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将来の「ポスト習近平」も強権主義か 中国史の必然 岡本隆司・京都府立大教授に聞く

歴史 リーダー論

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■「強権主義でない中国は中国らしくない」

中国共産党の習近平(シー・ジンピン)総書記(国家主席)への権力集中が波紋を呼んでいる。5年後の党大会でも続投すれば、次世代のリーダーが登場するのは早くとも10年後の2032年になる。香港の株式相場などでは中国の先行きに対する警戒感が出ている。しかし、「悪党たちの中華帝国」(新潮選書)の著者である岡本隆司・京都府立大教授は「強権主義でない中国の方が逆に中国らしくない」と言い切る。一党独裁の共産党政権が抱える課題は、隋・唐以来の歴代王朝と大きくは変わらないとも指摘。将来の「ポスト習」も必然的に自らへの1強に向かうと説く岡本教授に聞いた。

「悪党たちの中華帝国」に登場するのは、唐の太宗から安禄山、清末期の梁啓超まで約1400年の12人。いずれも時代の要請に応じようと苦心惨憺(さんたん)した末に「悪」の批判を受けた皇帝や権臣、思想家らだ。唐の太宗は、現代でもリーダー学の教科書とされる「貞観政要」の主人公で知られるが、「実は自分がどれだけ名君であったかを宣伝するプロパガンダ本だ」と岡本氏はみる。

100年後も続く「中国革命」

中国は総面積約950万平方キロメートル超、人口は約14億人で、約9割を占める漢民族以外に50以上の少数民族が存在する。中国の食卓を彩る豚肉料理は、ウイグルのイスラム教徒にはタブーだ。岡本氏は「もともと広域・多民族・多元的な国土を一元的に統合しなくてはならないから矛盾が生じる」と指摘する。歴代王朝の統治者は、分散的な住民をまとめ上げようと試行錯誤し、時に大きな改革や強権に訴えて、無理に無理を重ねざるを得なかった。悪評は免れ得ないわけだ。「統治システム上の課題は現代でも大きくは変わらない」と岡本氏。習近平氏が今回の共産党大会で唱えたスローガン「中華民族の偉大な復興」は、ナショナリズムの発露でありながら、はるかに過去の中華帝国の統治思想につながるという。

さらに岡本氏は、20世紀初めから近代化を目指した中国革命が、約100年後の現在も連綿と続いているとみる。辛亥革命(1911~12年)、新文化運動(17~21年)、北伐(26~28年)、日中戦争(37~45年)、国共内戦(46~49年)、大躍進(58~63年)、文化大革命(66~76年)、改革・開放(78年~)……。国内では「士」(=エリート指導層)と「庶」(一般民衆)に分かれた二元社会の是正、対外的には「華夷秩序」と国際秩序との矛盾解消といったテーマに中国は挑み続け、なお未達成というのが岡本氏の見立てだ。3期目に入った習近平政権のキーワードは「中国式現代化」。共産党創設(21年)以来の目標である国民国家の建設と統合が、いまだに実現途上にあることを告白したとも読める。

習近平氏は自己顕示欲の強い点では唐の太宗に、外交で威嚇的な面は明の永楽帝に通じると岡本氏は話す。どちらも全盛期の中華帝国を率いた皇帝だ。一方で個人の道徳的資質の問題ではなく、「中国というシステム」が必然的に統治者を権力主義者にしてしまうとも岡本氏は指摘する。「習近平は、自意識としては国民の統合・国家の統一という最低限を果たそうとしているだけなのかもしれない」(岡本氏)という。民主主義に背馳(はいち)することには間違いないが、多元的でバラバラな集団・人心にいちいち考慮していては、全体の秩序は保てない――。ともに反帝国主義をスローガンとした20世紀の蔣介石(国民党)や毛沢東(共産党)も、結局は皇帝システムに最も近い「党=国家」体制を採用して自らに権力を集中させた。

■日本とは異なる価値観・行動原理の大国

習近平政権で、もう一つの焦点となっているのが台湾問題だ。岡本氏は、歴史的に中国の周縁部は容易に中央政権に従わず、とりわけ外国がからむと体制・制度・思想ともにかけ離れる場合が少なくなかったと話す。近現代における英国と香港、日・米が関与した台湾は典型的なケースだ。そう考えれば「中華民族の復興」と「一つの中国」を目指す習近平が見逃さないのも納得できる。しかし、「台湾有事」が起きれば日本への影響は計り知れない。日本は米国などと協力して、台湾への武力行使のリスクを中国に認識させるべきだとの指摘は少なくない。

中国は日本とは異なる価値観・行動原理を持っている国であることをしっかり把握しておくべきだと岡本氏は警鐘を鳴らす。地理的に離れることができない隣国の大国ながら、意外に我々は中国を知らない。約2000年前「魏志倭人伝」(3世紀末)以来の交流の歴史があるが、9世紀末の遣唐使廃止からは、公的な政府間交渉は途絶えがちでなかれば険悪化するパターンばかりだった。元寇(げんこう)、文禄・慶長の役、日中戦争など大きな戦争も経験した。実質的な人的・物的交流は平清盛、足利尊氏らに代表される貿易事業や倭寇(わこう)、鎖国期の民間交易が担ってきたともいえる。

一方で、「普遍的価値」が日本に入ってきたのは明治時代に入ってからだ。基本的人権・国際秩序・民主主義・反帝国主義などが国際的なスタンダードになったのは20世紀前半。岡本氏は「日本人は普遍的価値を持しつつも絶対視することなく中国と向き合うことが必要だ。中国がどのような価値観を持ち、何をめざしてきたかの歴史を学ぶことが求められる」と強調している。

(松本治人)

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