困り切ったA社は若手社員に店長という仕事のイメージをアンケート調査。すると、若手が店長職に全く魅力を感じていないことが分かったのです。「店長はまるで会社に住んでいるかのごとく働いている」。「長く勤めたいが、店長の働き方を見ていると人生に無理が生じそう」。アンケートにはこんなコメントが多数書き連ねられていました。
幹部ポジションの魅力向上≒権限委譲
店長が魅力的なポジションになっていない。A社はすぐに店長業務の抜本的な見直しに着手しました。まず、店長の役割を店のすべてを担う責任者から、「職場環境づくり」の責任者に再定義。副店長や主任らへの権限委譲を行うとともに、仕事と生活を両立しやすい勤務体制の整備を進めました。
店長の働き方が変わると、成果はすぐに出ました。ウェルビーイング(身体的・精神的・社会的な健康)が目に見えて改善した結果、18年中ごろには退職に歯止めがかかり、20代後半から30代前半の人材が相次ぎ店長に着任。出店計画も3年を待たずに達成しました。ポイントは権限を委譲した副店長、主任ら若手が、より重要な仕事を担い成長を実感したことです。そして、次のポジションである店長職が魅力あるものに変わったことで、若手に将来への自信を与えたのです。
若手を巻き込んで人事制度を一新
若手エースの離職阻止へ、もっと大胆な施策を選んだ会社もあります。北陸の中堅建築資材の卸・小売を営むB社は、やはり若手リーダーが離職することに悩み、社員アンケートを実施しました。見えたのはA社と同じ若手の心の内です。「ここ数年、仕事で成長を感じられなくなった」。「会社の向かう方向性、個人として頑張る方向性が見えない」。
危機感を抱いた経営陣が決断したのは、若手のプロジェクトメンバーを人事制度の抜本的見直しに参画させることでした。各事業部門の部長クラスと部署や役職を超えて徹底的に議論し、時代に合わない「会社の制度」を、「会社と社員一人ひとりの未来が見える」制度に一新したのです。
具体的には新人から部長クラスまでを6等級に区分し、それぞれに求められる要件(能力や態度)を規定。業務を遂行しても事業が発展しなければ昇給や賞与に反映しない。当たり前のことですが、それを若手が納得する形で定めたことが重要なのです。
新制度が決まると、プロジェクトに参加した若手からは「この会社でまだまだ成長できる可能性を実感できた」など、前向きな声が多く寄せられました。また、「成長実感」や「成長予感」だけでなく、社員の「仕事への誇り」や「愛社精神」も高まった。優秀な若手の離職に歯止めがかかり、将来体制への不安も払拭しました。
若手の成長意欲を生かしサステナブルな会社に
もうお分かりだと思いますが、若手の成長意欲の高さをできる限り生かす。そこに次世代リーダー候補の離職を防ぐカギがあります。ただ大事にするより、もっとチャンスを与える。上の世代も自らの働き方を、若手に魅力的な形に改めていく。結果として、会社は未来に向けてよりサステナブル(持続可能性がある)な体制に進化していくのです。
また、こうした取り組みは重厚長大な巨大企業より、社員全員の顔が見える中堅・中小規模の企業の方がはるかに実行しやすいものです。日本企業はなお年功序列を重視しがちですが、あえて若手を生かす発想で人事制度を見直すことで、中堅・シニア層の活性化が図れることもあるのです。
悩むよりまずは実行です。若手の成長に軸を置いた発想で、持続可能性の高い「未来から愛される会社」を目指してみてください。