生成AIコンソーシアム

生成AIの10年先は読めない 「使って慣れる」が大事 NIKKEI生成AIコンソーシアム第2回会合 オズボーン・松尾教授が対談

AI 働き方 対談

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

日本経済新聞社は2023年10月17日、生成AIの潜在力と課題を議論する「NIKKEI生成AIコンソーシアム」の第2回会合を東京都内で開催。AI(人工知能)・機械学習の世界的権威である英オックスフォード大学教授のマイケル・オズボーン氏と東京大学の松尾豊教授が、生成AIが人々の仕事に与える影響について対談した。

対談の概要は以下の通り。

松尾氏「生成AIは平均的な個人の能力を向上させる可能性がある。このことは、人々の経済格差を是正し、低所得者の賃金をあげることにつながると思うか」

オズボーン氏「生成AIがどう経済に影響するかは興味深く、予想しづらい。例えば、ライドシェアのウーバーがある都市に導入された際、その都市のタクシードライバーは約10%の賃下げを受け、仕事はより不安定になったという。生成AIで同様のことが起きても私は驚かない。スキルが平均以下である場合、AIに脅かされて仕事や収入が減ってしまう可能性はある。一方で可能になることも多い。例えば、ロンドンの街は道が複雑で覚えるのが難しいので、タクシー運転手になれる人は限られていた。しかし、今はGPS(全地球測位システム)とカーナビゲーションのおかげで、より多くの人がウーバーの運転手として収入を得ている。技術の導入は勝者も敗者も同様に生み出す、ということだ」

松尾氏「生成AIの時代に子どもたちは何を学ぶべきか。どのような職業に就くべきなのか」

オズボーン氏「とても重要な質問だ。私にも7歳と4歳の子供がいて、毎日この疑問について考えている。すなわち、答えは『わからない』。この『わからない』ということが最も重要なメッセージなのではないだろうか。テクノロジーは急速に進歩し、不確実性が非常に高い。数カ月先の予測ですら外れる。なぜならAIは今や、私のような研究者だけの手中にあるわけではない。世界中で何億・何十億という人々が、AIを使って遊んでいるような状況であり、なにが出てくるか予測は困難だ。だから私は、子どもたちに『AIに慣れる』『精通する』ことを勧めている。10年先を見据えると、これらのテクノロジーに触れない仕事はないと思うからだ。今日、その能力はあまりにも強力で、あまりにも多様だ。だから私たちは皆、何らかの形でそれらを使うことに慣れなければならない。そして、この変化の結果、私たちがより良くなるか、それとも悪くなるのかは、ある程度は私たち次第だと言える」

医師の面倒な事務的作業をAIが軽減

松尾氏「日本は高齢化という課題に直面しており、今後は高度な医療AIを念頭に置いたデータ収集が必要になる」

オズボーン氏「英国の医療も危機的状況にある。国民医療制度(NHS)は長い間、一貫して資金不足に陥っており、特に(新型コロナウイルスの)パンデミックによって、国民の基本的な医療ニーズを満たすことがますます困難になっている。その結果、NHSは医療をより低コストで提供する手段としてAIに目を向けている。私は英国でスタートアップ企業にアドバイザーとして関わっており、患者のメンタルヘルスケアに必要な面倒な書類作成をAIに置き換える事業をしている。AIは診察の中で口述筆記のアシスタントの役割を果たせる。医師が作成しなければならなかったメモを取り、メモから得た情報をフォームに記入する作業を自動化し、適切なタイミングで提出もできる。NHSが望ましいケアを提供できない原因となっている面倒な事務的作業や時間のかかる作業をAIが軽減する方法はたくさんあるはずだ」

世界各国がAIを統治する方法には3つのアプローチ

松尾氏「私は政府のAI戦略会議の議長を務めている。日本は主要7カ国(G7)の中で、特に『広島AIプロセス』を通じて、AIに関する議論をリードする立場にある。欧州は強力な規制を重視し、米国はイノベーションを重視している。日本へのアドバイスをください」

オズボーン氏「AIをどのように活用していくべきかというテーマは、どの国にも大きく関係するものだ。英国では11月1日、2日にAIサミットを開催し、世界中のリーダーや専門家が一堂に会する。そこでAIについても、興味深い議論が展開されることを期待している。現在、AIを統治する方法には3つのアプローチがある。ひとつは、既存のルールや法律を利用する方法。英国はこのやり方だ。もう1つのアプローチはAIを管理するためのまったく新しいルールを作るというEUと同じやり方だ。EUは現在、AIに特化した大規模な新しい法律『AI法』を起草中で、24年に施行される見込みだ。3つ目のアプローチは、特定のアプリケーションが害を及ぼすようになった場合に、単純に禁止するという、モグラたたきのようなアプローチだ。これは、中国が取っているようなアプローチである。私はエンジニアであり、政治家ではない。だから、どのアプローチが正しいのかはまだわからない。しかし、確実に言えることは、AIの普及と急速な展開によって、巨大な社会的課題が浮上することは間違いないという点だ。現在、ほとんどの政策立案者は、まだ対処できていない。AIについてこのような議論が始まっているという事実には本当に勇気づけられる。規制当局は社会に害をもたらすようになってから追いつくのではなく、物事の先端にとどまるよう努力する必要がある」

(ライター 西田宗千佳)

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

AI 働き方 対談

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。