天然温泉の大浴場付きビジネスホテルを各地で相次いで開業しているのは、「ドーミーイン」ブランドで知られる共立メンテナンスだ。東京・銀座でも2023年2月に「ドーミーインPREMIUM」ブランドの新ホテルをオープンした。日本生産性本部の顧客満足度指数調査では3年連続でビジネスホテル部門の首位。広く支持される理由を、同社のドーミーイン事業本部で東日本事業部長を務める水野貴史氏は「寮から始まった成り立ちが大きい」と語る。
そもそも「ドーミーイン」とは面白い名前だ。英語で「宿」を意味する「inn」はリーズナブルな価格帯のホテルの屋号として米国では広く使われている。日本にも「東横イン」や「ルートイン」の例がある。一方、「ドーミー」は英語の「ドミトリー(dormitory)」に由来し、意味は「寮、寄宿舎」。このブランド名を掲げたのは、同社が先に学生寮や社員寮を手がけていたからだ。
創業者の石塚晴久氏は料理人からキャリアが始まっている。1979年に千葉県松戸市で企業の給食施設運営を請け負って事業をスタート。翌80年には学生寮事業を立ち上げた。85年からは社員寮も始めて幅を広げた。当時の寮は朝夕の2食付きが当たり前だったので、受託給食のノウハウが生かせたようだ。
寮で暮らす人たちが疲れを癒やせるよう、寮内に備えたのがゆったりした湯船の大浴場だった。現在に至る「ドーミーインの大浴場」の原型は既にこの頃から用意されていたわけだ。だから、「大浴場へのこだわりは並大抵ではない」(水野氏)。
ビジネスホテル業態でのドーミーインの第1号は93年に「ドーミーイン谷塚」の名前で、現在の埼玉県草加市にオープンした(既に閉館)。ビジネスホテル業界に進出したきっかけも「寮つながり」だった。社員寮を利用していた企業から「各地にあるドーミー系の寮を、出張した社員の宿泊用に1泊単位で使いたい」という要望を受けたそうだ。
学生寮や社員寮に、出張者を泊めるのは差し障りがあっただろう。それまでにリゾートホテルで経験のあった同社は別にビジネスホテルを建てるという形で事業を立ち上げた。今も「ドーミーイン」の看板を掲げているのは、創業の原点にちなんでのことだ。「我が家のようなくつろぎを提供するというコンセプトの由来は寮の快適さにある」と、水野氏は「ドーミーイン流ホテル哲学」の原点を明かす。