インボイス制度特集

デジタルインボイスでバックオフィス効率化 インボイス制度徹底解説(下)

データ活用 DX インボイス

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

企業DX推進の好機 業界挙げて普及促す

インボイス制度への対応が進む中、電子インボイスの普及に向けた動きも活発化している。特に注目を集めているのが、請求書情報をデータでやり取りするデジタルインボイスだ。

デジタルインボイス推進協議会(EIPA)代表幹事の岡本浩一郎氏は「PDFなどではなく、あくまでデジタルデータで発行・受領するデジタルインボイスの普及を目指している。機械的に受け取って自動処理できるのがデジタルインボイスの強みであり、バックオフィス業務の圧倒的な効率化も可能になる」と説明する。

2020年7月に10社で設立したEIPAは、現在200社を超える規模に拡大した。システムベンダーやパッケージソフト企業などを中心に大手製造業や小売業、監査法人、税理士法人なども加盟している。

デジタルインボイスについては、デジタル庁が主導、EIPAが民間企業の立場から連携し、国際規格Peppol(ペポル)に準拠した標準仕様の策定・普及に取り組んできた。

「国際的な規格はいくつかあるが、2020年末にEIPAがペポルを推奨した理由は主に2つある」と岡本氏。1つ目は文書仕様やネットワークなど実際の運用に必要な要素がワンセットでそろっていること。2つ目は欧州をはじめシンガポールや豪州など30カ国以上で使われており、利用実績があることだ。こうした点を考慮し、国際標準に最も近いのがペポルだと判断したという。

企業間取引で使われているEDI(電子データ交換)の場合、送受信者はともに専用システムを導入しなければならない。一方、ペポルは相手のIDが分かればデータを送受信できるオープンネットワークだ。互いに異なるシステムを利用していても電子メールのようにやり取りできる。

ペポルでインボイスを発行・受領する利用者が払う料金は、ペポルサービスプロバイダー各社が個別に決めるが、利用者拡大のため受領時の費用を無料にする施策も検討されている。「利用者が増えるほど利便性が増すネットワークの外部性が働くため、一定件数は無料にするなど利用のハードルを下げることが大切だ」(岡本氏)

デジタルインボイスを利用するメリットは紙のインボイスのように発行や郵送の手間がなく、保存・管理が容易なだけではない。ペポル対応サービスを使えば、既存の請求システムから請求書情報を読み込み、ペポルに準拠したデータに変換して送信。受領側は自社の会計システムにデータを流し込むだけで支払業務や記帳業務などの後工程につなげられる。

これまで紙で送っていた請求書を単にデータに置き換えるのではない。データで送受信することで、会計仕訳や支払処理、入金の消込業務なども自動化できる。「取扱件数が多い大企業ほど、そのメリットは大きい。サービスの利用コストをDXのための費用と位置付けて積極的に対応してほしい」と岡本氏は強調する。

普及という観点でも商取引のハブになる大企業が取り組まなければ中小企業に広がらない。税務当局はデジタルインボイスの利用を促すインセンティブを用意することも必要かもしれない。

サービス開発に期待 公的支援も利用可能

EIPA加盟社はペポル対応サービスの開発を急いでいる。これから夏にかけて本格的に提供が始まる見込みだ。

「EIPAには中小企業向けから大企業向けまで様々な規模のシステムベンダーが加盟している。誰もが簡単に使える仕組みが開発・提供されることを期待している。利用しやすくすることで、時間の経過とともに飛躍的に普及が進むはずだ」(岡本氏)

インボイス制度への対応や、それに伴うデジタル化を推進する際には、公的な支援を活用することもできる。

例えば持続化補助金は、免税事業者がインボイス発行事業者の登録を受けた場合、補助上限を50万円加算する。機械装置導入のほか、インボイス制度に対応するための取引先の維持・拡大に向けた専門家(税理士、公認会計士、中小企業診断士など)への相談費用なども補助対象となる。

中小企業や小規模事業者のIT(情報技術)ツール導入を支援するIT導入補助金(デジタル化基盤導入類型)は、安価な会計ソフトも対象となるように補助下限額を撤廃した。パソコンやタブレットなどハードウエアの導入費用、クラウドサービスの利用料なども補助対象になる。インボイス制度への対応やデジタル化を進めるために、必要なハードウエアやソフトウエアの購入を考えているなら賢く利用したい。

インボイス制度への対応をそれだけで終わらせるのはもったいない。バックオフィス業務全体のデジタル化・自動化、経営変革の好機にできる。DXを進めて自社の付加価値を高めていきたい。

理解深め、早めの対応を

TKC全国会 システム委員会 委員長 岩崎 博信氏

インボイス制度に対する中小企業経営者などの理解は深まっているとは言い難い。制度が始まると、インボイスがなければ消費税の仕入税額控除の適用が受けられなくなる。しっかり対応しておかなければ税負担が増える恐れがある。

これまでの請求書などとインボイスの違いは、インボイス発行事業者の登録番号を明記する点と消費税の端数処理のルールが決まっている点だ。インボイス=請求書と思われがちだが、納品書や領収書をインボイスにしてもよい。各事業者が選択できるため、事前に売り手と買い手でどの書類をインボイスにするのか決めておく必要がある。混乱を避けるには、インボイスではない帳票に登録番号を書かないといった方法も考えられる。

取引先ごとに何をインボイスとするかが異なるケースもある。免税事業者も混在するだろう。下請けの免税事業者などが取引から排除されるという懸念もあるが、慢性的な人手不足のために下請けの交渉力が強い業界もある。取引先が多い買い手企業ほど多様な請求書などを受け取ることになり、確認作業や経理処理が複雑になる可能性が高い。会計帳簿にはインボイス発行事業者と免税事業者とを区分して入力し、月次決算でこまめに整理することが重要だ。

デジタルインボイス(ペポル)が普及すれば、経理をはじめとした業務の負担は大幅に軽減できる。こうした取り組みは利用率が一定割合を超えると急激に利便性が増す。そのように推移することを期待している。

特例や経過措置が設けられるなど、制度は変更されることがある。最新情報を持つ税理士のアドバイスを受けながら、早めの対応を心がけてほしい。

実務踏まえた準備不可欠

中央大学法科大学院 教授 酒井 克彦氏

インボイス制度は新たな緩和措置などを待って準備を先送りする段階にない。税務当局は周知に一層注力することと併せ、インボイス発行事業者の税務調査を一定程度差し控える姿勢を示すなど、対応を後押しするインセンティブを考えてもいいのではないか。

インターネット経由で単発の仕事を発注するギグエコノミーが広がり、小規模事業者が急増している。そのすべてを税務当局が管理するのは難しい。インボイス制度はその仕組み上、事業者間の相互チェック機能が働く。その力が弱まる一般消費者との取引に焦点を当てて行政資源を集中するのも一つの方策だ。

インボイス制度の開始後も様々な課題が出てくるだろう。2023年度の税制改正大綱には1万円未満の値引きなどについて返還インボイスを不要とする案が盛り込まれた。インボイスが取引の実態を表さなくなるが、それでいいのか。

タクシーや飲食店の領収書がインボイスの要件を満たしていない場合、ビジネスパーソンは経費精算できない可能性がある。道の駅などでの委託販売において、商品が売れるたびに委託者がインボイスを発行するというのは現実的ではない。

こうした実務での対応に想像をめぐらせると、様々な改良点が浮かび上がってくる。当事者が具体的にイメージしながら取引を見つめ直さないと問題に気付かない恐れがある。インボイス制度は国民一人ひとりの生活に影響を及ぼし得るということを理解したい。

デジタルインボイスについては、企業に大きな利点があるという認識を広めることが普及の鍵になる。業務の大幅な効率化だけでなく、人の手が入らなくなれば不正防止にもなり、ガバナンス強化につながる。

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

データ活用 DX インボイス

関連情報

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。