日経ニューオフィス賞

働く人々へ「集う価値」提供 第36回「日経ニューオフィス賞」

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日本経済新聞社とニューオフィス推進協会(NOPA)は第36回「日経ニューオフィス賞」として、16案件を選定し授賞を決めた。コロナ禍で従業員がリモートワークに慣れたなか、受賞各社に共通したのは、共に集い、語り合い、知恵を出し合える従業員満足度が高い場を創出しようという意気込みだった。最終選考会後に実施した三栖邦博・NOPA会長と古谷誠章・早稲田大学教授の対談でも、企業にとってEVP(Employee Value Proposition=従業員への価値提供)向上が、オフィスをデザインする際の重要な課題になりつつあることが指摘された。

早稲田大学教授・建築家/日経ニュ ーオフィス賞審査委員長
古谷 誠章 氏
ニューオフィス推進協会 (NOPA)会長/三栖邦博・環境デザイン研究室代表
三栖 邦博 氏

EVP重視の姿勢が鮮明

三栖 今年の応募オフィスを見てみると、事業所や研究所を新設したり改装したりする際に、企業が従業員にどのような価値を提供できるかを真剣に考え始めていることがうかがえた。つまり、EVP重視の姿勢が鮮明になっている。

古谷 パンデミックで在宅勤務が普及したが、コロナ禍がピークを過ぎて、もう一度オフィスに人々が集う意味、そこで生み出すべき価値、楽しさが問い直されている。「自宅で仕事をしているよりオフィスに行った方がよい」と社員が思えるような価値。それを提供できるオフィスにしようという意欲を感じた。ただ、「こういうオフィスにしなければ」という画一的なトレンドに支配されているわけではない。各社がそれぞれの業態や社風にマッチした独自の価値提供の仕方を模索している。だからこそ多様性があり、楽しく応募作を審査できた。

三栖 ウェルビーイングがオフィスづくりの中心的課題になってきている背景には、人材価値の最大化を図る人的資本経営への関心の高まりがある。その潮流の中で、オフィスがEVPの具現化の手段として重視されてきていると強く実感した。オフィスの間取りや調度品のデザインなどハード面に凝るだけでは、ウェルビーイングは実現できない。むしろソフト面が大切だ。つまり、新しくつくるオフィスで従業員がどのように働き、どのようなふるまい方をして幸福感を高めてほしいのかというビジョンを描くことが必要だ。

古谷 会社がつくったオフィスで「さあ働いてください」というのではなく、社員たちが主体的にオフィスづくりに参加したケースが増えたのも、EVP重視の結果だろう。特に若い人に積極参加を促すケースが目立った。経済産業大臣賞に輝いた「兼松 東京本社オフィス」を現地審査に行った時に、入社3年目の女性がプレゼンテーションをしてくれたが、自らのオフィスへの強い愛着が感じられてとても印象的だった。

「場」と「ふるまい」が両輪

三栖 「ワークプレイス・アンバサダー」を定めてオフィスづくりを進めた企業もあった。全員参加型のオフィスづくりを主導し、運用開始後もどのように働き、どうふるまってほしいか、新しいオフィスでの新しい働き方を率先垂範し、従業員の自主的な行動誘発につなげる、デモンストレーター役を担う人だ。コロナ禍を経て、オフィスはリアルなコミュニケーションを伴う対面ワーキングの場であるという認識が浸透した。その結果、多彩にしつらえられたアクティビティー・ベースド・ワーキング(ABW)の場がつくられてはいるが、場を十分に生かすには工夫も必要だ。オフィスづくりには、「場づくり」と「ふるまいづくり」の両面がある。

古谷 地方都市にクオリティーの高いオフィスや研究開発拠点が生まれているのも最近の傾向。 まず、多くの企業がワー ケーションなどを体験して、地方立地に対する心理的ハードルが下がっている。むしろ環境の良い場所で働けるというポジティブな評価もでてい る。コロナ禍で普及したリモートワーク関連のテクノロジーも、立地によるネガティブな影響を解消した。さらに地方ならではの敷地の広さや自然環境の豊かさをうまく利用する企業も出てきた。広島市のモルテンの新オフィス、molten[the Box]のように敷地内でヒツジを飼うような新機軸も出てきた。あそこまでのワイルドさは本当に興味深い。

五感に働きかける仕掛け登場

三栖 均質な空間に執務デスクが整然と並ぶ風景はほとんど見られなくなり、ラウンジやサロン、ファミレスやカフェ、キャンプ場など様々なスタイルのしつらえを多彩に展開するオフィスが普通になった。そこでは豊かな植栽や品の良いアートワーク、それぞれの場に適した雰囲気を演出する照明、せせらぎや鳥の声、アロマやまきストーブの香り、座り心地や手触り感、おいしいコーヒーや健康食など、五感に刺激を与える多様な取り組みが見られる。こうした五感への働きかけによって感情が喚起されると、脳内に取り込んだ知識が定着しやすくなるという研究成果もあるようだ。

野菜の栽培にしても、ヒツジの世話にしても行動を伴うことで異なる刺激を受け、感情が増幅される可能性もある。働く人へ刺激を与える仕掛けは今後のオフィスづくりでさらなる進化を見せるに違いない。

古谷 自宅に通信機器を備えればリモートワークができ、一応の仕事はこなせる。しかし、オフィスで自宅を超える快適さを演出し、他者との出会いによる楽しさを提供すれば、従業員は集うはずだ。集う仕掛けを内包したオフィスが続々生まれる予感がする。

 

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