽培を通して様々なデータを集め、日本各地の風土に適した品種を探していく。

「新たな苗木供給システムを構築」

JVA設立の中心となった鹿取代表はワインジャーナリストで信州大学特任教授だ。「重要なのは、その土地に適したブドウを育てて、風土を表したワインを造ることだ。そのためにも苗木商やブドウ農家、ワイナリーが協力して新たな苗木供給システムを構築することが大事だ」と強調する。

2023年4月21日、成田空港に米国の苗木商からぶどうの枝をカットした穂木が到着し、鹿取代表が検疫に立ち会った。検疫をパスした穂木は兵庫県にある国の隔離圃場で1年間栽培され、収穫量に影響を及ぼすウイルスなどに感染していないかのチェックを受ける。その後、原木園で育成する。原木園で育てた「母樹」は会員の苗木商にJVAが販売。これらをもとに作った「JVA苗」を苗木商が全国のワイナリーやぶどう生産者らに販売する仕組みだ。

現在日本ワインは北海道から九州までほぼ日本全国で生産されている。JVAで理事を務める12人も、日本各地でワイン用ブドウを育て、ワインを造る生産者でもある。

長野県東御市にある「ヴィラデストワイナリー」。同ワイナリーの小西超(とおる)社長はJVAの執行理事だ。ウイルスチェック済みの穂木や台木を、同ワイナリーの通常のブドウ園とは離れた原木園の専用農園で育成。小西社長は「JVA認証として会員の苗木商に販売したい」と意気込む。

国の受け入れ体制が追い付かない懸念

農水省農産局の仙波徹・果樹・茶グループ長は「農村人口が減る中で移住して新しい品種でワイナリーを経営しようとする人が増えるのは魅力的」と語る。ただ、ワイナリーの増加に伴い日本ワインを醸造するブドウの需要は増加しているが、木の輸入の際に必要となる国の隔離検疫施設の受け入れ体制が需要に追い付かず、輸入できないことも懸念される。

このため、農水省は生産者・大学・試験研究機関などが参画する「輸入苗木供給推進コンソーシアム」を産地に設置し、隔離検疫施設の役割を担ってもらうための補助金事業を19年から支援している。仙波グループ長はJVAの試みについて「詳細な事業計画が固まり、現状の問題の解決策になれば」と期待している。

活動資金を募るためチャリティーワインを販売

JVAのプロジェクトは緒に就いたばかり。海外からの穂木や台木の購入・輸入業務から、それらを原木として保管、育成し、さらには増産体制を構築するまでに時間や多くの資金が必要だ。長野や新潟など各地のワイナリーやワインブドウ生産者らと協力して、広く活動資金を募るためのチャリティーワインの販売を始めている。それぞれの地域の味わいを表現したワイン5本セット(5万5000円)をウェブサイトで販売中だ。販売で得た利益はすべてJVAの活動資金として使う。

長野県須坂市にある「楠わいなりー」はチャリティーワインを製造する1社だ。楠茂幸社長は「ウイルスに感染していないワインの苗木が広がれば、ぶどうの収穫量も増える。農産業の効率経営につながり、担い手の生活を向上させることができる」と期待する。JVAの鹿取代表は「100年後も日本でワイン造りを続けていくことにつながると考えている」と意気込む。

「新しい品種での市場開拓がカギ」

日本ワインを拡大する試みは成功するのか。国際的なワイン資格「WSETディプロマ」を持ち、食品分野に詳しいジャーナリストの猪瀬聖氏は「国内では日本ワインの消費は頭打ち。JVAの取り組みがどのくらい成果が上がるかは未知数だ」と指摘しつつ、「日本の気候に適した新しい品種での市場開拓がカギを握る。品種を確立した上で産地がインバウンド(訪日外国人)向けのワインツーリズムを広げていけば生産者の新たな収入源になり、ワイナリーの新規参入も増えてくるだろう」と話している。

(近藤英次)

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