NIKKEIブルーオーシャン・フォーラム

「サステナブルシーフード」で水産業を成長産業に再生 シーフードレガシー ・花岡和佳男社長に聞く

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生態系や環境の持続性に配慮して漁獲・養殖される魚介類「サステナブルシーフード」が注目されている。世界の主要な漁業資源は約3割が乱獲状態とされ、日本でもサケやサバなどの不漁・価格高騰が日常生活に影を落とす。ソーシャルベンチャーのシーフードレガシー(東京・中央)は海洋保全に関するコンサルティングを手掛け、企業・行政機関に対して国際的に持続可能な水産ビジネスを設計・助言する。このほど発足した「NIKKEIブルーオーシャン・フォーラム有識者会議」のメンバーである花岡和佳男社長は、「水産経済や海洋環境保全、地域社会とともにサステナビリティーを実現する市場体制の構築が急がれている」と説く。

漁獲量は3分の1でも日本は水産大国

――サステナブルシーフードとは、将来も現在と変わらずに魚を食べ続けられるよう、漁獲量や環境に対し配慮して得た魚介類のことです。国連のSDGs(持続可能な開発目標)の目標14は「海の豊かさを守ろう」とうたっています。

花岡氏(以下敬称略)「日本の漁獲量はピーク時の3分の1、従事者人口は4分の1、国民1人当たりの水産物消費は過去20年で4割減少しました。しかし、日本は今なお世界第3位の輸入水産市場です。排他的経済水域(EEZ)内にも豊かな海洋生態系を持つ日本の水産業は、サステナブルシーフードの考えを取り込めば成長産業として再生できるポテンシャルがあると考えています」 

――世界の漁業資源は6割が利用され、3割の乱獲も考えると開発余地があるのは1割に満たないとの指摘があります。一方、金融界などでサステナブルシーフードに関する人材を積極的に採用する動きも出ているとか。

花岡「魚は自然界で産卵・生育し、人の手をかけずとも自然に増殖します。地球の表面積の7割を占める海洋に力を注ぎ、環境持続性と社会的責任を通じて水産業を成長させようとする各国や地域の動きは顕著になってきています。シーフードレガシーは世界自然保護基金(WWF)ジャパンなどと連携し、日本特有の環境に合わせつつ、国際基準を満たす解決策を水産関連の様々な企業に提供することを目標にしています」

――2015年にシーフードレガシーを設立しました。

花岡「自分は1977年に甲府市で生まれましたが、2歳半の時に父親の転勤でシンガポールに移りました。当時は日本企業のアジア進出が相次ぎ、通ったのは1クラス生徒40人で20クラス以上ある世界有数規模の日本人小学校でした。その後は渡米して2003年にフロリダ工科大学の海洋環境学・海洋生物学部を卒業しました」

「社会人になってからはボルネオ島でエビの養殖ビジネスを立ち上げました。海洋のマングローブ林を伐採せずにエビを放牧する一種の粗放農業です。その後日本へ戻り07年からNGO(非政府組織)で海洋生態系問題などを担当し、15年に独立しました。水産関連企業・金融機関・行政へのサポートや制度設計、プラットフォーム構築などを手掛けています」

国際基準に沿いつつ企業別にコンサルティング

――サステナブルシーフードの考えは国際NGOの間では以前から重要と捉えられていましたが、日本で普及し始めたのは最近のことです。シーフードレガシーの年商は約5億円で最近は業容が拡大しています。

花岡「ある総合商社には、まず課題の洗い出しから始め、1年以上をかけて持続可能な水産物の調達・運用・改善を提案しています。国際的な基準を画一的に押しつけるのは問題解決につながりません。直ちに修正できる点と、時間をかけて取り組むべき課題を判別して全体的なシステムづくりを支援しています」

「ESG(環境・社会・企業統治)投融資機関には、日本の水産市場の現状とグローバルサプライチェーンが直面するリスクの分析、ポートフォリオの組み替えなどを提案します。自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)で海洋を含む生物多様性に関する事業のリスクと機会に関する情報開示が求められています。金融界では海洋に関するサステナビリティー・リンク・ローンなどの動きも出ています」

――22年12月施行の水産流通適正化法(特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律)立案に、農林水産省・ワーキンググループの専門委員として参画しました。 

花岡「国内では20年の漁業法改正施行など国際的基準に沿った法律の見直しが進んでいます。水産流通適正化法はIUU(違法・無報告・無規制)漁業の水産物が日本市場へ流入するのを防ぐ法律です。IUU漁業は水産資源を悪化させ、ひいては絶滅危惧種も混獲して生物の多様性保全を脅かします。重量ベースで世界の約3割が違法・無報告で漁獲されたとの推計もあります。これまでは欧州連合(EU)が先行し、19年の『IUU漁業指数』で日本は152か国中133位との低評価を受けていました」

「乱獲と並んで、IUU、人権(海賊行為、漁業権を巡る紛争、児童・強制労働や人身売買)問題が、世界の水産業界の取り組むべき3大テーマとなっています。水産の流通業界は、IUU漁業に間接的ではあっても加担してしまうリスクを負いかねません。これまで以上に水産関連の企業にはサプライチェーンにおけるトレーサビリティー(製品の生産から消費までの過程の追跡)体制の確立が求められるでしょう。我々にはIUU漁業由来の水産物を自社のサプライチェーンから排除したい趣旨の問い合わせが、国内の流通業界などから寄せられています」

「大間マグロ事件」が映し出した国内水産業界の問題

――クロマグロ漁獲量の一部を県に報告しなかったとして、青森県大間町の水産物卸売会社社長ら2人が逮捕された事件について、日本のサステナブルシーフードの国際的な信用に関わる問題として警鐘を鳴らしています。

花岡「太平洋クロマグロの漁獲枠は、国際的な資源回復計画の対象となっており、日本は主導的な役割を担っていました。しかし、今回の事件は国際的な信用失墜につながりかねません。マグロを買い受けて市場で販売した静岡市の水産加工会社が『出荷元を信じるしかなく、ご迷惑をおかけした』とコメントした通り、今は客観性を担保する強固なトレーサビリティーのシステムが存在せず、十分な監査体制もありません。これが未然に防げなかった主因とみます。行政は水揚げ情報を電子的に収集するデジタルトランスフォーメーション(DX)の具体化を後押しし、水産業者や業界団体は不正ができないトレーサビリティーシステムを構築すべきでしょう。官民どちらもが『啐啄同機(さいたくどうき)』で進めるべきでしょう」

(聞き手は松本治人)

「NIKKEIブルーオーシャン・フォーラム」とは
海の環境を守り、その資源を正しく利活用する方策や仕組みを考え、内外に発信していく目的で、日本経済新聞社と日経BPは「NIKKEIブルーオーシャン・フォーラム」を設立しました。花岡和佳男氏など海洋に関連する多様な領域の専門家や企業の代表らによる有識者委員会を年4回のペースで開き、幅広い視点から議論を深めて「海洋保全に関する日本からの提言」を作成します。花岡氏は2023年5月に開催する「日経SDGsフェス」のパネル討論に登壇する予定です。

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