2022年3月、リコーの女性社員ら3人で立ち上げたファッションブランド「ランゴリー」が、インドの伝統柄のヨガウエアや下着のネット販売を始めた。インド農村部の女性たちに一部生産を委託し、雇用創出を目指すこのブランドは社内起業家を発掘・育成するプログラムから生まれた。19年から年1回のペースで開催し、社員に加え社外のスタートアップも参加して事業アイデアを競い合う。
社員が自身のキャリアを主体的に考え、能力を最大限に発揮してほしい──。リコーは各社に共通するこの課題と向き合い、17年から「働きがい改革」を進めてきた。まず始めたのがマンネリでミスできない仕事の削減だ。社員が改善提案し約2100の業務プロセスをロボットやAI(人工知能)に置き換えた。浮いた時間は自身の成長に充ててもらう。勤務時間の2割まで他部署で働いたり新事業のアイデアを練ったりできる社内副業制度を設けた。社外での副業も増えており挑戦する社員を応援する。
働き方の選択肢も増やしてきた。リモートワークは新型コロナウイルス禍よりも前の18年に全社的に導入し、入社2年の社員が北海道富良野市で働くなどワーケーションの実験も重ねている。男性社員の育児休業取得率は100%で、21年度は10日以上が83%、平均23.1日に達する。
今年1月4日、東京都千代田区の貸会議室に次世代会議空間「リコープリズム」を設置し、貸し出しを始めた。音や光の空間演出で参加者のアイデアを引き出しやすくする。仕事の創造性を高めるための社内研究から生まれ、自社の働きがい改革を事業につなげる一歩でもある。
リコーの取り組みには奇抜な施策はない。むしろ改革の実効性を高めるには、ニーズに合った制度を複数そろえ、社員が利用しやすい風通しの良い社内風土をつくることが重要といえる。
山下良則社長は17年4月の社長就任直後に「働き方変革」の直轄プロジェクトを立ち上げ、積極的に社員と接してきた。起業アイデアのコンペでは審査に加わり、新入社員一人ひとりと対話する「個別入社式」も始めた。社内SNSでは自作のピザ窯を紹介するなどプライベートもあえて公開している。言うだけにとどまらないトップの姿勢が改革の推進力を高めることにもなる。
(編集委員 半沢二喜)
リコー・山下良則社長 社員と対話し、経営改革
2017年の社長就任時から、社員一人ひとりがイキイキと働く会社にしたいと言ってきました。組織の力は人数ではなく、モチベーションの総和で決まると思っていたからです。面倒でマンネリな業務はロボットに任せ、人間は創造的な仕事をすることで働きがいが生まれてきます。その思いから「"はたらく"に歓びを」というビジョンをつくり、23年度からは企業理念の「リコーウェイ」に盛り込むことにしました。自社で実践し顧客企業のお手伝いもしていきます。
本人がやりたい仕事をしてもらう方がモチベーションは格段に高まります。社員が仕事にどんな思いを持ち、人生をどう生きようとしているかを会社が対等な立場で聞くことが重要になります。昨年4月にジョブ型の人事制度を導入しましたが、職務内容を明確にするだけでなく、社員のキャリアや希望も見える化しました。新プロジェクトを立ち上げる時は、やりたい人やその分野が得意な人をできるだけ選びたいと考えています。
もう一つ大切なのはコミュニケーションです。今後のマネジャーの役割は管理ではなく、部下の課題を聞き出すことです。自分の成功体験よりも失敗体験を語ってほしい、と言っています。「管理職」から「支援職」に名称を変えようとも思っているんです。経営会議を工場や営業所で開いているのも、幹部に現場や顧客の声を肌感覚で知ってもらうためです。社員との距離感を縮めないと、いい話も悪い話も入ってきません。
これからの経営変革は社員とのコミュニケーションを活かしていくことが重要になります。社員が自律的でイキイキとしている企業はサステナブルであり、業績とも関係するはずだと思っています。