開業以来、国内外から累計4000万人超が訪れている東京スカイツリーで、アサヒグループホールディングス(GHD)傘下のアサヒ飲料が「二酸化炭素(CO2)を食べる自販機」を設置しCO2の資源循環に関する実証実験を2023年7月から始めた。自動販売機の飲料の取り出し口の後ろにある空間を活用し、CO2を吸収する特殊材をそこに搭載。自販機は周囲の大気を吸い込み、飲料を冷やしたり、温めたりしており、その大気からCO2を吸収する。1台当たりの吸収量はスギ(林齢56〜60年)に置き換えると約20本分の年間吸収量に相当するという。
「CO2を食べる自販機」で吸収したCO2を工業製品の素材として利活用することも視野に入れる。CO2を吸収した特殊材を肥料に配合し土壌に散布。また、コンクリートの原料として海中での藻場造成にいかし、海洋生態系に蓄積される炭素の「ブルーカーボン生態系」の再生を目指す。
実験は東京と大阪を中心に約30台で実施する予定だ。特殊材は既存の自販機内の空間を利用するから導入は容易で、全国にある飲料の自販機約220万台での設置も夢ではない。「CO2を食べる自販機」は、世の中をより良き方向へと前に進める地道な一歩だ。生活者向けの商品を提供するアサヒGHD。SDGsの取り組みは生活者と共に考え、実行することで、面展開になる。
グローバル企業として世界各地での知見も活用する。16年に買収した欧州のビール企業の一社、オランダのロイヤルグロールシュは、バイオマス発電時に発生する熱エネルギーの提供を受け、工場での天然ガスの使用で発生するCO2排出量を年間72%の削減につなげた。供給された熱エネルギーは、低温殺菌装置の加熱、ボトルやプラスチックケース洗浄機、建物内の暖房に使用している。
アサヒGHDは世界のグループ社員とSDGsの理念を共有し、持続的な企業価値向上を目指すアサヒグループフィロソフィ(AGP)を体現する取り組みを表彰する「AGPアワード」を開催、ロイヤルグロールシュが今年のグランプリを獲得した。「環境と事業を両立させる先進的な取り組みは欧州に学ぶことが多い」(勝木敦志アサヒGHD社長)。学びから「前へ」の一歩だ。
(編集委員 田中陽)
アサヒGHD・勝木敦志社長「おいしさと楽しさで、未来を元気に」
持続的な社会の実現と企業活動を一体となって進めないと、誰からも見向きもされない存在になるのは明白です。「Cheer the Future おいしさと楽しさで、未来を元気に」を掲げ、2つの統合の実現にむけて全社一丸となって進めていきます。もっとアサヒGHDがどのような未来、何を目指すのかという明確なストーリーを描く必要があると考えました。ステークホルダーとストーリーの共創をつむぎ上げ、新しい価値を提供します。
定量化、可視化しないことには評価もコントロールもできません。SDGsの取り組みがアサヒGHDの企業価値にどう影響するかが把握できる「価値関連図」を導入しました。すべてのステークホルダーにも私たちの事業が社会や環境の改善にどのようなインパクトを与えているか理解いただくことにつながります。
加速させることも大切です。今年2月に2050年に向けた地球環境の最大化を目指した「環境ビジョン2050」を4年ぶりに改定し、これまでの「地球環境にとってのニュートラル&プラス」から、地球によりポジティブな影響を与える野心的な目標を定めました。ありたい姿として「Beyondカーボンニュートラル」「容器包装廃棄物のない社会」「命を育む持続可能な農産物原料」「人と自然のための健全な水環境」の4つです。
アサヒGHDは100年以上にわたり自然の恵みを享受し、成長してきました。SDGsの達成年の2030年はあっという間に来てしまいます。その先にも地球社会から求められる課題は高くなるはずです。お客様も変わり、我々が変わらなかったら魅力的な商品は提供できません。未来に向けた事業の姿に変えていくことを誓います。