昇進や昇給などでは動かなくなった部下の働き手を前に、「動かし方が分からない」と途方に暮れる上司・チームリーダーは少なくない。しかし、ポジティブに働いて結果を出すチームもある。『共感されるリーダーの声かけ 言い換え図鑑』(ぱる出版)を書いた、人材育成コンサルタントの吉田幸弘氏は「上司・チームリーダーの声かけ能力がチームのモチベーションを左右する」と説く。部下・チームメンバーにかける言葉の選び方を教わった。
慕われるリーダーに共通するのは、チームへの「語りかけ力」の高さだ。チームとの接点はいろいろあるが、対面でのトークは共感を引き出す度合いが違う。逆に、言葉遣いの不適切なリーダーは敬遠されがち。吉田氏は「声かけの際の言葉選びはリーダーの評価を決定づける」とみる。3年間を経てオフィスへ少しずつ人が戻ってきた今、対面での声かけスキルはますます重みを増している。
昭和の遺風を引きずった高圧的なチームマネジメントはもう許されない。命令口調は嫌われる。精神論は通じない。力任せの指示出しは即座にパワーハラスメントと非難され、上司・チームリーダーの立場を危うくしかねない。「チームを動かすのに加え、自分の立場を失わないためにも上司・チームリーダーは言葉選びを磨く必要がある」(吉田氏)。しゃべりが古い上司・チームリーダーは生き残れない時代を迎えつつある。
基本的なコツは「聞く側はどう受け取るだろうか」を先に考えてから、口に出すことだ。「きょうはいいリポートだったね」と「きょうもいいリポートだったね」はたった1文字の違いだが、受け取る側の印象は大きく異なる。前者は「いつもはたいしてよくないけれど、きょうはたまたま出来がよかった」とも受け取れる。つまり、暗に「日頃からもっとしっかりやれよ」「やればできるじゃないか」というマイナス評価を示しているとも読み取れる言い回しだ。
部下・チームメンバー側のこうした解釈を「勘ぐりすぎ」「被害妄想」などと感じるようでは、共感を得る上司・チームリーダーにはほど遠い。「言葉の意味は受け止めた側が決める」(吉田氏)ものだからだ。後者の「きょうも」は日頃から高く評価していることを示す。継続的に見守っている様子もうかがわせる。「も」の1文字が聞き手に寄り添う気持ちを示し、自然な共感を引き出す。「は」でいいか、「も」のほうが望ましいかを、口出す前に判断する資質がこれだけの結果の違いを生む。
日本の中間管理職は不幸だともいえる。求められる業務スキルを十分に学ぶ機会を与えられないまま、実績や在職期間などを理由にポストを押しつけられてしまうからだ。上司・チームリーダーにふさわしい言葉遣いはその一例だろう。だが、このスキルが乏しいと、不満や反発を招きやすい。チームの意欲が下がって、業務に支障を来すおそれもある。「言葉遣いは後からでも学べるスキル。ポジションに見合った言葉遣いを習得するのは、上司・チームリーダーに必須の学び」と、吉田氏は「後付け」のリスキリングを促す。