日本経済新聞社は9月16日にオンラインで「高校生SDGs(持続可能な開発目標)コンテスト」を開いた。同月11日〜16日に実施した「日経SDGsフェス」の一環で書類選考を通過した10校がプレゼンテーション。校則の見直しを生徒と先生が「最上位の目標」を設定することによって、理想の学校につなげたいという文化学園長野高等学校の取り組みが最優秀賞に選ばれた。
32校が参加、10校で最終選考
村上 芽氏 日本総合研究所 創発戦略センター エクスパート
石川 一喜氏 拓殖大学 国際学部 准教授
坂倉 杏介氏 東京都市大学 都市生活学部 教授
細谷 夏実氏 大妻女子大学 社会情報学部 教授
高校生SDGsコンテストは生徒がチームを組み、身近にある「変えたい」と感じる課題についてSDGs観点で考え、解決に向けたアイデアや取り組みを発表する。3回目となる2023年は全国32校からエントリーがあり、書類選考を通過した10校がオンラインでのプレゼンテーションに挑んだ。コンテストの模様はライブ配信。協賛4大学によるSDGsの取り組みも紹介した。
審査の結果、最優秀賞には文化学園長野高等学校が輝いた。審査員の村上芽氏は「民主主義におけるルールメークの本質を突き詰める姿勢に感銘を受けた。全国の学校が手本にできるような取り組みだった」と評価した。
優秀賞は、青森県立名久井農業高等学校。村上氏は「地球規模の課題に対して地道に研究を積み重ねて成果につなげている点に希望を感じた」と述べた。
拓殖大学学長賞は長野県佐久平総合技術高等学校に贈られた。審査員の石川一喜氏は「1つの課題を解決するために地域の人々と連携することで、より幅広い課題の解決につながっている」と活動を評価した。
【最優秀賞】文化学園長野高等学校
根拠なきルール 見直しへ
私たちが変えたいこと、それは校則だ。2019年に本校中学部に入学したが、制服や身だしなみに関する細かい規定に疑問を持った。根拠を周りに聞いてもはっきりしない。制服をジェンダーレスにしたいと多様性や公正さについて学びを深めたが校則を変えるには至らなかった。
そんな中、23年度に校則改正を提案できる唯一の組織として認められた「ルールメイキングプロジェクト」が発足した。私たちを含む生徒と先生、31人が参加している。
プロジェクトに参加して実感したのは、個人の好みを基準にしたルールメークは難しいことだ。ルールは自分と他人がお互いに権利を侵害することなく、共に生きるためにある。まず私たちの学校において「揺るがしてはいけない価値(=公正)」に基づく最上位目標を定め、それに反する現行ルールを見直すことにした。
最上位目標は、みんなが正しいと思える価値観や理想の学校生活を思い描き、①排除されている人たちがいない②自己決定の余地がある③TPOに配慮されている――の3点で合意した。これらに現行の校則や生活の手引きを照らし合わせて、合致しないものは改善していく流れができた。
根拠のない謎ルールは白紙にし、なぜ必要なのか説明できる規則だけ明文化することを考えている。生徒1人ひとりがモラルを身に付け、主体的に自己決定し、誰も取り残さない理想の学校へ、私たちの手で変えていきたい。
【優秀賞】青森県立名久井農業高等学校
7割節水で野菜を栽培
世界の人口増や気候変動に伴う食糧危機、水不足を意識して身近な学習の領域で、水を無駄なく利用して作物を育てる節水型ミスト栽培法を考案した。密閉容器内に少量の水と肥料を入れ、ミスト発生装置で容器内の根に定期的に吹きかけて栽培する方法だ。
実際にトマトやレタスなどを栽培したところ、従来の水耕栽培に比べて必要な水量を約7割削減でき、蒸発量も減った。消費電力や二酸化炭素(CO2)排出量も約9割削減。作物の収量は変わらず、高糖度なトマトも生産できた。
この栽培法なら持続可能な農業に貢献できる。途上国支援や月面基地での食糧生産などにも活用できるだろう。
【拓殖大学学長賞】長野県佐久平総合技術高等学校
酒粕、技術力で消費拡大
本校が位置する長野県佐久市は、古くから酒造りが盛んな地域だ。日本酒を造る工程で生じる酒粕(かす)を郷土料理に利用するなど、サステナブルな食文化を継承してきた。しかし、食生活の変化とともに酒粕の需要は低迷し、廃棄量が増えている。
そこで、私たちはSDGsプロジェクトとして廃棄酒粕の活用を宣言。酒粕を使用したラーメンの開発や、フリーズドライ技術による酒粕の粉末化などを通じて、酒粕を食べる機会を増やす取り組みを進めてきた。
学校給食に廃棄酒粕を使うことで、消費量拡大とともに伝統的な食文化の継承にも挑戦している。今後は海外にも酒粕の魅力を発信していきたい。
■ 大学プレゼン ■
【拓殖大学】 出会いと対話でスローに考える
SDGsという言葉はここ数年で広く浸透し、ほとんどの国民が認知しているといってもいい。特に「Z世代」である10代は内容まで含めた認知率が高いという。しかし、SDGsに積極的な関心を持っている人、実際にSDGsに関する取り組みをしている人はまだ限られている。
SDGsを知識として知っているだけでは、世界は変わらない。主体的に関心を持ち、具体的なアクションにつなげてこそ国際社会は動き出す。SDGsについて知るということは、行動することとセットになって初めて意味を持つといえる。
現在の10代は、SDGsが当たり前に存在するSDGsネイティブの世代だ。大学は彼らを迎えるにふさわしい「サステナブル・ユニバーシティ」を目指す必要がある。
拓殖大学は中長期計画「教育ルネサンス2030」の中で、基本戦略の1番目にSDGsを掲げた。具体的なアクションの1つとして、国際学部は学生向けにSDGs関連のドキュメンタリー映画をいつでも、どこでも見られるオンライン配信サービスを導入した。
映画を題材に授業をする中で気付いたのは、倍速再生で効率よく、都合よく学ぼうとする「学びのコンビニ化」が起きている一方で、自分の考えを他者の意見と対峙させながら思索を深めていくスローな学びを展開する学生がいたことだ。
SDGsについての学びを考えると、スローな学びに見られるような出会いと対話を重ねながら、17のゴールについて面的に考えていくことが大事だと思う。私のゼミでは様々な出会いや対話の場を設けるように意識している。
SDGsのキーフレーズである「誰一人取り残さない」とは、誰もが当事者であり、主体であるということを意味する。意識の高いZ世代が変革の主体になっていくことを期待している。私も彼らに元気をもらいながら協働していきたい。
【創価大学】学生の知恵募る 活動資金を補助
野村 佐智代氏 経営学部 准教授
1971年に開学した創価大学は、教育、文化、平和という建学の精神のもと、世界市民の育成に取り組んできた。2019年に「SDGs推進センター」を開設。30年に向けた中長期計画でSDGsへの先導的貢献を柱の一つに据えた。主専攻に加えて、文理横断でSDGsに関する専門科目を学べる副専攻制度も始めた。
学生から取り組みやアイデアを募集し、活動資金の一部を補助する「SDGsグッドプラクティス制度」もある。22年11月に実施したアンケートでは、約7割の学生がSDGs達成に向けて行動していると回答した。西浦昭雄副学長は「SDGs実現力を育む鍵となるのは、授業での学びと学生の主体性の組み合わせだ」と強調。大学としてこの流れをさらに後押ししていくとした。
経営学部・野村准教授のゼミで取り組む「ふくのきもちプロジェクト」は、22年のSDGsグッドプラクティス制度で優秀賞を受賞した。アパレル企業と連携して廃棄予定の生地からTシャツを作製し、大学生協の協力を得て販売。同時に使用済みの衣類を回収して新たなTシャツの原材料として再利用し、循環型でサステナブルなファッションの実現を目指す。
作製したTシャツは大学祭や環境系の展示会、地域のイベントなどで販売し、好評を得ている。「こうした実学の教育効果は大きい」と野村佐智代准教授。登壇したゼミの学生でプロジェクトリーダーの坂根遥香さんと中川貴裕さんは「活動を代々引き継ぎ、大学発のサーキュラーエコノミーを実現したい」と力強く語った。
【東京都市大学】つながりで変わる 次世代の商店街
私は人と人との「ほどよいつながり」を増やすことで「生き心地」の良い地域をつくる研究をしている。つながりからいかに新しい価値を生み出すかがポイントだ。こうした観点から、住み続けられるウェルビーイングな次世代商店街づくりに取り組んでいる。
ウェルビーイングとは、人間の心身が良い状態にあることを指す。良い状態は単に健康であるというだけでなく、肯定的な感情があり、良好な人間関係や、誰かの役に立っている、何かを達成できるといった感覚も重要とされる。1人ひとりの良い状態が街の良い状態につながり、さらに1人ひとりのウェルビーイングを高めていくという好循環を生み出したい。
商店街には近隣住民が出会うミーティングプレイスとしての可能性や、人々の居場所となり舞台にもなる公共空間としての潜在力がある。そこで、大学近くの「ハッピーロード尾山台(商店街)」と連携し、様々な試みを展開している。
まず歩行者天国の時間帯に道路にパイプ椅子を並べて、街のことを考えるゼミを始めた。そのうち小学校の校長や保護者など色々な人が興味を示し、歩行者天国の時間帯に様々な活動を行うようになった。そこで出会った人たちが、今度は立ち飲みバーや子ども食堂を開くなど、人と人とのほどよいつながりから多種多様な新しいことが生まれ始めた。
こうした動きを住み続けられる街づくりにつなげるため、学外研究拠点「リビングラボ」を設置した。1人ひとりの「こんなことをやりたい」という思いを起点に、個人の幸せが地域の未来につながるようなプロジェクトを実施している。
「ハッピーロード大作戦」では、色々な人の「やりたい」をかなえる舞台として商店街を開放した。皆に居場所があり、共に未来の暮らしを生み出していく。これがウェルビーイングな次世代商店街の在り方だと考えている。
【大妻女子大学】地域と連携して豊かな里海守る
世界第6位の長さがある日本の海岸線は、岩場、磯、砂浜など変化に富み、生物多様性の宝庫だ。その中で人の手が加わって、生物生産性と生物多様性が高まった沿岸海域を「里海」と呼ぶ。私たちは石川県の奥能登・穴水町で、この貴重な里海の保全に取り組んでいる。
穴水町と大妻女子大学は2018年に包括連携協定を結んだ。協力しながら地域の課題解決に取り組んでいる。
例えば江戸時代から伝わる「ボラ待ち櫓(やぐら)漁」の継承。現在は途絶えているが、資源にやさしい漁の復活に尽力している地元の方を大学に招いて漁のこれからを考えるイベントを開催した。
小学校では地元の海の生きものを題材に、体験型授業を実施している。カキの養殖を見学する「ふるさと学習」の機会には、学習内容をまとめた「うみいくカード」を児童と共に作成。地元のイベントなどで配布し、多くの人にカキについて知ってもらう機会をつくっている。
里海が豊かであるためには、里山の豊かさも大切だ。海沿いに自生するヤブツバキの保全に携わる鹿波(かなみ)椿保存会や穴水高校と共に「鹿波椿保存プロジェクト」に取り組んだ。プロジェクトで開発した「鹿波椿茶」は、穴水町のふるさと納税返礼品となっている。
こうした活動を広く発信し、能登の魅力を紹介するため、大学の文化祭では活動報告や能登の物産販売を行っている。穴水町でのイベントでも情報発信に努め、地元の高校生との意見交換会なども実施した。自治体、地域の人たち、大学が交流し、違った視点や立場から意見を交換することで、里海・里山の保全や地域活性化につなげていきたい。
SDGsの取り組みでは現場に出かけ、自分自身で実践し、体験することが大切だと考えている。その中で新たな人とのつながりができ、コミュニケーションが生まれ、取り組みの可能性が広がっていく。
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