NIKKEIブルーオーシャン・フォーラム

日本の発信 「海の脱炭素」軸に NIKKEIブルーオーシャン・フォーラム 第4回有識者委員会

海洋保全 脱炭素 講演 パネル討論

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日本経済新聞社と日経BPが2月に創設した「NIKKEIブルーオーシャン・フォーラム」は10月24日、都内のホテルで第4回有識者委員会を開いた。気候変動対策を中心とするシナジー(相乗効果)に焦点を当て、海運分野の温暖化対策と、海藻などの二酸化炭素(CO2)吸収に着目した「ブルーカーボン」の概念普及について、それぞれ商船三井、笹川平和財団の取り組み紹介を基にして議論。海洋保全を巡る日本からの国際発信を目指して同フォーラムが2025年までにまとめる提言では「脱炭素」を軸の一つに据える方向性が固まった。今後はテーマごとに分科会を設け、委員会と並行して議論の深化・集約を進めることも決めた。

グリーン海運、陸の知見で  人材不足は強みにも

温暖化対策の領域と海運・船舶の分野が結びついたシナジーを巡っては、新燃料開発など陸の知見を生かす「船のグリーン化」の加速を求める声が相次いだ。外洋データの収集など業界ならではの役割の大きさを複数の出席者が指摘。人材不足などの課題は、日本の技術力で強みに転じうるとの見方も出た。

冒頭、笹川平和財団理事長の角南篤共同座長は燃料・技術開発で不可避のコストや人材不足の問題に触れつつ「日本が無人化を率先して実証実験すれば強みになる」と指摘。世界を主導できる大きな規模の取り組みについて意見を求めた。

国連環境計画(UNEP)の本多俊一氏は「50年のカーボンニュートラル以降も天然資源に頼る部分は残る」として、技術を支える政策の導入・推進が急務だと力説。

デロイトトーマツコンサルティングの加藤彰氏は「船舶で中国・韓国にどう勝つかを考えるべきだ」と問題提起した。

東京大学の石井菜穂子氏は「企業、セクター、国を越え、バリューチェーン全体を動かす国際的試み」「サービス利用者全員でコストを負担する枠組み」が必要だとする書面回答を寄せた。

国際連携を促す声も相次いだ。サラヤの更家悠介氏は「船を持つ多くの国が参加しなければ進まない」と強調。商船三井の渡邉達郎氏も「サプライチェーンの真ん中にある海運業が脱炭素化できないと、人間社会全体でもできない」と力説し、国際的な意見形成に向けたイニシアチブに寄与する考えを示した。

東北大学の近藤倫生氏は物流とセンシングを組み合わせることで「海運ならかなり広い面積の生物多様性に関するデータが取れる」と分析。九州大学の清野聡子氏も海運を「外洋調査の主体」と位置付け、業界ならではの貢献に期待を示した。

現状が抱える課題では、海洋ゴミ削減の連携組織CLOMAの沢田道隆氏が「規制、ルールを見直せば一気にドライブする可能性がある」と提唱した。叡啓大学の石川雅紀氏も「規制・ルールの壁はプラスチックの資源循環プロジェクトで経験した」と、制度面の障害が小さくない現状に警鐘を鳴らした。

ニッスイの西昭彦氏は消費者理解の促進へ「鉄道輸送のエコレールマークのように海運の良さを可視化する」ことを提案すると共に、クリーンな新エネルギー開発へ、海運業界が国や世界へ働きかけるべきだと唱えた。

これを受け、レンゴーの古田拓氏は海運の運航距離の長さに対応できる「新燃料、新エネルギーの供給拠点」が未整備なことに触れ、政府主導の対応を促した。共同配送やトラックの電気自動車(EV)化などを進めるセブン&アイ・ホールディングスの宮地信幸氏は「物流の議論は参考にしたい」と共感を示した。

藤田香共同座長は「同様の問題に直面する陸をアナロジーとしてコストや制度を考える必要がある」と集約。関連の分科会を設けて研究を深める考えを表明した。

船の改善 コストは社会で

商船三井 渡邉達郎氏講演

海運を巡る議論に先立ち、商船三井の渡邉達郎氏が「船舶の脱炭素化に向けた取り組み」と題して講演した。業界の現状や自社の目標などを紹介。コスト面の課題克服が持続可能な事業展開のカギだと指摘した。

渡邉氏は貨物1トンを1マイル輸送する際、二酸化炭素(CO2)排出が陸や空より少ない海運が「大変効率的な輸送モード」と位置付ける一方、国際海運の排出量は年間7億トン程度で、全世界の約2%を占める現状を報告。国際海事機関(IMO)が2050年ごろまでに業界全体の排出ネットゼロを目指しているものの「国際間長距離航行が電化困難で、液体燃料を使うしかない」国際海運は「排出削減困難な産業の一つ」だと説明した。

その中でも、商船三井が21年6月「2050年ネットゼロ」の目標を他より早く発表したと強調。船舶の脱炭素化へ①風力推進デバイスなどを使った航海効率の改善で約20%削減②クリーンエネルギーへの転換により約70%削減③改善が難しい残り約10%はネガティブ・エミッションによる中立化―で達成を目指すという道程を示した。

課題としては、代替燃料船の船価が大幅に上がること、クリーン燃料が高額で長期購買が難しいことを挙げ「海運セクターだけでなく荷主、最終消費者まで含めた社会全体で、脱炭素化にかかるコストとリスクをシェアする仕組みの構築が必要」と訴え「他業界とも広く協働したい」という姿勢を表明した。

ブルーカーボンにも期待 市場整備、国の関与を

第4回有識者委員会は、温暖化対策と金融の連携が持つ可能性についても取り上げた。注目したのは海洋生物の二酸化炭素(CO2)吸収を脱炭素に生かす「ブルーカーボン」の概念。世界でも関心が高まる中、日本の取り組みを国際発信していくには規模の拡大が不可欠だとして、CO2吸収量を排出枠として取引する「ブルークレジット」の市場整備へ国の関与を促す意見が相次いだ。

議論では、ブルーカーボンの推進が他の分野に及ぼす相乗的便益(コベネフィット)に期待が集まった。東北大学の近藤倫生氏は「CO2を減らし、水産業の振興、生物多様性への貢献にもなる。生態系の機能を同時に高める一つの核のような役割」と潜在力の大きさを訴え、叡啓大学の石川雅紀氏は水産業とのシナジー拡大へ「沿岸漁業を対象にすれば比較的容易にけん引できる」と提案した。

サラヤの更家悠介氏はCO2吸収力の大きい海藻類の養殖に着目。「ブルーカーボンは日本の先進的な取り組み。世界を主導してほしい」と、関連ビジネスの今後の成長に期待を表明した。

一方で国内の関連事業の規模が未成熟なことを指摘する声もあがった。デロイトトーマツコンサルティングの加藤彰氏はまず日本全国を網羅すべきだとして「サステナブルツーリズムなどを通して生物多様性の向上策を自治体の人口増につなげるなどシナジー効果を生む」戦略策定を急ぐ必要があると指摘した。

CLOMAの沢田道隆氏は「コストを企業が負担すると思い切った投資はできない」と分析。内部留保を環境対応などに使えるための法改正を求める考えを示した。

BNPパリバ証券の中空麻奈氏は金融の視点でブルークレジットの現状に触れ「小規模なものが多く、投資家は誰にどう投資していいか分からないという分断が起きている」と説明。改善へ「国の関わりも必要ではないか」と提唱した。

国連環境計画(UNEP)の本多俊一氏は消費者を巻き込むことの重要性を強調。「生態系を保つために海洋汚染を止める」というメッセージ効果は大きいと論じた。セブン&アイ・ホールディングスの宮地信幸氏はこれを受け、「地域と共に海の保護・保全に取り組んでいく」という姿勢を示した。

一連の意見を踏まえる形で、日本経済新聞社の青木慎一編集委員は「日本の海洋生態系を守る取り組みは海外でも参考になる」という見方を示した。角南篤共同座長も「海外ではCMが登場するほど盛り上がっている」と、ブルーカーボンへの関心の高まりを紹介。さらに「世界が注目する大阪・関西万博で、日本から発信する準備を今からしていく」とも語り、日本の取り組みや情報を国際的に伝えていくことが急務になっていると力説した。

藤田香共同議長はブルーカーボンに「地域と共に考える教育効果もある」と評価した。そのうえで、2025年の提言をにらみ「気候変動、生物多様性、地方創生でシナジーを生み出せる」という論点を提起した。

 

海の排出枠 認証増える

笹川平和財団 渡邉敦氏講演

温暖化対策と金融の協働に関しては、笹川平和財団海洋政策研究所の渡邉敦上席研究員がゲスト講演し、議論の起点を提供した。海藻などの二酸化炭素(CO2)吸収力に注目し、海を舞台に国内で排出枠を設定する事業としてジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)が進める「Jブルークレジット」の認証件数が着実に増加していると報告。ブルーカーボンの関連ビジネス拡大への期待を語った。

世界の動向として、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)などで、マングローブや湿地という従来の領域に加え、海藻が関心を集めていることを指摘。そうしたブルーカーボンの浸透は「水質浄化や食料供給、種の保存などと相乗的便益も生む」と解説し、具体策の推進へ「事業の環境価値の定量化」が重要だと主張した。

定量化の一環といえるJブルークレジットも詳説。漁業者やNPO、自治体などの藻場創出・再生などCO2吸収効果がある事業を、他の企業・団体がオフセットのために購入できる排出枠として認証するもので、実績は「初年の20年度の1件(CO2吸収量計22.8トン)から3年間で21件(同3733.1トン)に増えた」と強調した。

規模が拡大すれば、海洋ゴミ削減に向けた代替プラスチックやバイオマス燃料への海藻利用も見込めると説明。温暖化ガス売買ルールを定める「パリ協定第6条」が制定されれば、国際取引も視野に入ると語った。

テーマ別分科会 始動 提言へ議論深める

この日の有識者委員会は2025年の提言発表をにらんだ議論深化を狙い、複数テーマで分科会を設けて23年内に討議を始めることを決めた。藤田香共同座長が説明、全会一致で確認した。

分科会は有識者委員会の今後の内容も踏まえてテーマを選定し、そのつど新設。各分野に詳しい委員を中心にオンラインで行う形式をとる。議論は非公開だが、全メンバーが集まる有識者委員会で進捗を共有する。各分科会はほぼ2カ月に1回のペースで3回程度開催し、最終回は提言素案の作成を目指す。

第1弾として設置するのは「水産資源チーム分科会」で、シーフードレガシーの花岡和佳男氏がリーダー役を務める。資源データの取得やその科学評価手法、地域の資源管理計画のあり方、金融分野との連携可能性、消費者理解の促進策などについて、世界で評価されるような国内事例を収集、研究したうえで提言の方向性を協議。24年3月までに当該テーマに関する提言素案をとりまとめたい考えだ。

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