日本経済新聞社は2023年7月14日、生成AI(人工知能)の潜在力と課題を議論する「NIKKEI生成AIコンソーシアム」の第1回会合を東京都内で開催した。米スタンフォード大学兼任教授で、AI fundゼネラルパートナーのAndrew Ng(アンドリュー・ング)氏が講演した。
ング氏はAI研究の第一人者で、現在主流のGPU(画像処理半導体)を活用したディープラーニング提唱者でもある。教育者として多数のAI人材を輩出し、対話型AI「Chat(チャット)GPT」を開発した米オープンAIのサム・アルトマンCEO(最高経営責任者)は教え子である。同時にインキュベーション活動でも多くの成果を残している。
ング氏の講演での発言要旨は以下の通り。
「100年前には『電気』という汎用技術が社会を変革したが、今また、AIが社会に大きな変革をもたらそうとしている。過去10年間で、AIはメールのフィルタリングからレストランのレビュー、経路検索まで多くのことに使われてきた。これからの10年間は、チャットGPTに代表される生成AIの10年になるだろう」
新しい持続的ビジネスが生まれる
「米アップルのiPhoneが登場した時にも様々なアプリが生まれたが、その多くは短命だった。しかし、米ウーバーや米エアビーアンドビーのような新しいサービスも登場して持続的な産業に変わっていった。生成AIも同じだ。色々な活用方法があって短期的な流行に終わるものもあるだろうが、その先に新しい持続的ビジネスが生まれる」
「数十億人にサービスを提供するようなAIは多くない。しかし、もっと小さなプロジェクトでも人々に役立つものは作れる。数年前には不可能だったことが、AIの力で実現可能になる。新しい企業だけでなく、既存の企業がAIを活用するチャンスもある。様々なアイデアのもとにパートナー同士が組み、新しいビジネスの可能性を模索できる。日本のパートナーとももっと色々なビジネスを作っていけるはずだ」
生成AIは所得が高い人々に影響
「AIは人々の働き方に影響を与える。自動化によって低賃金労働に影響が出たが、生成AIでは所得が高い人々が影響を受ける。AIによって新しい価値は生まれるが、人間の側への影響も見ていく必要がある。そこは政府が変わっていかなくてはいけない部分だ」
「『AIが人類存亡の危機を引き起こす』との論もあるが、非常に懐疑的だ。『明日朝起きたらAIが驚くほど知的になっていた』というような話は現実的ではなく、有害でない形でゆっくりと成長・発展していくだろう。むしろ、気候変動や次のパンデミックなどの解決にAIが重要な役割を果たすのではないか。今後1000年を人類が生き延びるために、AIの成長をサポートしていくべきではないか、と考えている」
(ライター 西田宗千佳)