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問われる運用戦略 進化する手法 資産運用会社の未来像プロジェクト2023シンポジウム

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ESG(環境・社会・企業統治)投資で資産運用会社の存在感が増している。世界の総投資額に占めるESG投資の比率は急激に拡大しており、社会課題解決に資する企業活動と企業価値向上の両輪を分析しつつ、投資先を選定する資産運用会社の目利き力が、運用資産の将来に大きく影響するからだ。資産運用会社は各社独自の評価基準と選定基準を設けており、その分析手法も進化を続けている。業界の第一線で活躍する実務家たちと有識者が、それぞれの活動と未来展望などを語り合った。

 

【基調講演】自社に即した方策と開示を

本田 桂子氏 コロンビア大学 国際公共政策大学院 客員教授

気候変動や貧困、人権など、世界は社会課題にあふれ、公的資金だけでの解決は難しい。国連は不足する資金を民間に求めたが、民間は利がなければ動かない。

そこで2005年、国連が提唱したのがESG投資だ。投資判断にESGを織り込むことで、社会課題について投資家・経営者などビジネスパーソンの認識が深まり、同時に企業価値の向上にもつながるとの考え方だ。

金融機関の反応は当初、鈍かったが、15年のSDGsやパリ協定の採択などで流れが変わる。ESG投資の定義が曖昧なことから不確実ではあるが、20年の世界のESG投資額は35兆㌦を超えたと推定される。また、世界の金融機関の総運用資産の36%をESG投資が占めている。

ESG投資が抱える課題も多い。第1が定義の不明確さだ。そこからESG投資が世界の課題全てを解決するといった誤解や、名ばかりで実質の伴わない「ESGウオッシュ」への懸念が生まれている。

第2は開示基準の未整備や乱立だ。ESG投資を行っても効果が検証できず、競合企業との比較もできない。昨年、国際会計基準(IFRS)の策定などを担うIFRS財団が、統一された開示基準を公表したが、概括的なものであり、これに準じた企業の具体的開示には企業の尽力が必要。

第3は業界や業種ごとに固有の効果的な要素が特定されていないことだ。温暖化ガス排出削減の努力は、製鉄業界では大きなインパクトを持つが、小売業では効果が薄い。小売業には小売業に適した取り組みがある。

第4は超過リターンが検証されていないこと。第5は米国などで政争の具にされていることだ。

今後企業が取り組むべきポイントは、ESGファクターのうち自社の企業価値に影響の大きいものの特定とその情報開示だ。多くの企業が気候変動や人的投資に目を向けるが、推進すべきESGの課題は多彩である。自社の理念や歴史、顧客、強みなどを考え合わせESGを推進、開示する。そうした努力が世界の投資家の資金を呼び込み、ひいては日本経済の成長につながるのだと思う。

 

【講演】自然資本投資を強化

泉 陽介氏 ヌビーン・ジャパン プロダクト・マネージャー シニア・ディレクター

当社グループは、1918年にカーネギー財団により設立された米国教職員退職年金/保険組合(TIAA)を母体とし、アセットオーナーとアセットマネジャーの両面を持つ。オルタナティブ投資の体制が整っているのも特徴だ。

当社の「グローバル投資家動向調査2023」によると、今後5年間で投資行動へのインパクトが大きいのは、エネルギー供給の分断が75%、人口動態変化が61%、反グローバル化が58%で、資源の不足(食料、水など)が45%だった。想定されるインフレ対策期間は2〜3年が50%を占め、オルタナティブ投資の中でも森林・農地への投資計画が過去2年間で急増している。

当社グループは1987年に農地運用を、98年に森林運用を開始したが、こうした自然資本へのインパクト投資は分散効果のみならず、堅固なリターンとインフレヘッジが期待できる。

当社の農地投資は地価上昇と、多年生作物栽培では収穫した作物の売却益が、一年生作物栽培では農地のリース料が収益源だ。森林投資では、建築資材用木材とパルプ・家具用木材ともに木材の売却益と地価上昇が収益源だ。農地、森林ともにボラティリティーは低位安定で景気動向への耐性が高い。森林投資はカーボンクレジットを獲得できるのも強みだ。

 

【講演】金融力で未来を創造

野村 裕之氏 かんぽ生命保険 執行役員 兼 運用企画部長

総資産63兆円の7割を国内債券で安定運用しつつ、オルタナティブ投資残高を積み上げ、資産運用の深化・高度化を図っている。ESG投資では90年以上前から続けているラジオ体操を通じた健康増進支援にふさわしい「Well–being向上」のほか、「地域と社会の発展」「環境保護への貢献」を重点テーマとする。

ESG投資の次なる展開として、社会課題の解決に必要な技術とビジネスモデルの変革を促すインパクト投資領域において、日本を代表する機関投資家のリーダーとして先進的な取り組みを実践した。インパクト投資の社内認証制度であるインパクト"K"プロジェクトを立ち上げた。投資事例では育児と仕事の両立支援などポジティブインパクトを与える「保育園ファンド」へ出資。社会的インパクトの創出に取り組む国内上場株「コモンズ・インパクトファンド」に投資。産学連携では慶応義塾大学、大阪大学、立命館大学と覚書を締結。インパクト投資領域を中心にアカデミアの研究成果を活用したベンチャー企業対象の資金供給を検討するとともに、金融教育で連携・協力し、かんぽ単独では成し得ない社会課題解決とイノベーション創出による未来社会の創造に努める。ESG投資「年表」に残る新しい取り組みを実行し、金融の力で今よりも良い社会を築いていく。

 

【リレートークセッション1】気候変動対応に実効性を

土岐 大介氏 BNPパリバ・アセットマネジメント CEO・代表取締役社長
イグナス グエン氏 ナティクシス・インベストメント・マネージャーズ/ミローバクライアント・ポートフォリオ・マネージャー 上場資産担当
坪田 史郎氏 ロベコ・ジャパン 代表取締役社長
内藤 豊氏 ブラックロック・ジャパン サステナビリティ戦略部門長 兼 サステナブル投資推進部長
石原 宏美氏 アムンディ・ジャパン 運用本部 株式運用部長
聞き手 酒井 耕一 日経BP 総合研究所 ESGフェロー

土岐 サステナブル投資の今後を占うとき、重要なポイントが5つある。

第1は「規制・監視」だ。一昨年、欧州連合(EU)がサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)を導入。ESGファンドには、基準を満たしていることの明示が義務づけられた。そして今年は、その根拠の説明が問われた。規制や監視強化の背景には、見せかけだけで実体の伴わない「ESGウオッシュ」を排除する意図がある。

第2は「誰もがネットゼロ」に向かう道筋だ。当社も2050年までに投資先企業の温暖化ガス排出量ネットゼロを宣言。アクティブ運用での投資先選定では、論文を基礎にした評価手法を用い、当該企業のネットゼロ達成の可能性を分析している。

第3は「スチュワードシップ活動」だ。投資先のネットゼロ実現には、投資する我々にも責任がある。明確な目的を持ったうえでのエンゲージメント(対話)が必要だ。

第4は投資効果(インパクト)の「測定」である。当社は「SDGファンダメンタルズ」というツールをフィンテック企業と共同開発。同ツールは、投資先ごとに効果的な持続可能な開発目標(SDGs)を選定。その投資がSDGs推進にどれだけ役立つかを測る。

第5は、私たち投資会社自身のESG推進だ。例えば当社役員の女性比率を上げる。そうした「有言実行」が、投資先の意識を変え、世界を変えていくのだと思う。

グエン 地球の生物多様性が、いま失われようとしている。世界の国内総生産(GDP)の半分以上が「自然資本」に依存するといわれる中、これは大きな脅威である。

政府間組織である「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)」は、多様性喪失の原因に「土地利用、気候変動、汚染、外来種、乱開発」の5つを挙げる。原因となる産業が、農業や畜産・水産業などを含む食品・飲料産業、インフラおよび自動車産業、エネルギー産業、ファッション・アパレル産業である。

ミローバはこうした産業に着目し、生物多様性の喪失を軽減し、再生のための方策を持つ企業への投資を推進する。投資テーマは①持続可能な土地利用②持続可能な資源管理③エネルギートランジション(移行)ーーの3つだ。

①では人工知能(AI)や衛星画像、センサー、ドローンといったIT(情報技術)機器の農業への利用、あるいはビッグデータによる農作物の増産などの技術を持つ企業が該当する。②では廃棄物のリサイクルと回収、水管理、プラスチック容器の削減に資する技術を持つ企業、③では再生可能エネルギーや、電気自動車(EV)などを開発する企業への投資を進める。

私たちはこれら投資とともに、ESG投資が生物多様性に与える影響を測定する指標も開発している。

坪田 当社は1995年にサステナブル情報を資産運用に加味。2010年からは全運用プロセスに取り込んでいる。現在、運用部門にはファンドマネジャーやアナリストが約250人在籍するが、うち50人がサステナブル投資(SI)の専門家だ。例えば、気候や生物多様性のストラテジストや、データサイエンティストがこれに当たる。

こうした専門スタッフが進めるのが、ESG推進の効果を検証する、定量的指標の策定だ。「SI企業プロファイル」もその一つであり、財務上重要なESG要因に注目することで、企業を10段階にランクづけする。

企業の気候変動への対応に的を絞った指標が「脱炭素化スコア」だ。現在、多くの企業が30年、あるいは50年に向けて脱炭素を宣言する。当社は、その経営計画や財務状況、保有技術などから、当該企業の脱炭素化への移行経路を推定。当該企業の属するセクターの脱炭素移行経路モデルである「セクター別脱炭素シナリオ分析(SDP)」と比較する。当該企業の脱炭素化スコアをはじき出す。

例えば某社の場合、温暖化ガスの排出量が30年までは業界のベンチマークをわずかに上回るが、それ以降は加速度的に減少、脱炭素化するといった具合だ。

定量化の試みで、投資家に正確で分かりやすくESG情報が伝わり、それがよりよい投資行動につながることを願っている。

 内藤 一口にESGといっても、課題やテーマは多様であり、全てが投資のリスクやリターンに結びつくわけではない。当社は運用会社の受託者責任の観点から、特に気候変動への取り組みを重要視。その解決に資するトランジション投資に注力する。

トランジション投資への当社のスタンスは、通常の投資と変わらない。重視するのは顧客の投資目標の達成を支援する選択肢提供だ。トランジション投資といっても、再エネへの投資もあれば、蓄電池などの材料である鉱物資源への投資、あるいは二酸化炭素(CO2)貯留といった技術への投資もある。顧客にこうした多様な投資機会を提供し、その上でリスク調整後のリターンの最大化を進めるのが運用会社の責務である。また、こうした取り組み実現のためのリサーチ能力の増強も大切だ。

当社はトランジション投資を次の4つのいずれか、あるいは複数に焦点を当てたものと規定している。①脱炭素経済移行への対応②業界基準の脱炭素化シナリオとの整合性③鉱物資源など、脱炭素経済への移行に欠かせない原材料の供給④再エネなどの脱炭素化を加速させる技術ーーである。

こうした分類を意識し、資産クラスや投資スタイルを横断的に捉えた投資商品を開発するプロジェクト「トランジションキャピタル」が現在、進行中である。

石原 当社は現在、日本株式のアクティブ運用に注力している。銘柄選定は、個々の企業の状況の分析によるボトムアップ・アプローチを基本としている。優れた運用商品の提供で、顧客の資産形成を助けるのが、当社の果たすべき大きな役割だ。

一方で私たちは、投資先企業の価値向上も担う。とりわけ重要なのはエンゲージメントであり、これはアクティブ投資家にとってのリターンの源泉でもある。

企業価値の向上には大きく2つのパターンがある。一つは本来の企業価値(本源的価値)と市場価値(株価)にギャップがあるケースだ。しっかりとした成長戦略や同業他社に対する優位性を持つのに、それが投資家や市場に伝わっていない。こうした場合、エンゲージメントでは企業情報の開示や市場とのコミュニケーションのあり方を話し合う。

もう一つは、本源的価値自体に拡大の余地があるケースだ。エンゲージメントでは様々な改革を提言。企業の価値向上を促す。

エンゲージメントは実効性を持たなければならない。重要なのは、相手にとって意義のある対話をすることと、相手の信頼を得ることだ。それには投資先の経営者に「よく知っているね」といわれるぐらいの投資先の理解が必要だ。投資先の決算説明会や工場、海外拠点にも足を運ぶことも大切である。

 

【リレートークセッション 2】市場の変化へ対応必要

山野井 徹氏 大和アセットマネジメント 取締役兼常務執行役員 運用本部 運用本部長
小松 雅彦氏 日興アセットマネジメント サステナブルインベストメント部共同部長
豊田 一弘氏 シュローダー・インベストメント・マネジメント 日本株式運用 総責任者
雨宮 弘明氏 キャピタル・グループ インベストメント・ディレクター
聞き手 大口 克人 日経BP 日経マネー発行人

山野井 日本株が長期低迷した要素は3つある。マクロ面ではデフレ環境の継続、ミクロ面では企業がキャッシュをためこむ内向きの経営、マネーフロー面では継続的に日本株を買う主体が存在しなかったことだ。いま、その構造に変化が起きている。グローバルでインフレが進み、日本国内でも脱デフレが見え始めた。ミクロ面でも企業行動に大きな変容が生まれている。

変容のひとつが、PBR(株価純資産倍率)向上への取り組みだ。PBRを引き上げるためには、資本コスト低減と成長率向上が必要となる。資本コストの低減策では、統合報告書を発行する企業が増加し、長期的な成長性に対する投資家の理解を深めることで時価総額を高めつつある。成長率の点では、バランスシート調整が完了し、設備投資増額が見込まれるなど成長戦略にかじが切られつつある。マネーフローについては、「株式投資による成功体験」がないことを背景に個人はこれまで売り主体となってきたが、アベノミクス後の株価上昇で成功体験の入り口にきている。

成功体験を続けて、世代をつないで伝えられることが重要で、新NISAは若年層、資産形成層の投資に対する考え方を変えるチャンスだ。このように日本株を低迷させていたマクロ、ミクロ、マネーフローの3要素に構造変化が起きている。大和アセットマネジメントは資産運用会社としてその変化を加速させ、株価上昇の正循環を実現していく。

小松 今、日本は歴史的なインフレ経済の転換点に立っている。インフレでは物価が上がり、企業業績も上がりやすい。

こうした環境下では、労働市場が売手市場となり、人材が貴重な経営資本となる。今後は人的資本のマネジメントの巧拙が企業の持続的成長を左右するだろう。人的資本のマネジメント、事業戦略、そして全社戦略の、それぞれの人材に関わる部分について重点的に取り組む必要がある。

人的資本のマネジメントのポイントは、給与・待遇と仕事のやりがいだ。提供できない会社は退職者が増加し、残った人に仕事の負荷がかかる悪循環に陥る。

事業戦略という観点では、値上げをしても買い手の共感を得られる製品・サービスを提供する必要がある。無人化や省人化、デジタルトランスフォーメーション(DX)化といった要員の削減も重要だろう。

全社戦略では、適切な企業価値向上策を実施することに尽きる。具体的には不採算事業の見直しだ。逆に、他社にとっての不採算事業を本業とする会社は、他社の不採算事業を買収して人材獲得、シェア獲得、競争制限、バーゲニングパワーを獲得するとよい。

インフレ下では、こうした人に関わる取り組みを進める企業に投資妙味がある。その企業の取り組みを後押しすることが、私たち資産運用会社の役割だ。

豊田 今年3月、東京証券取引所は上場企業に対して、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応を要請した。この要請のポイントは、資本効率改善を促すべく、「PRB1倍」という分かりやすい指標を提示したことだ。今回の東証要請は、上場企業からの反応がとても大きい。私たちも運用者として、長期投資に堪える企業が増えることを期待している。

シュローダーでは、投資収益と社会全体の利益の双方を追求し、ESG要素で銘柄選択の精度を高めている。ESGの概念は、持続的な成長を実現できる会社を選別していく有効なツールだ。また、特にガバナンスに注目することで、リスクの高い企業への投資を回避できる。そして、企業が変化し、抱える課題を解決できるかどうかが、ESG投資では重要だと考える。

課題解決にはエンゲージメント、つまり「企業との建設的な対話」が必要だ。投資先企業と時間を共にしながら、年単位でESG課題の解決に取り組む。これにより株価や中長期的な企業価値にプラスの変化をもたらす。

シュローダーの日本株式運用では、ESGの課題に適切に取り組んでいる企業についてはプレミアムを加えて評価する。「シュローダー日本株式オープン」や「シュローダー日本株ESGフォーカス・ファンド」は、こうした考え方をベースに運用を行っている。

雨宮 インデックス運用は市場全体に分散投資を行うため、極端なリスクの偏りがなく、手数料も安い。投資の入り口としては非常によい方法だ。しかし、インデックスに追随するため、信託報酬を控除するとリターンはベンチマークを下回る。キャピタル・グループは、アクティブ運用を専業とし、信託報酬控除後で市場を上回るリターンを目指す。

日本経済•株式市場は長期低迷したが、実は個別企業ベースで見るとダイナミックに変化があった。これを捉えていくのがアクティブ運用だ。アクティブ運用は企業の将来を見る。日本には、優良企業であるにも関わらず、グローバルでは評価されていない企業がたくさんある。日本株式全取引量の約7割を占める外国人投資家が、何を見ているのかは非常に重要な視点だ。私たちが取り組んだ事例でも、企業との対話を通じて経営体制をグローバル化する、環境負荷への積極的な取り組みを英語でしっかり発信するといった改善が行われ、グローバルな投資家からの評価が高まったケースがある。一方、日本には十分な情報開示やアピールができていない企業がまだたくさんある。個人投資家が私たちのようなアクティブファンドに投資いただくことで、こうした企業の応援団となり、日本株式市場全体の底上げにつながると考えている。

 

【リレートークセッション 3】自然・人的資本を注視

加藤 秀一氏 HSBCアセットマネジメント 機関投資家営業本部 自然資本投資スペシャリスト
堀井 浩之氏 三井住友トラスト・アセットマネジメント 専務執行役員
聞き手 田中 太郎 日経BP 日経ESG経営フォーラム事業部 シニアプロデューサー

加藤 世界経済フォーラムの推計では、世界の国内総生産(GDP)の約半分である44兆㌦が、自然及びそのサービスと依存関係がある。しかし過去半世紀の間に、自然資本は急速に減少している。

森林では3割強が農地や牧草地などに変わり、世界の表土の3割強で劣化が進み、湿地の8割以上が消失。海洋の55%では商業的漁業が行われている。土地の劣化は微生物の多様性を喪失させ、保水性や二酸化炭素の吸収力を脆弱化させている。

こうした負の流れを止めるには、自然資本を評価する仕組みをつくり、消費者、企業、投資家といった全てのステークホルダーが行動変容を起こし、協調していく必要がある。自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)によるフレームワークの公表は、企業の情報開示を促し、自然資本へのインパクト投資を加速させる起点になるだろう。

パリ協定の2050年ネット・ゼロを達成するためには、8兆㌦の自然資本投資が必要といわれており、私たちのようなアセットマネジャーには、この地球を次世代につなぐための、責任ある投資行動が求められる。

自然資本投資には、持続可能な商業活動からのインカムに加え、資産価値の上昇や、カーボンクレジット、生物多様性クレジットなどの追加インカムも期待できる。日本の自然環境プロジェクトも、今後は投資対象になっていくことを期待したい。

堀井 人的資本経営とは、人を消費する資源としてではなく、投資によって価値が向上する資本と考え、人を生かす経営のことだ。人的資本やサステナビリティーに関わる企業の情報開示は、私たち投資家には非常にありがたい。

当社は15年から「MBIS」という独自のESGスコアに基づいて投資判断をしている。経営、事業基盤、市場動向、事業戦略の英語の頭文字を取った名称だ。人的資本関連の評価例は、「トップを補佐するマネジメント体制」「取締役会のダイバーシティ・スキルマトリックス」「パーパス、ミッション、ビジョン、バリューの徹底と企業風土との整合性」「組織運営の巧拙(課題認識の全社共有など)」「登用・評価・報酬体系の適切性・納得感」「現場力」「各種投資における人材の投入可否」などだ。エンゲージメントを通じてこれまでもスコアをつけてきた。

人は昔から企業の持続的な成長を大きく支えてきた。人的資本経営もサステナビリティーも、実は昔からある視点を整理して最近出てきたものに過ぎない。開示がスタートしたからといって、当社の見方が劇的に変わることはない。

とはいえ、比較的若い資産形成層が多いネット証券の利用者はESG感度が高く、来年から始まる新しいNISAでも、人的資本やサステナビリティーに注力する、洗練された企業に資金が回ることを期待している。

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