ヒットの軌跡

よなよなエールの奥深い戦略 意外なネーミングの由来 ヤッホーブルーイング よなよな未来課 稲垣聡氏(上)

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働きがいを支えるフラットな組織とオープンな気風

働きがいに関して調査しているGreat Place to Work Institute Japanが発表した23年版「働きがいのある会社」ランキングの日本版で、ヤッホーは中規模部門(従業員数100〜999人)で4位に選ばれた。規模を問わないベスト100には17年から7年連続で選出されている。稲垣氏は「チームで働くマインドが定着している。ビールを通して人生を楽しんでもらうエンターテインメント企業。まずは自分たちが楽しまないと、共感を得られない」と、働きがいを支える企業風土を語る。

「よなよなエール」の公式ウェブサイト「よなよなの里」には、様々な立場の社員が頻繁に登場する。ビールの基礎知識を手ほどきしてくれる人や、こだわりポイントを解説するブルワー(醸造士)、つまみ料理を提案する「よなよな料理部」メンバーなど、思い思いにビールライフの楽しさを語りかける。ヤッホーが掲げているミッション「ビールに味を!人生に幸せを!」を社員全員が表現していて、オープンな社風を感じさせる。

実際、ヤッホーは年齢や役職にとらわれないフラットな組織だ。部長・課長級職にあたる「ディレクター」のポストには、社員が新卒なら2年目から立候補できる。正確に言えば、立候補しないとポストには就けない。立候補制を採用している企業に多い「立候補する余地がある」ではなく、自ら買って出た人だけがポストを得られる仕組みだ。就任できるかどうかは、立候補者のプレゼンテーションを聞いた全社員の意向が左右する(最終的には社長が判断)。古めかしい年功序列とは無縁で、風通しのよい社風だ。日々、たくさんのプロジェクトが立ち上がるのも、こうしたポジティブな空気のおかげだろう。

社員全員がニックネームで呼び合うのも、ヤッホーのフラットな組織を象徴している。ニックネームは内輪のひそかな呼び名ではなく、それぞれの名刺にも本人の写真と共にニックネームが明記されている。文字サイズは本名よりもニックネームのほうが大きい。社長も例外ではない。井手社長のニックネームは「てんちょ」。楽天市場のショップで店長を務めていたからだ。一般企業の社長室に相当する部署はあっても、部屋としての社長室はない。日ごろ、オフィスのあちこちで見かける井手社長は「戦略ビジョナリーとして特別でありつつ、社員から気軽に話しかけやすい存在」だという。

「知的な変わり者」というのは、ヤッホー社員が共通して意識している人物像だ。クラフトビールの雄として認知度を高めたとはいえ、ビールメーカー大手に比べれば、「まだ弱者の立場」(稲垣氏)。クラフトビールの市場もボリューム面ではニッチな位置づけで、全国の家庭で冷蔵庫に常備してもらうまでには、大手に負けないメッセージ性の強いプロモーションが欠かせない。「万人受けするよりも、1人に深く刺さるような差別化戦略」(稲垣氏)を進めるには、「知的な変わり者」ならではのとがったセンスが生きるはずだ。

「よなよなエール」は熱狂的なファンの多さにも強みを持つ。後編では巧みなファンマーケティングの秘密に迫る。

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