NIKKEIブルーオーシャン・フォーラム

脱炭素 参入の壁高い分野で勝負 商船三井 社長 橋本 剛 氏

海洋保全 インタビュー 脱炭素

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「NIKKEIブルーオーシャン・フォーラム」(日本経済新聞社・日経BP共催)の有識者メンバー企業である商船三井は、脱炭素の技術力が競争激しい海運業界を生き抜く柱だと位置づける。橋本剛社長は日本経済新聞の取材に答え、環境投資が重視される中であえて参入障壁の高い領域に挑み、勝負する戦略を説明。船舶燃料の代替策として、難易度の高い洋上風力の利用などを進め、2050年までのネットゼロ達成を目指す姿勢を強調した。

船舶燃料の代替、洋上風力も

企業理念は「青い海から人々の毎日を支え、豊かな未来をひらきます」。環境保全と成長の両立へグループ経営計画「BLUE ACTION 2035」を始動し 

世界は海でつながっています。商船三井は世界経済の発展に合わせて事業を拡大し、800隻以上の船を運航、人や貨物をあらゆる場所に運んでいますが、今のままでサステナブル(持続可能)なのかと考えるようになってきました。

従来から環境汚染物質の排出を削減したり、船体の安定に使うバラスト水を処理して生態系への影響を防いだりするなど、海の環境保全に取り組んできました。現在、焦点となっているのは脱炭素です。船の燃料には重油を使います。これを二酸化炭素(CO2)の排出が少ない天然ガスやメタノール、燃焼してもCO2を出さないアンモニアや水素などに転換しようと取り組んでいます。

地球環境を重視する流れは今後も強まっていくでしょう。対応していかないと、投資したアセットが近い将来に経済価値を失う「座礁資産」になってしまいかねません。新たなニーズとして機運が高まっている再生可能エネルギーや石油代替燃料の導入にも取り組む必要があります。変化の方向性をリードしていきたいと考えています。

一方で、1社でできることは限られるでしょう。人材に関しても、資金面のすべてをまかなうのは難しい。当社の歴史的な背景や蓄積している技術、人材からみて、海に関わる取り組みを進めていきます。

2020年に西インド洋のモーリシャス沖で起きた重油流出事故では積極的に対応し、高い評価を得た

事故は海運業の本質を見直すきっかけになったと考えています。手配していた貨物船が座礁して燃料油が流れ出し、サンゴ礁を汚染する事態を招きました。船主でない私たちは船を運航しておらず、法的責任はありません。しかし、それでは済まされません。「社会的な責任はあり、前面に立って対応せねばならない」と当時の経営陣は考え、リモート会議で毎日のように議論しました。

モーリシャスを支援するために8億円を拠出して基金をつくりました。汚染の除去だけでなく、持続可能な水産・農業や観光など地域振興に生かしています。環境NGO(非政府組織)とも連携しました。新型コロナウイルス感染症の世界的流行が収束した22年には、客船「にっぽん丸」のモーリシャス寄港も実現しました。

その間、延べ21人ほどの社員を現地に派遣しました。まず、汚染を除去するには何ができるかに取り組んでもらい、さらにその後は復興につながる取り組みをフィールドワーク的にやってもらいました。こうした経験を通じて、私たちが学んだことや気づいたことが数多くありました。

海洋プラスチック問題の解決が新しいビジネスに育つとみる

今は海洋プラスチックの回収が事業として成り立たないか検討しています。オーストラリア企業が開発した海洋プラを回収する装置「Seabin(シービン)」を広島市の港湾に設置し、実証実験を進めています。出光興産と協力しながら、回収したプラごみを燃料油や化学品に再資源化できないかということも検証しています。愛媛県松山市に本拠を置く三浦工業と共同で、微細なマイクロプラスチックを回収・分離する装置も開発しました。これは自動車運搬船に試験搭載しています。

この問題を解決するためには、河川から海に流れ出るのを食い止める必要があります。東南アジアやインドでは大量のプラごみが発生し、河川に流出しています。回収装置を積んだ小型船を開発し、プラごみを"一網打尽"にできないだろうか、と考えています。これはきっと面白いビジネスに発展するのではないでしょうか。

海を起点とした脱炭素実現を目指す

海運業は過当競争状態にあります。その中にあっては、技術力が求められる参入障壁の高い分野で勝負し、シェアを広げていく必要があります。アンモニアを燃料に航行する船や風力エネルギーを推進力に変える次世代帆船などが当てはまります。かなり難しいと分かっていますが、不可能ではないと見極めがついています。

帆船技術の進化を研究するプロジェクトの帆を1本搭載すれば5〜8%の温暖化ガス削減効果を見込めます。その技術は洋上風力にも生かせます。石油や液化天然ガスの代わりとなる洋上風力の建設や保守、関連する配線など、これまでに培った事業が生かせるでしょう。例えば、石油や液化天然ガスの浮体式設備、海底ケーブルの敷設船などです。こうした事業を通じて洋上風力のサービスプロバイダーになろうと考えています。

このほか、インドネシアではマングローブの再生・保全事業も進めて います。大気中のCO2を吸収・固定でき、ブルークレジットの獲得につながります。余剰分が出れば他社に売ることもできるでしょう。ビジネスとして育てるのは大変ですが、損はしないでしょう。一方国内では、海の藻などがCO2を吸収する「ブルーカーボン」に着目し、クレジットを購入しています。

どれだけ脱炭素を進めても、排出するCO2をゼロにはできません。こうした取り組みで排出量を相殺し、50年にCO2排出量を実質ゼロにする「ネットゼロ」を達成できるよう取り組んでいきます。

記者の目 新技術 完璧さより速さを


企業にとって環境への対応は社会的責任から重要な経営戦略に変わった。とはいえ、慈善活動では限界がある。収益を伴うビジネスとして定着させ、持続可能な取り組みへと仕立てていかなければならない。

「公害防止はもうかる」。1970年代の米スリーエム(3M)など日米欧の環境先進企業を研究した経営学者マイケル・ロイストン氏は、こんな説を提唱した。その後、地球温暖化対策と経済成長は相いれないとされてきたが、イノベーションの進展などで両立は十分可能だ。

求められるのはスピード。技術開発はもちろん、市場投入や流通整備、設備投資の拡大も迅速な決断が重要だ。完璧でなくても使ってもらい、ニーズを集めて改善を進め、完成度を高めつつ市場を開拓する戦略が欠かせない。

日本企業はこれまで、商品やサービスの完璧さを求めてきた。かつては競争力の源泉となってきたが、加速する時代の変化に追いつけなくなっている。「技術で勝ってビジネスで負ける」を繰り返さないためには、経営判断にスピード感が求められる。

政府の支援も重要だ。技術開発や投資優遇税制、補助金は整備されてきたが、普及を後押しする政策は不十分だ。できることは全部手がけるくらいの決意がほしい。

(編集委員 青木慎一)

 

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