SDGs(持続可能な開発目標)にデジタルトランスフォーメーション(DX)……。ビジネスの現場には次々課題が降ってくる。あなたの職場は持続可能ですか。今回は会社の将来を担う若手リーダーの相次ぐ転職に悩む経営者に、職場のSDGs研究所代表の白井旬氏が若手の定着する職場環境の作り方を助言します。
大学新卒で入社した社員の3割が3年以内に、会社をやめてしまう。そこを乗り切って成長した将来の柱となる人材も、30歳前後に突然転職してしまう。企業にとっては人材戦略が本当に難しい時代が来ていると、改めて思います。相談者の悩みは多くの企業に共通する課題で、私もこうした相談を受けることが増えています。
期待する人材の「びっくり転職」 ダメージ大きく
「若手エースの突然の転職」を、私は「びっくり転職」と呼んでいます。期待している人材ですから、会社側は当然、当人とよい関係を築けていると思っている。信頼して重要な職責を与えていることも多い。それなのに、なぜ転職してしまうのか。
以前の記事で紹介した「沖縄県人材育成企業認証制度」(沖縄県雇用政策課、慶應義塾大学SFC研究所・高橋俊介教授ほかと共同)の「働きやすさ」と「働きがい」を評価基準とした4分類(過去記事「入社数年で若手が次々転職 成功体験与えて歯止めに」参照)から考えると、「びっくり転職」が起きやすい会社は「人材滞留企業」に当たることが多いようです。
給与や福利厚生が充実し、肉体的・精神的負荷が少ないなど「働きやすさ」は高い。一方で、仕事における成長や充実が少なく、従業員が「働きがい」を得られていない企業。しかし、転職すると待遇が下がるなどの理由で、留まっている
相談者が語るように、待遇や福利厚生は整っており、職場環境も悪くない。それにもかかわらず若手エースが転職を選ぶのは、待遇(コストパフォーマンス)よりも人生(タイムパフォーマンス)の観点で、職場に居続けることに不安を抱えているから。この職場では成長できない。ほかの環境で自分を高める必要性を感じているからなのです。
求めているのは待遇より成長のチャンス
そもそも昨今の20〜30代は、同じ会社で働き続けるより、ビジネスパーソンとして成長できる環境に転職することをためらわない傾向があります。あなたの会社が将来の柱として期待を寄せる社員も、目先の成果だけでなく、職場の目標を実現するために自ら行動して、成長の実感を実力や自信とともに獲得している人材ではありませんか。彼らは成長意欲が高い。だからこそ、転職を決断するのです。
「この会社にいると、ほかのビジネス分野では通用しなくなるのではないか」。「給料は高いけど、新しいことにチャレンジする先輩が少ない」。若手の間からこんな声が聞こえてきたら注意する必要があります。相談者の会社はどうでしょうか。
では、離職を防ぐにはどうすればよいのか。彼らはビジネスパーソンとして目指すイメージと、職場の先輩や上司の姿が一致せず、将来に不安を感じている。自分を成長させるために必要な「背伸びをした仕事=職責の重い仕事」が十分に得られないことにも不満がある。ならば、彼らがさらなる成長を確信し、夢を描ける環境を整えるしかありません。
びっくり退職に歯止めをかけた2つの会社の取り組みを紹介しましょう。
一つ目の事例は、九州・沖縄地方で成長中の飲食店チェーンA社です。2017年に3カ年で7店舗を新規出店する計画を立てたのですが、店長候補の20代後半〜30代前半が次々に退職し、計画を見直す事態に陥りました。給与の引き上げを提示しても退職に歯止めがかかりません。